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効率化オタク集団Anyflowの組織カルチャーとバックオフィスの話


2019年の秋、Incubate CampとB Dash Campで、AnyflowというAPI連携基盤(iPaaS)のスタートアップがダブル優勝した。有名なスタートアップイベントで立て続けに優勝したおかげで、当時完全に無名だった潰れかけスタートアップのAnyflowは、瞬く間にスタートアップ関係者、特に投資家からの知名度を獲得した。

私がAnyflowに出会ったのは、ちょうどその頃だ。CEOの坂本が1人目の非プロダクトチームの業務委託メンバーを探していた時に、大学の後輩にあたる共通の知人からの紹介で、たまたま話を聞く機会が訪れた。

当時のAnyflowは、学生時代からずっとエンジニアであったCEOの坂本と、共同創業者でこれまたエンジニアが2名、すなわち計フルタイムエンジニア3名体制+開発業務委託メンバーで回されていた。COO的なメンバーはおらずプロダクトに全振りしており、ビジネスサイドとコーポレートサイドは攻めも守りも無いに等しかった。優勝で突然大きな注目を浴び、これから訪れるであろう荒波を前に、プロダクト開発以外も人を増やさねば・・・となっているタイミングだった。

一方当時の私は何をしていたかというと、前職で上場申請期を迎えており、証券取引所への上場審査のエントリーまであと数ヶ月、といった時期であった。そんな時期にシードスタートアップに会いに行くのもどうかと思うが、自分だけではどうにもならない待ちのフェーズの業務が多く、またIPO準備で精神的にもやや疲弊していたので、少しリフレッシュしたいくらいの気持ちで、駒場東大前のAnyflowオフィスに足を運んだのを覚えている。

そうして坂本と出会ったのが、2019年の9月中旬。Incubate Campで優勝した直後で、複数の著名なVCから投資検討の面談のお誘いなどが来ており、まさに今始まりつつある調達ラウンドをどう進めようか、となっていたタイミングだった。プロダクトリリース前なので、売上は当然まだ0円。ARR0円なので、当然PSRなんて指標は使えない。わずか数ヶ月前まで潰れかけのスタートアップだった経験もあり、当時の坂本は1億円をエクイティ調達できれば本当に嬉しい、それで当面のランウェイを確保できる、と話していたのが記憶に残っている。

話を聞いていくうちに、API連携の事業ポテンシャル、そして資金調達において必須のモメンタムを強く感じ、初対面から2時間程度で、即決でAnyflowのパートタイムCFOになった。ちょっと話を聞くだけのつもりだったこの日が、私のAnyflowとの関わりのスタート地点だ。これだから、採用は何が起きるか分からない。

それからたった3ヶ月。私もAnyflowの名刺を持ち、調達資料と事業計画と資本政策を作り、坂本がVCのオフィスでピッチをし、煩雑なDDは私が打ち返す、という体制で調達を進めた。複数の著名VCから是非リードしたいというオファーをいただき悩んだ末に、最終的にグロービス・キャピタル・パートナーズとグローバル・ブレインの2社共同リードに加え、つい数ヶ月前にシード出資をいただいたばかりのCoral Capitalからのフォローオンというアロケーションで、エクイティ約2.2億円のプレシリーズAラウンドが無事クローズした。投資契約書をクリスマスイブである12月24日に締結し、翌日着金。2年以上ランウェイが伸びたクリスマスだった。

CFO、あるいはVP of Financeとして

プレシリーズAの資金調達からかれこれ5年間。パートタイムCFOに始まり、プロダクトが無事リリースされ、しかしピボットし、途中から社員になり、その後取締役と立場は変わったが、Anyflowのコーポレート機能がスムーズに回るように、そして事業成長に支障を出さないよう、バックオフィス全般の整備を淡々と進めて運用してきた。

CFO、あるいはVP of Finance的な仕事としては、プレシリーズA以降、月次の経理財務機能を全て回しつつ、常にPL連動資金繰り表を作り、あらゆるパターンを想定した事業計画のプランA/B/Cを作り、会社が潰れないように適切なタイミングで必要な分だけ資金調達を行い、あらゆるコストの利用可否を判断し、事業成長において必要十分な運転資金を常に確保できるようマネジメントしていた。社員が不安を感じないように、残キャッシュもランウェイも毎月のAll handsで開示していた。ここまではまあ、一般的なスタートアップでもよくあるCFOの役割だと思う。

一方で、一般的なCFOやVP of Financeが担う役割では無いように見える現場仕事も、ひとりバックオフィスゆえ、全てやってきた。自分自身の雇用契約書を作って入社手続きを行い、就業規則と人事制度を整備し、2回優勝した反動なのかピッチイベントに一切出なくなったCEOの坂本の代わりにピッチイベントに登壇し、ISMSの審査を受けたりした。月次決算と給与計算と年末調整と資金調達のかたわらでオフィスの掃除機がけとゴミ出しをやり、現在の神保町オフィスに移転した際は激安のオフィスデスクを中古で買って、ハイエースを自らレンタルして運んだりもした。

いったいぜんたい、どんなスタートアップ組織ならそのワンオペバックオフィス運用で回るのか?と疑問に思う方もいるかもしれない。私の感覚では、Anyflowのメンバーがフルタイムで30人規模になってもバックオフィスは1人で回る(というより回ってしまう)感覚があり、正直今もそれは変わっていない。

ただこれは、私個人のバックオフィス技術の練度が高く3人分の成果を出しているとか、AI活用がすごいとか、そういった話をしたいのではなく、私やCEOの坂本を含む経営メンバーが、Anyflowの組織を維持する上で、プロダクトや事業以外のノンコア領域になるべくコストをかけず、性善説で、全員が事業成長に集中できる環境を作ることに相当心がけていたことがとても大きかったと思う。

というわけでこのnoteでは、最小コストでのバックオフィス運用を可能にしていた、Anyflowの組織風土/カルチャーを紹介したいと思う。もしそんなAnyflowの組織風土/カルチャーがイイな、と少しでも感じた人は、ぜひ採用ページを開いてみてほしい。

Anyflowという集団

①効率化オタク

どんな会社でも1人くらい、ショートカットキーに詳しかったり、Google Chrome拡張やMacの便利アプリに詳しかったり、タイピングが異常に速い効率化オタクがいるだろう。Anyflowは、そういう効率化オタクの集団だ。業務効率化を推進するプロダクトを開発している会社が、業務効率に鈍感であってはいけない。

自動ドアのエントランスがあるマンションオフィスに入居していた頃は、席から立たずにエントランスを操作できるよう、CEO自らSwitchBotで自動解錠マシンを作って設置していたこともある(さすがに今はやっていない)。

タイピングガチ勢が多いので、採用サイトに寿司打スコアを載せたらカルチャーが伝わるのでは?という話題が真面目に出たこともある。スタートアップ寿司打対抗戦があったら是非エントリーしたいよね、と。

タイピング記録更新を喜ぶも、即座に社員に追い抜かれてしまうCEOの坂本

真面目な例も挙げるなら、勤怠はオリジナルのSlack打刻ツール(非売)を自社のAnyflow Embedを利用して作成し、Slackから打刻できるようになっている。毎日朝と夜に、自動でSlack打刻のボタンがSlack上に表示される。

Slackに突如表示される打刻ボタン。slack上で打刻ができる。

定期的なミーティングは、API連携を通じて、Slack上で自動でリマインドが走る。新しい会議の議事録も、雛形が自動で定期生成される。あるいは細かい会話のために、いちいちMTGを設定しない。会話の大半は、ハドルでサクッと終わらせる。

なるべく最小工数で、必要な業務だけに集中する。その当たり前感を大事にしている。

②SaaSのキャッチアップ力/データ活用のリテラシーにこだわる

Anyflowは、SaaSとSaaSを連携する会社であり、ひとり残らず全てのメンバーが、APIをはじめとするデータ連携を当たり前に理解できる必要がある。エンジニアは当然として、営業も、CSも、コーポレートも、API連携を作れる必要がある。API連携を理解するには、日本語だろうと英語だろうと、SaaSのヘルプページやAPIドキュメントを自ら読み込むスキルが必要だ。ちなみにAnyflowでは、顧客向けAPI連携ソリューションの構築を、開発チームのエンジニアではなくビジネスチームのCS/CREが主に担当している。

AnyflowのサービスLPの1コマ。エンジニア向けの用語が並んでいる。

SaaSのAPI連携を作るという行為には、データがどこにどのように保管されているかを日本語/英語のAPIドキュメントから理解するスキル、データの型を理解するスキル、SaaS毎に異なるクセや制約を把握するスキル、それらを統合的に理解した上で、最も効率的なデータの連携方法を考えるスキルといった、高いデータリテラシーが求められる。これに加えて、SaaS毎に異なる領域特化の知識も必要になる。

全メンバーがこのスキルを持つ組織、というのを想像してみてほしい。当たり前だが、SaaSのヘルプページを読めないメンバーは1人もいない。勤怠管理SaaSの打刻修正の方法を教えるといったヘルプデスク業務は当然存在しないし、SaaSのヘルプページを読めば解決することは、わざわざ説明しない・質問しない。それがAnyflow。採用ハードルが高いのが難点だけれども、そういったメンバーだけしか組織にいないということは、全員の会話の最低水準が保証されていることを意味し、もはや福利厚生だな、と個人的にはずっと感じていた。

③全社メンバーは年に1回しか集まらない/同期コミュニケーションは音声とチャット

Anyflowはカジュアル面談において、「Anyflowのメンバーは、言葉を選ばずに言うと、技術が好きな良い意味での陰キャ集団。陽キャ過ぎるとカルチャーあわないかも」といったような説明を必ずしている。スタートアップにありがちな、メンバーごとのプロフィールページを採用サイトに作り、自身の写真をネットに載せたりすることがあまり好きではない、プロダクトに向き合っていたい、そんな感じのメンバーが多い。CEOの坂本はその典型例だ。

よって、同期コミュニケーションである朝会やハドルのミーティングは、カメラ基本オフ。誰かの作業画面を共有しながら、淡々と音声で行われる。机に座っている必要もなく、歩きながらでも問題ない(そもそも歩いていることに誰も気付かない)。

商談がなければ髪がボサボサでも、ソファの上でも、パジャマでも、猫の中でもOK。仕事で成果が出るなら、効率が良いなら、どうでもいい。カメラをオンにするのは、月に2回のallhandsや、交流目的のランチ会のときだけ。ちなみにallhandsは、ニコニコ動画やライブ配信のコメント欄のように、チャット欄で盛り上がる。テキストチャットなら活発、というメンバーが多い。

また、音声コミュニケーションで業務の99%が完結してしまうので、訪問が必要な商談がある場合を除き、基本的に出社は不要。オフィスは、出社したいと思ったメンバーが集まる場所。

メンバー間の通常業務においても、対面で会う機会は全くない。年に1度、12月に忘年会を兼ねたオフ会と称する全社懇親会を開催しているが、これも参加は任意。一度もオフィスに来たことがないメンバーも当たり前に存在しているが、なんだかんだ困ったことはない。

そんなにメンバーと顔を突き合わせなくて経営できるのか?とよく聞かれる。その懸念は理解できるし、私もそう思っていた。ただ振り切った結果、逆にシンプルになり、問題はずいぶん減ったと感じる。8割以上出社に振り切るか、8割以上リモートに振り切るか。中途半端が一番良くない中で、Anyflowは8割以上リモートに振り切ってここ数年経営されており、想像以上にちゃんと回っている。

M&A

そんなこんなでAnyflowとの関わりが始まってから早5年が経ち、2024年冬。Anyflowは、CO2排出量見える化・削減・報告クラウドサービス「ASUENE」やESG評価サービス「ASUENE ESG」といった脱炭素・ESG領域でマルチプロダクト展開を進めるアスエネにグループインし、このたび完全子会社となった。

M&Aの背景等の詳細はプレスリリース、そしてCEOの坂本のnoteに詳しいため割愛するとして、今の気持ちを一言だけ。本件は未上場スタートアップによる未上場スタートアップのM&Aであり、個人的には、これ以上理想的な未上場スタートアップ同士のM&Aディールは無いのではないか、と本気で思っている。これからどんどん増えていくであろうスタートアップ同士のM&Aにおける成功事例の1つになれるよう、アスエネとAnyflowのシナジー創出に向けて尽力していきたい。

さいごに

Anyflowは、これからもっともっと面白いフェーズに入ります。Anyflowで働くことに興味がある方、もっと話を聞いてみたいという方、あるいは単に松田と話してみたいな~という方、ご連絡おまちしております!

※とりあえず松田と話してみたい!という方は、XでDMをください:https://twitter.com/Mitsuki_2nd

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