「アラビアンナイト 三千年の願い」 疑問点と好きなところ
映画「アラビアンナイト 三千年の願い」の疑問点と好きなところについて書く。
※完全にネタバレなので気をつけてください。
まずはふつうに感想をすこし書くと、「思ったような結末ではなかったけど、よかった」という感じだ。
瓶からの解放を望んでいて人の願いを叶えたい魔人(ジン)と、願いが叶ったら不幸になるだろうと信じて疑わないナラトロジー(物語論)の学者が出会ったらどうなるか?
という設定に惹かれて観に行った。
あざやかな映像美や、学者と魔人(ジン)がバスローブを着て並んで座っているおかしさなどがよかった。
映画が終わった直後は、「え、どういうこと?」と思ったのだが後からもう一度考え直して、なるほどねと思った。彼らの物語の終着点としては、一番いいところにたどり着いたのではないかと思う。
ジンがずっと人間にとらわれ続けるのでもなく、アリシアがまた孤独に戻ってしまうのでもなく、すべてはアリシアの妄想だったというわけでもない。
(最後のシーンでジンが子供から飛んできたボールを蹴り返すのは、彼がまぎれもなく現実に存在することを意味しているのだと思う)
離ればなれだけどお互いのことを大切に思っている、たまに会っておしゃべりできる。そんな相手がいることはとても幸運なことだなあと思って、ほっとした。
これは私の求めていたハッピーエンドかもしれないなと思った。
疑問点
・序盤に出てきたアリシアの幻覚(?)は何なのか?
白い小柄な男と、白髭の老人について
物語の序盤、アリシアのカートを押した謎の小柄な男と、アリシアの公演中に客席に現れて「ふざけるな!」と怒鳴った老人。
老人に怒鳴られてアリシアは気絶してしまうが、その後、アリシア自身は「いつもの頭痛、なんともない」「物語が自分を超えてくる」みたいなことを言っていた。
公演の内容が、「いずれ科学がかつての神話や物語の役割を果たし、物語は死ぬだろう」という内容だったため、それに対しての「ふざけるな!」であったのだろうと思う。
それは、白髭の老人(神話そのもの?)の思いなのか、それともアリシア自身の思いなのか。
アリシアの幻覚だったのか、魔人(ジン)が彼女を呼んでいたために起こったことなのか。
物語の中盤に、アリシアにはイマジナリーフレンドがいたことが判明するので、そことの関連もあるのだろうか。
・ジンが「砂糖姫」に「早く願いを言え!!」って迫ってブチ切れられて海の底に沈んだのなんだったのか なんで急いでたの?
これは、「砂糖姫」がジンの入っていた瓶を石板ごとお尻で破壊した(?)際のこと。あんな剣幕で知らない人間に「願い事を言え」と迫られたら誰だってびびるかキレるかすると思う。うまく説明できなかったというだけの話なのか。
まあ、確かにそうか。ジン自身も急なことでうまく説明できず、最悪の展開になってしまったということかも。
・ジンが煤けて灰になりかけていた?のはなぜなのか
アリシアがジンを連れてロンドンへ戻ってから起こった出来事。
地下室でジンが灰になりかけていた(ように見える)が、それはなぜなのか。
「愛とは自分を投げ出す行為だから」とアリシアは言っていたが、どういうことよ?
ジンがゼフィールを愛していたとき、そういったことは起こらなかったよね?
現代のロンドンがジンにとって合わない土地である(情報が多すぎてひっきりなしに頭に入ってくる)という描写はあったので、そのせいもある?
ともあれ、アリシアの最初の願い事が原因だったと考えていいのかな。
なかなか難しい。「愛とは自分を投げ出す(犠牲にする)行為」というのにも私は同意しかねるぞ!
・アリシアの3つの願いはなんだったのか
ひとつは、「あなたを愛している、私を愛してほしい」だった。
ふたつめは? ジンが灰になりかけていた時に、「お願い、起きて、話して!」と必死に呼びかけていたので、あれがふたつめの願いということになるのかな。
みっつめ。これは、「あなた(ジン)にとって居心地の良い場所へ行ってほしい」という感じのことを言っていたので、それだろう。
そして3つの願いは叶えられて、晴れてジンは「ジンの楽園」へ行くことができた。
アリシアが3つめの願いを口にしたとたん、ガラスの瓶がぐんにゃり溶けたのは「ジンの解放」を表していたのだと思う。
・アリシアはゼフィールの生まれ変わりなのか?
アリシアは序盤の飛行機のシーンで、本を読みながら右足を細かくガタガタ動かしていた。
ゼフィールも全く同じ動きで本を読んでいたので、なにかしら意味はあるのだろう。生まれ変わりなのだとしたら、何百年もの時を経てまた両想いになったと考えてもいいのかな。別にそうでなくてもいいと思うけど、個人的には。
・アリシアが急に隣人と仲直りしようとしたのは何なのか?
アリシアの隣人のふたりはかなり保守的で、アリシアとは考え方が合わないのですげえ喧嘩していた。
なのに急にお菓子持っていくからびっくりしたよ。
ふつうにアリシアの心境の変化ととらえていいの?あんなに激しく口喧嘩してたのに…
好きなシーン
・アリシアがジンの入ったガラスの瓶を電動歯ブラシで磨いたところ
(映画館の客も笑ってた)
手で磨くよりはきれいになりそうではある。「現代の寓話」らしさもよい感じ。
・瓶が本を飲み込むシーン
瓶が液状になって本を飲み込み、元の瓶のかたちへと戻るシーンはほんとうにきれいだった。こうやって本を保管できたらいいのに。
・ゼフィールとジンの話を聞き終わったときのアリシアの泣きそうな顔
とんでもない天才であるが女であり孤児であるがゆえにその才能を発揮できなかったゼフィール。彼女を愛したがゆえに彼女の願いを叶えることができなかったジン。二人の思いをおそらく、アリシアは自分のことのように理解できたのではないかと思う。
・煤けた状態から一時的に復活したジンがパニック状態になって「ピクニックしよう!あ、ウクレレウクレレ」とウクレレを手にするシーン
笑うようなシーンではないのだが、つい笑ってしまった。
無理やり明るく振舞おうとするジンのまぬけなやさしさがせつない。
・物語の一番最後、ジンが現れた時、アリシアが3つ数えるところ
最初、アリシアがジンに出会ったときは「3つ数えるうちに消えてちょうだい」と言っていた。最後はきっと、「3つ数えてもどうか消えないで」という気持ちだったのだと思う。
以上です。面白い映画でした。観に行ってよかった!