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悪魔系変態ロックバンド「ザ・クランプス」
今回は、日本では知る人ぞ知る?どころか、殆どの人が知らない悪魔系変態サイコビリー・バンド「ザ・クランプス」。
どういう訳か、ショック・ロックの元祖アリス・クーパーやこのクランプスなどのおバカ系ロックを妙に聴きたくなる時があるんですよねえ。 気分転換にはもってこいなのです。聴いて(観て)いると頭が空っぽになりますから。
アリス・クーパー御大からは、「クランプスなんかと俺を一緒にするんじゃねえ!」と怒られそうですが。
クランプスは1976年、ボーカルのラックス・インテリア(本名エリック・リー・パーキザー)とギター(時にベース)のポイズン・アイビー・ロールシャッハ(本名クリスティ・マーラナ・ウォレス)の夫婦を中心に結成された4人組。ドラムスのニック・ノックスは長くクランプスに在籍(1977~1991)しましたが、ベース担当はかなり入れ替わりが激しかったようです。
売り物はラックスのボーカル&変態パフォーマンスとポイズンの迫力のあるギター。ベースやドラムスのリズムセクションも強力でした。
初期はパンク&ガレージ系のバンドで、自分たちの音楽を「サイコビリー」(サイケデリックとロカビリーを掛け合わせた造語らしい)と称していました。しかし、段々夫婦の変態&B級ホラー的悪趣味が全面に出るようになり、次第に悪魔系変態バンドに変貌していきます。
ラックスとポイズンは曲作りの才能もあり、オリジナル曲の殆どは夫婦の共作です。
バンドの音楽的コンセプトは1950年代60年代のロカビリーやオールドロックに刺激の強い歌詞と変態趣味という味付けをして現代に蘇らせようというもの。クランプスに少し遅れてデビューし、80年代にネオロカビリーブームを巻き起こしたストレイキャッツと一部似た側面があります。
歌詞の内容は大きく分けると2系統あり、ひとつは見かけと同じく卑猥な歌詞で人間の性的欲望を直接・間接に表現したもの、もうひとつはレトロなオカルトホラー系。オカルトホラー系の曲は悪魔、魔女、黒魔術、狼男、ゾンビなど超自然を主題にしたものが多く、下にリンクした「Big Black Witchcraft Rock」はその代表曲。卑猥変態系とオカルト系が混ざった曲も多いです。
本人たちは単に趣味でやっているだけなのかもしれませんが、よい方に解釈すれば卑猥変態系は人々が社会生活を送る上で秘すべきもの、恥ずべきものとして普段は抑圧している性的情動を白日の下にさらして解放しようというクランプスなりのメッセージなのかもしれません。
レコードの方はヒットチャートとはほぼ無縁(シングル「Bikini Girls with Machine Guns」がUKチャート・トップ40に入ったのが最高位)でしたが、1980年の「Songs the Lord Taught Us 」を皮切りに解散までに8枚のオリジナルアルバムをリリースしています。その内5枚のカバージャケット写真のモデルは、過激な扮装をしたポイズン・アイビー本人。メンバー全員が写っているのは、初期の2枚のアルバムだけです。
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![画像3](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/77472781/picture_pc_a8646752a2ed4ef9fb59f6e1e07dfc10.jpg)
特にラストアルバム「Fiends of Dope Island」は、カバーイラストやタイトルのレタリングに1960年代~80年代にかけて発行されて人気があった有名なホラーアメコミ雑誌「CREEPY」の影響を濃厚に受けています。同じく米国SF界の重鎮フォレスト・J・アッカーマンが長らく編集長を務めていたアメリカのレトロ怪奇映画ビジュアル雑誌「FAMOUSMONSTERS OF FILMLAND」からの影響も。
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モンスターに扮しているのは、ラックス本人ですね。
![画像5](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/77960381/picture_pc_6c587f3b8028c44fd2c1c44990767ae4.jpg)
表紙カバーは、ユニバーサル映画『フランケンシュタインの花嫁』(1935)。
ラックス・インテリアのライブ・パフォーマンスは毎回ドラッグでもやっているのかと思うほどお下品ですが、音楽的には結構しっかりしたバンドで映像なしの音声だけでも十分鑑賞に堪える名曲が何曲もあります。
ラックスの変態パフォーマンスがいくら過激で、ポイズンのギターがいくら凄くても曲の良さが伴わなければ30年以上も人気を保ち続けることはできません。変態パフォーマンスとギターの腕前だけでは、みんなすぐに飽きてしまいますから。 これは、アリス・クーパーの場合も同じことが言えますね。
ポイズン・アイビーは自分の容姿やスタイルには相当自信があるらしく(実際にスタイルはいいですが)、若い頃は露出過剰気味の衣装を着けてギターをかき鳴らしていました。次のライブにはどんな格好で出てくるのか、それもひとつの売り物だったのかもしれません。まあ、夫の方も相当の露出狂なので、夫婦揃っていい勝負です。
もっとも、ライブやビデオクリップは変態趣味全開のものが多いものの、これはあくまでもパフォーマンス用で、普段のふたりの生活はいたってまともだったようです。
日本では全く知られていないバンドですが、そんなこんなで、欧米では2009年にラックスの急死でバンドが解散するまでカルト的人気がありました。
では、ここからクランプスの代表曲を聴いていきましょう。 マイナー調の曲ばかりですよ。
最後まで聴き続けると聴く方もおバカになってしまいそうになりますので、気を付けて聴いてください。もっとも、全曲聴くような酔狂な御仁は滅多にいないとは思いますが。
※画面右下の▢アイコンをクリックすると大画面になります。
「Creature From The Black Leather Lagoon」
のっけから視聴注意指定ビデオで恐縮ですが、戦前からのフランケンシュタインや魔人ドラキュラ、狼男、透明人間などで有名なユニバーサル・モンスターズ最後の大スター「大アマゾンの半魚人」にインスパイアされた曲。 この映画の原題は「Creature From The Black Lagoon」ですから。 悪魔系変態バンドの本領発揮です。
![画像2](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/62682844/picture_pc_301ecee27287044a08270f1b9ca5c0d6.jpg)
「大アマゾンの半魚人」(1954) の半魚人。
監督は、傑作SF映画「縮みゆく人間」を作ったジャック・アーノルド。
ビデオ映像は冒頭から変態ホラー色全開で、やりたい放題のカオス状態。ポイズン・アイビーがB級変態ホラー映画のヒロインもどきを楽しそうに演じているのが印象的です。モンスター役がラックスなのは、すぐに分かりますね。何しろ怪物なのにトレードマークのレザーパンツにハイヒール履いてますから。
曲自体は軽快なロックンロールでなかなかの名曲なのですが、映像からの刺激が強すぎてさっぱり頭に入って来ないのは困ったものです。後のお片付けがさぞかし大変だった事でしょう。
こちらは、1990年のライブ映像。
ラックスのメイクは、明らかにボリス・カーロフの初代フランケンシュタインを模したものですね。
「Bikini Girls With Machine Guns」
全身黒ずくめでいつも風船ガムを噛みながら演奏しているのは、実質的な2代目ベーシスト、キャンディ・デル・マール(在籍1987~1992)。 「~Bikini Girls With Machine Guns~」というフレーズを何度も繰り返し聞かされている内に、段々くせになってきます。
「Bikini Girls With Machine Guns」
ラックス・インテリアの変態趣味全開のフランスでのスタジオライブ。
こちらはシングル盤リリース時のビデオクリップ。
「Bikini Girls With Machine Guns」
ポイズン・アイビーがギターの他にゴーゴーダンサー、機関銃をぶっ放すビキニ・ガールなどの役もこなすなど八面六臂の大活躍。
The Cramps 「Big Black Witchcraft Rock」
2009年に62歳で心臓病のため急死したラックス・インテリア晩年のライブ。この頃になるとポイズン・アイビーのギターは最早円熟の境地を通り越して、凄みさえ感じられます。ギターに負けずにベースとドラムスも迫力のある音を聴かせてくれます。
初めて聴いた時、はて、どこかで聴いたような?と思ったら、メロディや曲の構成がジョン・レノンの「Well (Baby Please Don't Go)」をアップテンポにしたような感じなんですよね。
こちらはスタジオ録音盤。 「Big Black Witchcraft Rock」
ビデオ冒頭の過激な写真のモデルになっているのは、ポイズン・アイビー本人。モデル代がいらないので、安上がりでいいですね。
参考までにジョン・レノン「Well (Baby Please Don't Go)」。
「Well (Baby Please Don't Go)」は、1972年にリリースされたオノ・ヨーコとの共作アルバム「サムタイム・イン・ニューヨーク・シティ」に収録されてるマイナー調の知られざる名曲です。 プラスチック・オノ・バンドを聴く度にいつも思うのですが、オノ・ヨーコの金切り声パフォーマンスはノイズでしかないですね。
「Cramp Stomp」
こちらもなかなかいい曲です。 水着姿のポイズン・アイビーの顔が魔女みたいで怖いです。 ラックスのグルグル眼鏡を見ているとこちらも目が回りそうになります。
こちらのハロウィン・ライブでは、本当に魔女の扮装をして演奏しています。何しろ、悪魔系ですから。 「Cramp Stomp」
「What's inside a girl」他2曲 夫妻へのインタビューあり。
ラックスの変態パフォーマンスのバックで、ポイズン・アイビーのギターがさく裂しています。
こちらは「What's inside a girl」の別のライブ。
ポイズンがエジプトの女王様のような扮装で演奏しています。 ベースは、助っ人として1986年の一時期だけ参加したファー(ジェニファー・ディクソン)。ポイズンに負けず劣らず、この人も露出過剰のなかなか奇抜な恰好をしていますね。
「You've Got Good Taste」~「All Women Are Bad」
曲の間にインタビューあり。 この曲もポイズン・アイビーのギターリフが聴きどころです。
こちらは、初期のビデオクリップ。 「You've Got Good Taste」
まだガレージパンク時代なので、二人ともまともな服装をしていますね。
「Where In The World Is Poison Ivy Rorschach?」
これが正しい曲名なのかどうかよく分かりませんが、多分違うでしょうね。短いですが、なかなかドスのきいたギターインスト曲。ポイズン・アイビーのギター奏法の特徴がよく出ているので、多分彼女の曲だとは思いますが。
「Heartbreak Hotel」
ご存じプレスリーのカバー。 パンクっぽくて、なかなか斬新なアレンジです。
「ピーター・ガンのテーマ」
1950年代末からアメリカで放映されたTVドラマシリーズの主題曲で、ヘンリー・マンシーニが作曲したスタンダードナンバー。 ポイズンのギター、迫力がありますね。
「Tear It Up」
1980年のライブ。 ラックスのパンツがもう少しでずり落ちそうになっています。ずり落ちるどころか、本当にあそこを出してしまっているライブもアップされているのにはびっくりです。 この頃のポイズン・アイビーは、かなりぽっちゃりしています。
「The Way I Walk」
クランプスの数少ないブルースナンバー。 冒頭にリンクした「Big Black Witchcraft Rock」と同じ2006年11月のノルウェーでのライブ。 知らない人がこの曲だけを聴いたら、普通のブルースバンドと間違えるでしょうね。
このライブではトミー・ジェイムス&ションデルスの「ハンキー・パンキー」もカバーしています。 ラックスが還暦とは思えないほどパワフルです。
ノルウェーでのライブ・フルバージョンはこちら。
このライブでは、ラックスの変態パフォーマンスはすべて封印。トレードマークのハイヒールも履いていません。純粋にボーカルと演奏だけで勝負しているので、改めてクランプスの音楽的実力が分かります。
「Naked Girl Falling Down The Stairs」
歌詞は例のごとく変態系ですが、ラックスのハイヒールを除けば珍しく穏やかで微笑ましいビデオです。 ポイズンのギターリフがベンチャーズの「ウォーク・ドント・ラン」のイントロみたいです。
『Like A Bad Girl Should」
ラストの曲も視聴注意指定で、変態夫婦の面目躍如のビデオクリップ。 歌詞と映像は卑猥変態街道まっしぐらですが、メロディは悪くありません。
当時、ラックス50歳、ポイズン45歳。
ここまで突き抜ければもう脱帽で、ご立派としか言いようがありません。 「夫婦の日常生活の一コマを切り取ってみました。皆さんが密かにやっていることの一端を私たちがやって見せただけですよ。それが何か?」という事なのでしょう。
確かに一般常識からすれば破廉恥極まりない映像には違いないのですが、不思議と嫌らしさは感じられません。かえって、「いくつになっても仲がおよろしいことで。」と拍手を送ってあげたくなります。二人はラックスが亡くなるまで添い遂げたおしどり夫婦としても有名で、このビデオからもそれが伝わってきますね。