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[小説] 理系学生 (2/4)

諦め

 どこまで神は、私を嘲るのでしょうか。
お話しできそうもありません。
なぜならこの班の誰一人として、黒髪だからです。
偏見だ、と私を責め立てる読者も多いでしょうが、これは雰囲気として感じ取れるのです。「同類だ」と。

 あぁ、ひと席はぽっかりと会いたままです。
もう女子は来ないのでしょうか。
あぁ、あの期待していた僕はなんとも哀れなのでしょうか。
嘲笑せざる得ないじゃないか。
皮肉にも、過去の私はこの私を予見できていたのです。
周りの班を恨めしそうに見回す私の姿。読者の皆さんは想像しうるでしょうか。
なんということでしょう、私は今、一言も発しない、まぎれもない「非協力生徒」です。

 あぁ、ひとり遅刻してきた人が来ました。疑いようのない女の子でした。ただ、やはり残念だと思ってしまうのです。
なんでこんなことのために、菓子を用意したのでしょうか。
こんなことなら、この授業切ればよかった、とさえ思ってしまうのです。
隣の芝はなんとやらという諺をふと思い出し、厭に納得してしまう自分がいるのが怖くなりました。

 自己紹介をしろという御達しがありました。
なぜでしょうか、この現状に対する反骨精神でしょうか。私は興味があることを「経済」と答えたのです。
たしかに興味がありましたし、嘘ではないのです。ただ、私は物理学科であるという世間体を気にしていたはずでした。
普段の私なら「物理学」、「天文学」などと答えていたはずでした。

 テーマが変わり、なぜこの大学を選んだのか、そう聞かれました。なぜでしょうか、全くペンが進みません。哀れです、自分が哀れに感じてまいりました。

 周りの班をよく見てしまうのです。笑いが絶えないようです。ふと顔を戻すと、そこには沈黙が流れるのです。この場だけ(物理学科らしくいうと)ブラックホールのシュバルツシルト半径の中にいるかのようなのです。
このまま、鈍行列車のように重くゆっくりとした時間を過ごす他ないのでしょうか。

 休憩後席替えをする。そう聞いた時私は少し喜びました。ただし即座にその想いは打ち砕かれました。よくよく考えてみると、前後の席に女子どころか髪の明るい男もいないのです。極め付けには、D学部は移動しないらしいのです。周りの席にD学部はいないのです。しかも、私は移動しないことになりました。これではD学部とお話しできるはずがないではありませんか。
なんなのでしょうか、神は私を本当に見捨てなさったのでしょうか。
この休憩中、教室を一周してみました。仲のいい友達はおりません。
化粧っ気のある女子は、はるかかなたの席に数人座っているだけなのであります。これではあと何回席替えしようと同じ班になれそうにありません。

 ここで私は、太宰治の【人間失格】という本を思い出しました。主人公以上に酷いものはいない、私はまだましだ。そう言って自分に言い聞かせてるうちになんだかいい気分になってきます。
やはり本というのは人の心を癒すなぁ、そう思っておりました。
そうだ、この内容を小説にしよう。私のこのお粗末な展開を皆にお教えしよう。そう思ったのはこの時だったような気がいたします。
理系学生の真の姿を皆にお知らせしたい。そう思ったのです。

 私は席替え後の席で、愕然とするような気がしてまいりました。
なんと、二人の女子が隣の班に移り、代わりに男が三人やってきたのです。
あとひとり、また男が座りにきました。
愕然としました。これは嘘ではありません。ただ、愕然としたのです。
なんということでしょう、また元の席に結局戻るそうなのです。
私は無駄な心配をしていたらしいのです。

 はて、班員が変わり、自己紹介中私は何を考えていたのでしょうか。今読み途中の小説【熱帯】について考えていたのだ、そのように記憶しています。それほど何もすることがなかったのです。私以外のメンバーは楽しそうに話しております。

 私には、彼らがなぜ笑っているのか全くわからなかったのです。愛想笑いを浮かべ話を合わせることもできるのですが、気が進みません。
ただ、誰も座っていない机や椅子を見つめ、時が経つのを待っておりました。

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