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咲いた月の下で #06

迎えた大晦日。



大掃除をしたり、年越し蕎麦を食べたり、紅白歌合戦を見たりするのが例年だが、受験生には関係なし。

瑛:じゃあな!来年はいい年にするぞ!

◯:おぅ、風邪引くなよ〜

瑛紗と挨拶して家路につく。




明日はいよいよ、両親に結婚のことを話す。


大晦日も正月も病院の忙しさは変わらないが、よほどのことがなければ家族持ちは優先してもらえるようで、全員家にいるはずだ。

特段の準備が必要なわけではないが、どうしても何度もイメージしてしまう。



自分と咲月のことだから、許さん、なんて言われることはないだろう。
ただ、いかんせん高校生、受験生。普通に考えたら、大学出るまで待て、といわれると思う。

4年経っても思いは変わらないと思ったからプロポーズしたけれど、今じゃないとだめなのか?には論理的な回答はない。
言ってみれば好き好き大好きという気持ちだけで突っ走っている。

〇:うーん、どうしたもんかな…

考えながら家まで歩いていると…

咲:どうしたの?

〇:うわっ、咲月!

咲:お帰り。〇〇って考え込むと周り見てないときあるよね 笑

〇:ごめんごめん。出かけてたの?

咲:うん、お母さんに頼まれて、お遣い行ってたんだ。うっかり伊達巻き買い忘れたんだって。

〇:主役クラスを忘れるとは 笑

咲:おっちょこちょいだよね 笑

〇:咲月のはお母さん譲りだったんだな。

咲:何を~!

笑い合いながら、家まで歩く。



咲:いよいよ明日だね。

〇:うん。なんて言われるかわからないけど、しっかり俺たちの思いを伝えないとな。

咲:なんだか緊張するね 笑

〇:また寝れなくなるんじゃない?寝坊するなよ 笑

咲:しないよ~もぅ 笑


ほどなく、家に到着。

〇:じゃあ、明日な。良いお年を…じゃなくて、良い年にしような。

咲:ん、それいいね。良い年にしよう!

〇:塾の友達のパクリだけど 笑


***


夜。紅白も我慢して勉強し、除夜の鐘がなる頃。

〇:そろそろ寝るわ。明日の予定は?

〇父:午前中の初詣と昼は菅原さん家と合同な。それくらい来るんだろ?

〇:あぁ、そのつもり。咲月も大丈夫だって言ってたよ。

〇父:そうか。まぁ、しっかり神様にもお願いしに行こう。

〇母:使えるものは使わないとね~

〇:神様相手になんて物言いするんだよ 笑

合格祈願と、家庭円満もお願いしておこうと思った◯◯だった。


***


明けて、元日。
お雑煮を食べ終わったタイミングで、チャイムが鳴る。


咲父:あけましておめでとう。今年も宜しくお願いします。

〇父:おめでとうございます。今年も公私ともによろしくお願いします。

普段は酒飲んでワイワイやってる親も、年始の挨拶はきちんとする。

うしろからヒョコッと顔を出した咲月。

咲:明けましておめでとう。今年もよろしくね。

〇:おう、おめでとう。こちらこそ。



〇母:じゃあ早速行きましょうか。

近くの神社まで、両家で連なって歩く。
ローカルな神社なので人出も多くなく、落ち着いて参拝できた。

咲:晴れ着の人もいる〜。いいな~、私も着たかったな〜。

咲母:ちょっと手間がかかりすぎるわねぇ。来年着るか、どのみち再来年は成人式よ。

咲:だよね~。

母娘の会話を横で聞く〇〇。咲月の晴れ着姿を想像して、なぜかちょっと照れる。

咲:私の晴れ着姿、見たい?笑

その様子を見て、コソッと聞いてくる。

〇:…めっちゃ見たい。

咲:…マジレスじゃん 笑

自分も照れてしまう咲月だった。

***

無事参拝を終え、帰宅。
引き続き、おせち料理を囲んでの食事会。
普通なら酒盛りになるところだが、医療関係者の繁忙期は勤務はせずとも待機せよ、ということになっているので、馬鹿騒ぎにもならず和やかに。

ひとしきり料理を食べ終え、食後のコーヒーを飲んだところで、話を切り出す。

◯父:今年は◯◯と咲月ちゃんにとっても、変化の年だなぁ。


◯:親父、ちょっとそのことで咲月と俺から話があるんだ。おじさんにも。

咲父:ん?どうした、改まって。


背筋を伸ばし、しっかりとした眼差しで父親を見て言う。


◯:もう、ストレートに言うんだけど、咲月と結婚したいと思ってる。二人で、決めたんだ。

咲:急だし、しかもいろいろすっ飛ばした話でごめんなさい。これまでずっと◯◯と過ごしてきて、これからもずっとそうしたいと思ったの。


◯:普通だったら、学生が何言ってんだ、受験に集中しろって言われるのはわかってる。でも、4年経とうが仕事に就こうが、俺達の気持ちは変わらないから、もう今が良いと思った。

咲:びっくりさせたと思うけど、許してくれると嬉しいです…

てっきり驚かれると思っていたが、親父は腕を組んで目をつむったまま何も言わない。
ぶっ飛びすぎてて、絶句、ということか?

〇父:…母さん、あれを持ってきてくれ。

ようやく口を開いたと思ったら、母親から差し出されたのは1通の封筒。

◯:…これは?

◯父:開けてみなさい。

そんなに分厚い訳では無い封筒を訝しげに開けると、そこに入っていたのは…



◯咲:こ、婚姻届!!!???

なんとそこには保証人欄にばっちり記載済みの婚姻届が入っていた。書かれていないのは、本人署名欄のみ。

咲母:うふふ、驚いた?

咲父:逆ドッキリ大成功、だな!

◯母:ちなみに◯クシィも買っちゃったのよ♪

ウキウキの笑顔で棚から分厚い本を取り出してきた。

◯:え、な、なんで?なんで結婚の話をするってわかったの??

想像と180度違う展開に、さすがに驚きを隠せない。

◯母:そりゃあ、あの不審な夜の散歩以降、あれだけ幸せオーラ醸し出してたらねぇ。何かあったことなんてすぐわかるわよ。

◯:マジか…

咲母:咲月は咲月で、ちょっと元気がないなと思ったらニヤニヤしたりオロオロしたり…わかりやすいったらありゃしない。

咲:えぇぇ…私そんなふうに見えてたんだ…

もう何度目かの、ゆでダコ咲月。

◯父:それで病院の休憩時間に4人で話してたんだよ。付き合いだしたにしては振り幅が大きいから、〇〇なら結婚まであるぞ、って。

◯母:そしたら楽しくなってきちゃって。いつ言ってくるかまではわからなかったけど、準備万端して驚かそうってなったのよ。

咲:◯◯のぶっ飛びも両親譲りだったのね…

開いた口が塞がらない◯◯と咲月を尻目に、大爆笑の4人。


◯父:まぁ、真面目な話に戻るが、◯◯と咲月ちゃんなら何も言うことはないさ。受験とか、学生生活がまだ続くところは、お前たちならちゃんとわきまえてやれるだろう?

◯:それはもちろん、そのつもりだけど…

◯母:ラストスパート、頑張らないとね。いきなり遠くの学校になって単身赴任とか、目も当てられないわよ。

◯:うん、それはわかってる。

咲父:いやぁ、ついに◯◯君が息子かぁ。

咲母:咲月は受験勉強と花嫁修業を一緒にやらないとね。

咲:は、花嫁…

やり方はともかくだが、ふざけているわけではなく、真面目に考えてくれたことが伝わる。

◯:親父、お袋、おじさん、おばさん、半人前の俺達を認めてくれてありがとう。咲月と二人で幸せになれるよう、頑張るよ。

咲:お父さん、お母さん、おじさんおばさん、ありがとう…私も頑張るね。

笑顔に涙。嬉しさと安心感がこみ上げてくる。

◯父:ま、細かい話は受験が終わって落ち着いてからだ。生活面はしばしこのままになるが、そこは別にこだわらないだろう?

◯母:あら、せっかく書いたのに婚姻届出さないの?

咲:わ、わたしもう菅原じゃなくなっちゃうの?展開早…

◯:今出したら受験の手続きとか訳解んなくなっちゃうんじゃないの?

咲父:それもそうだなぁ。大学の入学手続きの時に変えちゃうのが、一番良いのかな?

咲母:あー、結婚式とか披露宴とか、楽しみだわ。

話がまとまって、そこから先は幸せなワイワイガヤガヤが始まった。こうなると4人は止まらない。

二人は勉強もあるから、と宴会場ではない咲月の家へ移動することにした。

***

◯:いやー…びっくりした。まさかこんな展開になるとは。

咲:スゴいノリノリだったね…危うく今日で菅原姓とサヨナラになるところだった…

一息ついて、苦笑いの二人。

◯:まぁ、しばらくは親たちは盛り上がり続けるんだろうけど、親父の言う通り、俺達はまず目の前のことをちゃんとやらないとな。

咲:うん、そうだね。受験が終わる頃にはいろんなことが勝手に決まってそうだけど 笑

◯:それな 笑

大きな心配事を一つ越えて、安堵する◯◯と咲月。


咲:あっ。思い出した!

◯:うん?どうした?

咲:私まだ◯◯に好きって言われてない!

◯:…えっ?

咲:プロポーズとか、キスしたいとは言われたけど、直接好きって言われてない!

う~んと頭を捻る◯◯。

◯:そうだっけ?

咲:そうだよ!私もちゃんと言われたい!

ズイッと◯◯に詰め寄る咲月。

◯:あ、改めてって、なんか照れるな…

咲:ダメー!聞きたい〜!

◯:えー、じゃあ…

何故か正座に座り直す◯◯。咲月も満面の笑みで待てをする。

◯:俺は、咲月のことを…


◯:愛してます!

咲:◯◯〜!!!

咲月に飛びつかれ、押し倒される格好に。
しばし抱きつかれたまま、ゴロゴロじゃれあっていた。

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