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パートタイム起業の2年間を振り返る
30歳になった日、ふと、自分の会社を作ろうと思った。
本当にふっと湧いて出た感情で、特に崇高な目的もビジョンも無かったけれど、なんとなく、自分の会社を作りたかった。
パートタイム起業
起業といっても、独立起業!というものではない。スタートアップで働きつつ、副業程度の時間的制約の中でどこまで自ら価値を創出できるか試してみたい、という感じ。最近では、そういうタイプのミニマルで投下時間の少ない起業をする人を日本政策金融公庫がパートタイム起業家と定義づけている。
2019年度調査からは、それまで一類型として分析していた起業家を、事業に充てる時間に応じて「起業家」と「パートタイム起業家」の二つに分けている。副業起業やフリーランスの増加などにみられるように、起業家の働き方は多様化しており、勤務や家事の隙間時間にインターネットなどを通じて小規模な事業を行う人も多い。(中略)事業に充てる時間が1週間に35時間以上を「起業家」、35時間未満を「パートタイム起業家」としている。(後略)
時間的制約から、自分なりに決めていた仕事方針は以下の5点。
本業で毎日6時間程度は仕事があるので、パートタイム起業に割く時間は土日含めて週20〜30時間程度に抑える
稼働時間帯を問わず、早朝でも夜でもできる仕事をやる
原則としてオンラインで99%完結する仕事をやる
外向けの営業は基本的にせず、紹介や直接依頼が来た案件のみやる
中長期的に解約されることがゴールになるようなプロジェクト的な案件をメインとする
会社設立登記
法務省の一人会社設立支援ページから合同会社の定款雛形をダウンロードし、マイナンバーカードを使って電子定款を作り、資本金を自分の口座に振込み、100%オンラインで会社設立の登記申請をした。申請からわずか6時間程度、当日中に設立登記が完了した。あまり知られていないが、公証人が不要な合同会社は、定款の作り方とオンライン登記申請の方法を知っていれば、実はサクッと設立できる。
事業内容・市場選定
私の守備範囲の1つであるスタートアップ・中小企業のコーポレート実務&整備は、常に人手不足であり、仕事は無限にあるといっても過言ではない。実際、フリーランスもアウトソースベンダもオンラインアシスタントも非常に多く、また記帳代行や給与計算代行のアップセル商材として士業事務所が提供しているサービスも多い。プレイヤーは多いが、供給は常に不足している。一方で市場シェア圧倒的No.1というマーケット強者や、ここに頼めば間違いなし!というアウトソースベンダがいるわけでもなく、会社の数だけ仕事がある。
そんなコーポレート支援の市場で会社をやるなら、構造的に供給サイドが少ない箇所に絞るのが一番面白いかな、と思った。
というのも、コーポレート業務の世界はフリーランスやオンラインアシスタント、小規模士業事務所が非常に多い業界なので、リソース観点で大型案件や長期にわたる高難易度案件を受けられるベンダが非常に少ない。
例えば週1回2時間、実務でなくアドバイスを通じて価値提供するコンサルは多い。アドバイスを通じてできることは沢山あるし、ビジネスとしても比較的やりやすい。あるいは週10時間、経理や労務の煩雑な作業をやってくれるアシスタントも多い。ルーチンワークが多いのでマニュアルも作りやすく、外注難易度が比較的低い。
一方で、例えばGoogle Driveの全権限とslackの過去ログとNotionの全ページと過去の会社法書類、経理財務の証憑類、契約書を全て共有したら、勝手に全部を見て、社内メンバにヒアリングして、いい感じにデータを整理して、やるべきことを整理して、ガントチャートを引き、かつ実際にプロジェクトを推進してくれるようなハンズオン型コンサルをできるベンダは非常に少ない。幅広いコーポレートの実務知識は当然として、予算内に稼働を抑えるために各社で利用しているSaaSをフル活用するスキル、GASやAPI、AIなどの効率化ツールを駆使するスキル、外部の立場でPMをするスキル、ハレーションを超えていく組織内コミュニケーション力やメンタルなど複合的なスキルが必要で、はっきり言ってビジネスとして再現性がないからだ。
能力としてそれをできる人は一定いるけれど、難易度、必要工数、納期の要求が厳しいので、それを雇われではなくサービスとして安定供給するのは不可能に近く、また当然リソース的な観点から手が空いているベンダは殆どない。
よってこの世界は、少数精鋭の事務所や個人事務所として上流工程からのハンズオン型コーポレート実務コンサルに成功している事例がごくごく僅かにある程度で、担い手に対して需要が常に10倍以上ある状態になっている。過去10年、そして未来10年、AIがどれだけ進化しようと、この構造は変わらないだろう。
だからこそこの領域でスモールにやってみようと思い、ハンズオン型で、ゴリゴリのコーポレート実務支援をやることにした。
集客
方針のところにも記載したが、パートタイム起業という背景、そして何より同時に対応できる案件数が非常に少ないという制約があるため、外向けの営業と呼べるような営業は行わず、過去にお会いした方々からの依頼やSNSなどを通じたDMのみで案件を受けた。振り返ってみてこの方針は正解だったと思う。同時に複数社の案件をやらせていただきつつ、1つの案件が終わる頃には異なる案件のご相談を別の会社の方からいただく、といった状態を不思議にも維持することができた。
繋がりのあるVCの方やスタートアップ支援をやられている方からは、投資先にガンガン紹介したい、もっとやってもらえないか、と依頼されるケースもあったが、日中仕事に支障を出したくなかったのと、そもそも同時に10社や20社といった規模を受けるのがどう頑張っても不可能な構造だったので、基本的に細々とやることにした。
支援事例
半年〜1年以内に監査法人との契約を目指しているが、管理本部長も経理部長も経理担当もいないようなIPO準備フェーズのスタートアップの経理財務体制構築&運用定着などに注力した。クライアントサイドに手を動かすスタッフがいないので、現金主義/税法基準の税理士記帳代行からの脱却&税理士変更、不明残高精査、会計方針整備、過去のデータ分析、構築した仕組みを運用するための月次決算マニュアル作成、実際の月次プロセス運用、Google Driveのフォルダ設計、現場改善、定着支援と引継ぎなど全工程を実際にやる必要があった。
当然1人では終わらない。業務プロセスを難易度・権限・ツール練度といった観点で分解し、人間のアシスタントに任せるプロセス、AIアシスタントに任せるプロセス、Google Apps Scriptに任せて自動化するプロセスなどを決めていき、常識的には終わる見込みのない納期のプロジェクトでも終わるようにプロセスを改善していった。
パートタイム起業家だと稼働時間の制約が厳しいため、対応できる案件も小規模になるように思える。しかし実際は、適切に業務をブレイクダウンしてアシスタント&AIとチームを組成することで、月に200時間以上の工数を要するような案件でも十分対応できることが分かった。振り返ってみれば、パートタイム起業をした直後に世にChatGPTが放たれたため、こういった働き方の実験の場としても最高のタイミングだった。
自身に起きた変化
そんなこんなで、いくつかの会社をご支援させていただき、早2年。
チャレンジングな業務に携わり続けたおかげで、昔は見えなかったことがどんどん見えるようになった。やらなくて良い仕事を何度もやってしまったおかげで、地雷や落とし穴にも随分早く気付けるようになった。
何より、人間、AI、プログラムで業務プロセスを分担するという、圧倒的に効率化されたハイブリッドな仕事の進め方を当たり前にデザインできるようになった。3日かかる業務を2時間に短縮するといった劇的な効率化もできるようになり、コーポレート実務の必要工数に対する考え方が根幹から変わった。
経営に対する考え方も随分変わったように思う。1on1や業務レクチャーを行う全ての時間、雑談時間の人件費を痛いほど意識するようになった。100%オーナー企業における経費の利用は、自分の財布からの出費と変わらない。今までも経営管理担当役員としてコストを徹底的に絞る仕事は沢山やってきたが、会社のお金が自分のお金になった瞬間に、許容範囲も投資の考え方もガラリと変わった。
指示の不備、あるいはスキルを見誤ったことにより発生する手戻りコストや時間損失もはるかに意識するようになった。プロジェクトをブレイクダウンして適切な難易度の仕事としてアシスタントに都度依頼しなければ、事実上1人で大型プロジェクトを進めることになってしまう。子育てやプライベートが忙しいタイミング、体調を壊し気味のタイミングなどは指示が後手に回ってしまい、自分でなんとか取り戻すしかない局面も多かった。
おわりに
これまでに子会社代表、IPO責任者、経営管理担当役員、コーポレート責任者&CFOといった様々な立場を経験してきたけれど、振り返ってみれば、雇われ感覚が少なからずあったように感じる。本当に経営者感覚と呼べるものは、自分の会社で起業してみないと分からないものだな、と今では思う。
今後スタートアップのように顧客基盤を大きくするつもりも、組織を大きくするつもりも無いけれど、引き継ぎ淡々と、細々と、しかしゴリゴリに、パートタイム起業を楽しみたい。