
パートの品格
私はベテランパートタイマー。勤め始めて15年目。周りの人達が転勤やら何やらで次々とメンツが変わっていく中、私はずっとその人たちを見送ってきた。それはこれからも変わらない。何故なら私には転勤が無い。
結婚して10年以上専業主婦だったある日、たまたま舞い込んだ社会復帰の話。もう少し専業主婦でいたかったけれど家から近い、15時までの勤務で家事に支障が無い、有給休暇がある、時給は安いけど..何の資格も持たないおばさんの社会復帰としては悪くないお話だったので働くことを選んだ。
働いた事の無い業界だったので不安しか無かった。もちろん知り合いもいない。何も知らないし出来ない。年齢的に、案の定周りからは経験豊富な何でも知っている、何でも出来るベテランが来たと思われた。そのギャップが辛かったけど、周りの人達は直ぐに察してくれて温かく接してくれた。ホッとした。
職場には機械が多い。コピー機、裁断機、紙折り機、シュレッダー。たまに機械が不調な日がある。そんな時には何故か私が呼ばれる。「どうしたら良いですか?」
始めの頃はなす術も無かったがだんだんコツがわかってきたり経験値から出来る事が増えてきて、ちょっとした機械の不調ならとりあえずどうにか動くように直せるようにはなった。私のことを”ゴッドハンド”なんて呼ぶ人もいる。私が行くだけで不思議と調子が戻ることもある。植物に話しかけるみたいに機械に話しかけたりもする。「今日はよく働いて疲れたよね。でももうちょっと頑張ろうか」なんて。
もしも機械の故障でサービスマンを呼べば出張費に何万円も取られる。私が直せたらタダだもの。私ってめちゃくちゃ職場に貢献しているのでは‥?
5年前に転勤して来た上司は私の仕事を増やした。それまでは私の仕事の領域ではなかった結構重要な業務を次々と私に回して来るだけでなく、他の人達にも私にもっと仕事を振るよう促した。自分だけが私をこき使うことに後ろめたさを感じたのか。結局他の人達からの頼まれ事は大して増えなかった。皆私に気を使ってくれたようだ。
その上司の振る舞いを実母に愚痴った。母も私と同じ考えだった。自分だけが私を頼るのが後ろめたいのだろう、と。しかしその後、母はこう言った。
「それでも仕事を頼んで来るってことは、みとんの事を信頼してるからよ。信頼できない人に自分の仕事を頼んだりはしないはず。」と。
心の中で何かがパチンとハマった気がした。思えばその上司が私に仕事を振って来る時は簡単な指示しかしてこない。私もその時既に10年選手であったので、10の事を10説明されなくとも理解できる。馴染みのお店で「いつものやつ」と頼むのと同じようなものだ。君に任せるよというスタンス。
ところが他の人から仕事を頼まれる時、その人は事細かに指示をしてくる。こちらとしては、ハイハイ分かってます、と言いたくなるような事まで。もっとこうした方がいいのにな、と思う事も少なくない。
なるほど。そうだったのか。
いや本当の所は分からない。しかし受け止め方1つで私の私自身への評価が上がり、気持ち良く仕事が出来るようになる。それに上司が大事な仕事を私に振ってくることで、周りからの私への評価も上がった。
早く、丁寧に、キレイに。
私の仕事のモットーだ。
頼まれたらすぐやる、ミスの無いように、そしてキレイに仕上げる。
今では見た目と出来る事とのギャップは無くなったと自分では思っている。
あれ、これって自画自賛?