AKB48「恋するフォーチュンクッキー」歌詞深読み。世のオジサンたちが、秋元康のやさしさに気づいたなら
■「せっかく総選挙1位になったのになんで…」泣くほどショックだった「恋するフォーチュンクッキー」
「恋するフォーチュンクッキー」（2013年8月21日リリース）は、AKB 32ndシングル選抜総選挙で初めて1位に選ばれた指原莉乃（HKT48）がセンターを務めたAKB48の代表曲のひとつである。初期AKB48のヒット曲といえば「ヘビーローテーション」や「フライングゲット」というBPM150～160程度のテンポの速い楽曲が挙げられるが、この「恋するフォーチュンクッキー」に関しては、少しテンポを緩めて万人が踊れるようディスコチックなアレンジが特色である。
秋元康はアレンジの直しを50回くらい依頼するほどの拘りがあったのだが、当初デモテープを聴いた各メンバーは戸惑いが隠せなかったという。特に研究生から這い上がり、姉妹グループから初の1位獲得という離れ技を成し遂げた指原にとっては、アイドルらしからぬ楽曲に相当なショックを受け「こんな曲じゃ売れない！こんな曲じゃ嫌だ！」と、秋元康の前で泣いたそうだ。
みんな楽屋で一緒に聴いたときに、小嶋陽菜さんが「これ、カップリング曲じゃないよね？」って言ったんですよ
アイドル曲ってアップテンポで掛け声かけたりするじゃないですか。（恋するフォーチュンクッキーは）ちょっとスローだったんですよ。でも、指原のキャラからして、あの曲で踊ると思っていた
選抜総選挙1位に指原が選ばれたことにより、用意してた楽曲を急遽変更するほど指原の可能性を信じていた秋元康。
僕はAKBの中では指原莉乃を推しているんです
指原莉乃というのは、これはみごとにダメなんですよ。結果を出さない奴なんですよ
指原の、なんかこの全然ダメ感が、日本を元気にするような、あいつだって頑張ってるんだからという…
秋元康は2010年あたりから、指原莉乃の話題を、雑誌の取材やトーク番組などに絡ませている。大島優子、前田敦子、など“神7“（かみセブン）と呼ばれるアイドル集団の牙城に喰らいつく研究生スタートの指原の姿を、一番近いところで応援していたのは意外と秋元康じゃないだろうか？きっと、回を追うごとにシングル選抜総選挙で順位を上げていく指原の下剋上に一番期待していたのは秋元康だろう。
■「恋するフォーチュンクッキー」の主人公は、指原莉乃でありAKBグループメンバー全員のことである
さて、「恋するフォーチュンクッキー」の歌詞なのだが、ここに登場する女の子とは間違いなく指原莉乃のことでありAKBグループに所属する全員のことだ。そう、この曲の歌詞は、AKBグループのメンバーとファンをモチーフにした限りなくノンフィクションに近いシングル選抜総選挙の物語なのである。
あなたのことが好きなのに
私にまるで興味ない
何度目かの失恋の準備
Yeah！Yeah！Yeah！
まわりを見れば大勢の
可愛いコたちがいるんだもん
地味な花は気づいてくれない
Yeah！Yeah！Yeah！
「♪あなたのことが好きなのに」の”あなた”とはAKBグループを取り囲む多くのファンのことであり、何度目かの失恋とは、もちろん選抜総選挙における落選を意味している。絶対エースの前田敦子と大島優子というAKBの双璧は圧倒的で、しかもその周りを神７と呼ばれる可愛いコたちが取り囲む。総選挙が始まった当初は「研究生スタートの地味な私になんか誰も気づいちゃくれない」と指原が嘆くのもわからないではない。同じように多くのメンバーが自分のことを卑下して苦悩している様子を秋元康は心配していたのだろう。
あなたにちゃんと告りたい
だけど自分に自信ない
リアクションは想像つくから
Yeah！Yeah！Yeah！
性格いいコがいいなんて
男の子は言うけど
ルックスがアドヴァンテージ
いつだって可愛いコが
人気投票1位になる
プリーズ プリーズ プリーズ オーベイビー
私も見て
「♪あなたに告りたい」つまり「私に投票して！」というほどの自信が自分には無いし、馬鹿にされるのがオチである。「アイドルは見た目が一番、男の子は可愛いコが良いに決まってる…でも、私のことも見て！」という悲痛な叫び。これは、総選挙にチャレンジするグループ全員の心持ちに違いない。これはトップを争っていた前田敦子と大島優子も同じのはずだ。そんな不安でいっぱいの気持ちを抱えていても、客席に笑顔を振りまくアイドルという職業は実に難儀である。
さて、ここまでで「恋するフォーチュンクッキー」が、シングル選抜総選挙のことを指していることが分かった。恋する女の子に向けた元気ソングという表面上の歌詞だが、それはAKBグループ全員に勇気を与える応援ソングでもあったのだ。
前置きが長かったけれど、ここからが本題である。
AKBグループ全員に勇気を与える応援ソングのその先には、さらに深い意味が隠されていると僕は考えたのだ。そう、「恋するフォーチュンクッキー」とは、もっと多くの悩める人たちの心を軽くして生きる喜びを感じてもらおうという、世の中にたくさんいるオジサンたちへのメッセージソング…という見立てが僕の深読みである。散りばめられた言葉を拾い集めると、その意味に気づいてもらえるだろう。
■「ツキを呼ぶには笑顔を見せること」とは、万人に通じるパワーワードである
世のオジサンたちは疲れている。そりゃもう毎日山積みの仕事に追われて疲れ切っているのだ。家のローンはまだ20年以上残っていて、子どもの教育費も馬鹿にならない。それゆえに、少ないお小遣いでやりくりしなければならないのだ。お昼はコンビニのおにぎりか𠮷野家の牛丼。ビールは発泡酒を選び、週刊誌や漫画は立ち読みで済ませる日々である。よっぽど独身の若い社員の方が金持ちなのに、たまに上司として飲みに連れて行くときは、コツコツ貯めた小遣いから奢るのである。
「あぁ…毎日つまらないな…」などという嘆きを心に仕舞い、妻のため、子どものために、オジサンたちは身を粉にして働くのだ。そりゃあ笑顔も少なくなるし、毛は抜けるし、顔の皺（しわ）も多くなるはずである。
そういうサラリーマンの悲哀を秋元康が知っているか？というと、ちゃんと知っているのである。アイドルプロデューサーだったり、とんねるずと馬鹿やったりしてテレビ画面に出てくるけれど、裏方として世の情勢に疎かったら生きていけない世界の第一線で長年活躍し続けている人である。そういうアンテナは、僕らの想像をはるかに超えて敏感なはずである。
カフェテリア流れるmusic
ぼんやり聴いていたら
知らぬ間にリズムに合わせ
つま先から動き出す
止められない今の気持ち
カモン カモン カモン ベイビー
占って
外回りで疲れ切った身体を一番安いブレンドコーヒーで癒しているとき、ふと思う。
「なんか良いことないかなぁ…」
ていう瞬間…あるよね（笑）
そう、この一節から恋に悩む女の子だけじゃなくて、しょんぼりしているオジサンたちも含めた歌詞に切り替わっているのだ。
秋元康がそんなオジサンたちに贈る言葉が
ツキを呼ぶには笑顔を見せること
である。
秋元康は恋に悩む女の子と、自分に自信がないAKBグループのメンバー…そして毎日に疲れ切ったオジサンたちを同時に元気づけてくれる…「♪未来はそんな悪くないよ」「♪運勢今日よりもよくしよう」「♪人生捨てたもんじゃないよね」「♪あっと驚く奇跡が起きる」「♪そんなにネガティブにならずに」「♪世界は愛で溢れているよ」「♪悲しい出来事忘れさせる、明日は明日の風が吹くと思う」
…どうだろう、恋する女の子を元気づける歌詞だと思っていた言葉が、実はオジサンたちの毎日も明るく照らそうとしているのだ。もちろん現実の厳しさに晒されているオジサンたちを軽々しく占いでどうこうしようなんてことじゃない。ただ、”ツキを呼ぶには笑顔を見せること”っていうのは、とても大事な心構えだと思うし、大切なことなんじゃないかなぁと感じるのだ。
ツラいのに笑顔を見せる”から元気”なんて…て思うかもしれない。けれど、毎日毎日暗い顔していたら運勢は悪くなる一方じゃないかな？
■「恋するフォーチュンクッキー」は単なる応援ソングではなく、運命は自分で変えられるという希望の歌
歌詞の最後、秋元康はこうまとめている。
人生捨てたもんじゃないよね
あっと驚く奇跡が起きる
あなたとどこかで愛し合える予感
勘のよい人はもうわかっているだろう…一番最後の「♪あなたとどこかで愛し合える予感」の”あなた”とは自分自身のことである。
フォーチュンクッキーの「fortune」とは運命、幸運の意であり、丸く伸ばしたクッキーに占いが書かれた紙を挟み、それを二つ折りにして焼いたお菓子がフォーチュンクッキーのこと。その形はちょっとハート形に見えるよね。
秋元康がこの歌詞に込めた想いとは、自分の運命は自分自身を信じること…つまり自分自身を愛することから始まるってことだと思う。フォーチュンクッキー…つまり、ハートを信じろってこと。
僕はこの「恋するフォーチュンクッキー」という曲にすごく元気をもらった。12年務めてきた飲食店が閉店して職を失い、東日本震災の影響で再就職できず、慣れない営業の仕事で食い繋いでいるときによく聴いていたのだ。その後に僕は新たな飲食店を任されることになるのだけど、それはまた別の話。
ここまでを振り返りながら、ぜひ「恋するフォーチュンクッキー」を聴いてみて欲しい。じっくり歌詞を味わいながら聴いてみると、悲しい出来事で塞ぎこんでいる気持ちが晴れて、ちょっと元気が出てくると思う。明日は明日の風が吹く…じゃないけど、ちょっと気持ちが軽くなったら無理やりにでも笑顔を作ってみよう。ツキを呼ぶには笑顔を見せること…なのだから。
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