2023年上半期ボカロ10選を紹介したい
お久しぶりです。なのさPです。半年ぶりに文章を書いています。個人的に忙しい日々が続いていたので、中々更新することができていませんでした。実はもう少しだけ忙しい状況が続くのですが、そろそろ復活したいなと思って、いま記事作成のページを開いています。
私の話はどうでもいいですね。さて、2023年の上半期がすでに終了してしまいました。2023年の上半期もボカロシーンは様々な出来事と多くの楽曲が生まれるなど話題豊富な半年間だったと思います。そんな上半期に投稿されたボカロ曲のうち、私のお気に入りの10曲を紹介していきたいと思います。ではどうぞ!
(ヘッダー画像はAyaseさんの『HERO』の一部から拝借しています。初音ミクの横顔って良いよね)
『THUNDERBOLT』jon-YAKITORY
1曲目に紹介したいのはこちら、jon-YAKITORYさんの『THUNDERBOLT』です。この曲は、今年の2月から3月にかけて開催された初音ミクの国内ライブツアー「初音ミク JAPAN TOUR 2023 〜THUNDERBOLT〜」のテーマソングとして書き下ろされました。
この初音ミクJPツアーですが、初音ミクのライブとして久々に声出しが解禁されたライブでありました。また、国内5都市を巡る全国ツアーとして開催されたこともあり、各地のファンが集うイベントにもなりました。
そんなライブのテーマソングとして書き下ろされたこの曲ですが、やはりライブの雰囲気らしくエネルギッシュなVOCAROCK調で構成されていきます。駆け抜けていくようなアップテンポな曲調は、どことなくヒーローもののアニソンを感じさせてくれます。メインビジュアルのミクもクールな印象で、まさに主役のヒーロー感があります。
エネルギッシュな曲調は聴いていると元気があふれてきますが、さらにこの曲の強さを高めているのがまっすぐな歌詞です。特に好きなところとして、2番のBメロのこの歌詞です。
泣きました。決して明るくない情勢を、声を出すことさえ困難になる世界を、誰かに会うことすらできない世界を全部吹き飛ばして、ミクが「会いに来た」んです。本当、ミクが助けに来てくれたみたいな感覚を味わいました。まるでヒーローです。
ちなみに、この曲はライブでは1曲目に演奏され、無事に私の涙腺をぶち壊してくれました。最高。
『花呼ぶ声』kemu
2曲目に紹介したいのはこちら、『六兆年と一夜物語』『インビジブル』『拝啓ドッペルゲンガー』などの人気作で知られるボカロP、kemuさんの『花呼ぶ声』です。
曲の話に入る前に、この曲のボーカルを担当しているPOPYとROSEについて説明させてください。POPYとROSEはガールズバンドプロジェクトの「バンドリ!」と歌唱ソフト「CeVIO AI」のコラボプロジェクト「夢ノ結唱」によって生まれたバーチャルシンガーで、Poppin'Partyのギターボーカルの戸山香澄(CV.愛美)の声を学習したPOPYと、Roseliaのボーカルの湊友希那(CV.相羽あいな)の声を学習したROSEという2人のシンガーが2022年の12月に販売開始されました。
この2人の販売に先駆けて夢ノ結唱では、決められたお題に対して物語を作って楽しむサイト「monogatary.com」と即興アニメの制作を競う「作画王グランプリ」とのコラボ企画を実施。monogatary.comにおいて「夢ノ結唱」をお題にした物語を募集し、大賞を獲得した作品をもとにkemuさんが楽曲制作を行うという大きな企画が実施されました。また作画王グランプリでは完成した楽曲をもとに動画を制作するコンテストが開催されました。販売前から気合が入りまくっている。 今回kemuさんが投稿した『花呼ぶ声』は、このコラボ企画で大賞を獲得した台形さんの『Blooming Song』をもとに制作された楽曲となっています。夢を追う全ての創作者に読んでほしい物語です。
そんな素敵な物語をベースに生み出されたこの曲は、煌びやかな印象とkemuさんらしい力強いビート感が聴く人を魅了してくれます。また、「バンドリ!」の楽曲らしさとも言える正統派バンドサウンドらしさもあり、特徴的なギターリフが非常に印象に残ります。そこにPOPYの明るくかわいらしい歌声とROSEのクールで美しい歌声が加わることでさらに希望溢れるイメージを感じさせてくれます。夢ノ結唱の2人に自分の夢を託してみたい、そんな風に思わせてくれる優しく美しい一曲です。
『花に風』バルーン
次に紹介したいのはこちら、バルーンさんの『花に風』です。この楽曲は、「初音ミク×ソニーストア 『360 Reality Audio』」のイメージソングとして書き下ろされました。バルーンさんが初音ミクを使用した楽曲を投稿するのは、2016年の『朝を呑む』以来となります。
バルーンさんの作風の一つに、『シャルル』や『雨とペトラ』のように感傷的な思いをハイテンポなメロディーに乗せて歌うというスタイルがありますが、この『花に風』にもその作風が存分に反映されています。疾走感溢れる曲調にミクの伸びやかでどこか儚げな歌声が印象的です。特にサビの聴き手に感情を訴えるような歌い方が忘れられません。
曲調だけでなく、歌詞にも強い感情が随所に表れています。例えば、サビの歌い出しには「行かないで!」と感嘆符まで付いた強い表現が用いられています。
「未来からやってきた」初音ミクという歌手に「先なんて見据えないで」と歌わせるこの歌詞、かなり挑戦的だと思います。しかも公式タイアップ曲で。
こちらはサビ後半部分の歌詞です。「他なんてどうだっていいのさ」「独り善がりの愛でもいい」と、独占欲にも近い感情が渦巻いているのが読み取れます。考え方によっては、初音ミクからのメッセージとも取れるかもしれません。
この曲のMVを担当したのは、『シャルル』『パメラ』などのバルーン楽曲のMVを多く手掛けるアボガド6さん。バレエや手話の要素を取り入れたMVが楽曲を彩ります。ちなみに、MVに登場する手話はコメント欄で解読がなされています。黄金タッグとも言える、バルーンさんとアボガド6さんの手掛けた作品となっています。
『コンペイトウさん過激派』STEAKA
4曲目に紹介したいのはこちら、STEAKAさんの『コンペイトウさん過激派』です。STEAKAさんは、『スコーピオンガールの貴重な捕食シーン』『ツイッターランド』『ドーピングダンス』など中毒性の高いVOCALOEDMを中心に投稿しているボカロPです。その中毒性の高さから「電子ドラッグ」「驚異的な中毒性」などのタグが付けられることも多く、ファンを虜にしてきました。そんなSTEAKAさんが夢ノ結唱のPOPYを用いて制作したのが『コンペイトウさん過激派』です。
ちなみに、この曲はPOPYの1st Album「Infructescence」の1曲目として収録されています。STEAKAさんだけでなく、r-906さんやナナホシ管弦楽団さんなど、多くのボカロPの楽曲が収録されている豪華アルバムとなっていますので、POPYが好きな方は絶対に買いましょう。
ざらめゆきさんが担当したサムネイルのPOPYからも伺えるように、キラキラした曲調がベースにありながらも、STEAKAさんらしい電流を走らせるようなサウンドが散りばめられており、聴く人にビリビリとした快感を与える一曲です。歌詞を引用するなら「火花が宙を舞ってくみたい」な曲と言えるでしょうか。
ボーカルのPOPYにもエレクトリックなエフェクトがかかっており、先に紹介した『花呼ぶ声』のPOPYとはまた異なった印象を与えてくれます。より電子音らしさを強調することで、逆に違和感なく聴くことができます。サビの跳ねるような歌い方や終盤の伸びなど、POPYの良い部分を引き出しながらもSTEAKAワールドにマッチさせる手腕は流石だと思います。一度聴いたら病み付きになってしまう一曲です。
『匿名M』ピノキオピー
「2023年上半期の衝撃作」を教えてください、と聞かれたら間違いなく答える一曲、ピノキオピーさんの『匿名M』です。ピノキオピーさんと言えば『愛されなくても君がいる』『君が生きてなくてよかった』『ボーカロイドのうた』などVOCALOIDという存在に向き合う曲を多く世に出しているボカロPですが、これまでの楽曲からは中々考えられない表現方法でVOCALOIDに向き合う一曲が出現しました。それが『匿名M』です。
まず、曲の構成としてクリエイターのARuFaさんが初音m…匿名Mさんにインタビューする形が用いられています。ちなみにARuFaさんがピノキオピーさんの楽曲に関わるのは『ゴージャスビッグ対談』以来となります。
そんな独特な曲構成が、歌い出しからいきなり顕著に表れます。
インタビューに淡々と答えていく匿名Mさんは、自らが人間ではないことを意識させてきます。挙句の果てには自らが「ただの音楽ソフト」であることを認めます。
ここまで匿名Mさんの非人間性を強調する曲は今まで多くなかったのではないでしょうか。MVもインタビュー記事を思わせる構成と見せかけて、サビでは終末世界に佇む匿名Mさんが現れるなど、作り物であることを印象付けてきます。しかし、単に皮肉るだけで終わらないのがピノキオピーさんの世界。最後のサビの歌詞にはこんなフレーズがあります。
命すらない存在に、無数の思いが込められている。VOCALOIDの文化をこれ以上なく表現しているフレーズだと思います。『君が生きてなくてよかった』と同様、命がないからこその美しさを感じさせる一曲です。本日は貴重なインタビューありがとうございました。
『ムキブツとユーキブツ』いえぬ
ここからは、ニコニコ動画で開催された楽曲投稿祭「The VOCALOID Collection ~2023 Spring~」(ボカコレ2023春)に投稿された楽曲について触れていきます。ボカコレ1曲目は、いえぬさんの『ムキブツとユーキブツ』です。先に言っておきます。この曲はイヤホン・ヘッドホン必須です。
いえぬさんは2022年に『ボーカロイダー』でデビューしたボカロPで、楽曲だけでなくイラストやMVも手掛けるマルチなクリエイターとして活躍しています。ボカコレ2023春はルーキーランキングに参加をしていました。この『ムキブツとユーキブツ』は3作目にあたります。実際に読み取れるQRコードや過去作の要素など、ギミックの散りばめられたMVもいえぬさんが制作をしています。
先の『匿名M』を私は「非人間性を強調する曲」と表現しました。これに対して『ムキブツとユーキブツ』は「非永続性を強調する曲」と表現したいと思います。
ポップな電子音で構成されたサウンドには、ほんの一瞬で崩れてしまいそうな脆さがあり、間奏で使われるピアノソロもどことなく不安定な雰囲気を感じさせます。儚げなミクのボーカルも曲の脆さを感じさせ、ミクの無機質さが印象深く残ります。さらに、その一種の脆弱性を感じさせる要素は歌詞にも表れてきます。
「結局一〇〇〇年後にキミの意味なんてない」「いつか電源が落ちる」など、命の終わり、死を意識させる表現が散らばっています。この世に存在してしまった以上、向き合わなければならない自らの非永続性を突き付けてきます。そしてそれは、無機物である機械、有機物である人間、どちらにも平等に訪れるものとして描写されます。
存在できる時間には限りがある。それでも「楽しんで生きて行ける」ことを思い出させるフレーズが終盤に登場します。いつか訪れる終わりの瞬間を否定せず、ムキブツもユーキブツも生きることができる、脆くも美しい「ほんのちょっとの想い」を託し合うことができる、そんなことを思わせてくれる一曲です。これからもミクが隣でこの曲を歌ってくれることを夢見てます。
『ダストトレイル』Noz.
ボカコレ2023春からの2曲目、Noz.さんの『ダストトレイル』です。ボカコレTOP100ランキングでは5位を獲得しました。Noz.さんは『ヘッジホッグ』や『知らぬがイム』『バラードじゃ物足りないわ』などスタイリッシュなボカロ曲に定評のあるボカロPです。特に『ヘッジホッグ』は「マジカルミライ2023」の公式アルバムに収録もされ、話題を呼びました。
そんなNoz.さんがボカコレ2023春に投稿した『ダストトレイル』はNoz.さんらしい力強いロックで構成されています。ボーカルはお馴染み鏡音リン。Noz.さんのリンは鏡音リンのポテンシャルを最高に発揮しており、これ以上ないパワフルな歌声を響かせてくれます。また、コーラスにはNoz.さん自らが参加しており、特にサビでは2人の息の合った歌声を聴くことができます。2人の力強いボーカル、正統派バンドサウンドを中心とした疾走感溢れるロックサウンド、最強です。
そんな強いサウンドに乗せて歌われる言葉にもまた溢れんばかりの想いが込められています。
「あなたの横でさ ラブソングを歌わせて」「あなただけどうか生きていて」愛する者に対するまっすぐな想いが飾らない言葉で綴られています。飾らない言葉と力強いサウンドが組み合わさることで、曲そのものが誰かの叫びのようにも聞こえてきます。ボカコレ2023春の最強VOCAROCKと言っても過言ではないでしょう。
『一千光年』いよわ
ボカコレ2023春3曲目として紹介したいのはこちら、いよわさんの『一千光年』です。TOP100ランキングでは堂々の2位を獲得しました。いよわさんと言えば『きゅうくらりん』や『1000年生きてる』など独特なポップさのある楽曲で知られ、ボカコレ2022秋では『熱異常』でランキング1位を獲得するなど大きな話題を呼びました。
そんな前回の覇者でもあるいよわさんがボカコレ2023春に持ってきたのは、誰よりも強い愛の歌でした。
使用した歌声ライブラリは総勢11名、当時のいよわさんの有しているライブラリが全員使われています。イントロから始まるミクの歌声、交代しながら主旋律を歌ういよわ家のボカロたち。初見時の衝撃は忘れられません。特に、曲の最初から終盤まで続くミクの旋律は、合成音声だからこその表現と言えるでしょう。
「そばにいても」「離れていても」「生きていても」「死んでいても」、どんな形であっても「愛があるだけ」と言い切る想いの強さ。たとえ現実世界に存在していなくても、この愛だけは変わらない。そんないよわさんの合成音声たちへの想いを感じる表現が歌詞には散りばめられています。正直、今の私にこの曲の想いの強さ、この曲の良さを正確に書き記すことはできません。だからせめて、この曲が「一千光年先」まで届くことを祈りたいと思います。
『ライアーダンサー』マサラダ
ここからはボカコレではなく平常時に投稿された作品に戻ります。次に紹介したいのはマサラダさんの『ライアーダンサー』です。2023年上半期の大きなニュースとして、UTAUライブラリとして人気の重音テトが新たにSynthesizerVとして開発され、重音テトSVとして販売が開始されました。嘘の歌姫が本当の商業ソフトになったこと、デモソングとしてOSTER projectさんが制作した『エイプリルスター』のクオリティの高さなど、発表直後から大きな話題を呼びました。
この重音テトSVを用いて制作された楽曲が『ライアーダンサー』です。なんとマサラダさんの初投稿作となっています。スピード感のあるダンスナンバーで、何度も聴きたくなる中毒性があります。聴いていると体を揺らしたくなる一曲です。また、曲の要所で差し込まれる効果音も曲の楽しさを増幅させてくれます。サビではコールアンドレスポンスを意識させる「ライアー!ライアー!」の掛け声もあり、すでにボカクラ(各地で開催されているボカロ特化型クラブイベント)ではコールで盛り上がっているようです。
コミカルな動きや表情、サビのマネしたくなる(?)踊りなど、印象的な要素が多く取り入れられているMVもマサラダさんが制作しています。非常にクオリティの高いMVとなっていますので、ぜひ音と映像の両方を楽しんでみてください。
ちなみに、曲のコミカルさ故か、はたまた盛り上がるリズム感故か、ニコニコ動画では二次創作MAD作品が多く投稿され、ちょっとしたブームを巻き起こしています。詳しくは「ライアーダンサー音MADリンク」で検索してみてください。
『HERO』Ayase
ラスト10曲目に紹介したいのはこちら、Ayaseさんの『HERO』です。この曲は初音ミクの大型イベント「初音ミク『マジカルミライ2023』」のテーマソングとして書き下ろされた一曲です。『シネマ』『ラストリゾート』などのボカロ曲で知られる一方、『夜に駆ける』『アイドル』などの大ヒット作を手掛けるYOASOBIのコンポーザーとしても活躍するAyaseさんの起用は、発表直後から大きな反響を呼びました。今年のメインビジュアルは「ヒーロー」。そのテーマに呼応する形で制作されたのが『HERO』でした。
そのタイトルからも感じ取れる通り、初音ミクが「ヒーロー」として現れる、というスタイルが曲の前半では使われます。
ヒーローである初音ミクが現れてから、曲調が煌びやかで明るいものに変化し、まさに「光」が出現したように感じます。MVも含め、「ヒーロー参上!」を作品の形に落とし込んだような構成になっています。
二番以降は、ミクに救われた者の決意が綴られていきます。「ここからは僕たちの番だ」「救われてばかりじゃいられない」と強い決意が現れていきます。
終盤では、「今度は僕たちがミクを救うんだ」と言わんばかりのメッセージが綴られています。このメッセージの力強さに、私はとても心打たれました。
初音ミクの未来を創り上げていくのは、誰でもない今を生きる自分たちであることを意識させてくれる、まさに創作文化として成長してきた初音ミクにふさわしい一曲だと思います。この曲が、初音ミク16周年のタイミングで開催される「マジカルミライ2023」のテーマで良かったなと感じます。最後に公式サイトに掲載されているAyaseさんのコメントを引用して終わります。
おわりに
以上10曲が、私の考える「2023年上半期ボカロ10選」です。『HERO』で少し触れましたが、今年は初音ミク16周年、16歳という設定を持つミクが本当の16歳になる記念すべき年です。その一方で、POPYやROSE、重音テトSVなど新たなシンガーが活躍を始めている発展のタイミングでもあります。この創作と音楽の文化が、また大きく動きはじめる1年となると私は勝手に予想しています。そんなVOCALOIDの文化を支える、クリエイター、作品、シンガーのさらなる活躍を祈って、この記事を締めたいと思います。
皆様、「改めてどうぞよろしく」お願いします!
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