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知らなかったでは済まされない!無償ストックオプション発行時にスタートアップがミスしやすいポイント(2)~行使条件編~

はじめに

この記事は「無償ストックオプション発行時にスタートアップがミスしやすいポイント」シリーズの2作目の記事です。1作目を読まれていない場合は、下記よりご確認ください。

2作目となる今回は、無償SO設計における行使条件について解説します。

免責事項(再掲)
本記事の内容は、2022年7月時点の国内各種法令および国内スタートアップの商習慣に基づき記載しておりますが、その正確性および最新性について何ら保証するものではありません。また本記事はあくまで、無償SO発行においてミスしやすい点を紹介する記事に過ぎず、個別具体的なアドバイスを行うものではありませんので、実際のストックオプション発行や権利行使価額の設計、登記等にあたっては必ずストックオプションの取り扱いに慣れた弁護士、税理士、司法書士、その他専門家等にご相談ください。本記事により損害が発生しても、損害の責任は負いかねますのでご了承ください。

略称一覧

ストックオプション:SO
無償税制適格ストックオプション:適格SO
無償税制非適格ストックオプション:非適格SO
無償ストックオプション(適格SOと非適格SOの総称):無償SO
有償ストックオプション(いわゆる時価発行新株予約権):有償SO
ベンチャーキャピタル:VC
租税特別措置法:租特法

要項と割当契約書について(基礎知識)

無償SOの発行実務では、通常、新株予約権の発行要項あるいは発行要領(以下、「要項」と言います)と新株予約権の割当契約書(以下、「割当契約書」と言います)という2種類のドキュメントを作成します。今回紹介する行使条件は、この2種類のドキュメントのうち要項に記載される事項となりますが、基礎知識として要項と割当契約書契約書の主な役割について解説します。

要項

会社法第236条に規定されている「新株予約権の内容」を定義するドキュメントです。「新株予約権の内容」は、会社法に基づき決議される会社の事項であり、誰に対しても同じ内容となります。すなわち、誰に無償SOを付与しようと、要項で定める「新株予約権の内容」は共通で、無償SOの付与を受けていない人(例えばM&Aにおける買い手など)にとっても「新株予約権の内容」は同様となります。また加えて要項は、新株予約権の登記申請において必要となる「登記すべき事項」の内容のほぼ全てを記載するドキュメントでもあります。

登記の観点で見ると、要項の記載事項は、「登記すべき事項」と連動する項目と、「登記すべき事項」にならない(登記されない)ものの、会社法上の新株予約権の内容として記載する項目に分かれています。したがって、要項記載事項の全てが登記されるわけでは無いことまで知っておくと、登記簿が読みやすくなります。

登記すべき事項(登記簿に実際に記載される事項)かつ要項に記載する事項
新株予約権の名称
発行年月日(*1)
新株予約権の数(*2)
新株予約権の目的たる株式の種類及び数又はその算定方法
募集新株予約権の払込金額若しくはその算定方法又は払込を要しないとする旨
新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
新株予約権を行使することのできる期間
新株予約権の行使の条件(*3)
会社が新株予約権を取得することができる事由及び取得の条件
※要項における項目のタイトルは、登記すべき事項と一字一句同じである必要はないので、文言は会社によって異なる

登記簿には記載されないが、要項には記載される項目
増加する資本金及び資本準備金に関する事項
譲渡による新株予約権の取得の制限
組織再編行為の際の新株予約権の取扱い
新株予約権証券に関する事項

新株予約権発行要項と登記すべき事項の関係の主な例

(*1)登記簿における発行年月日とは、発行決議日でなく割当日を指します。割当日は、「新株予約権の内容」ではなく「新株予約権の募集事項」で定める事項であり、株主総会決議によって取締役会に委任も可能です。したがって、もし発行決議日と割当日が異なるケース(例えば申込割り当て方式を採用した場合、必ず1日以上ズレが出る)では、「発行年月日」は要項に連動するのではなく募集事項の決定の議事録(株主総会議事録または取締役会議事録)に記載される割当日と連動します。

(*2)登記すべき新株予約権の数は、総数引受方式による発行であれば、要項記載の数と同じとなります。一方で、申込割当方式による発行を採用し、もし申込があった数が予定より少なかった(辞退者が出たなど)場合は、申込があった数の合計となります。

(*3)会社法の条文を読む限り、新株予約権の行使の条件は「新株予約権の内容」として明記されいません。しかし、新株予約権の行使条件は、新株予約権の内容に含まれるものとして解されています(行使条件に反する新株予約権の行使による株式の発行の効力を争った平成24年4月24日付最高裁判例参照)。

割当契約書

要項で定義した「新株予約権の内容」に基づき発行される無償SOの付与にあたって、会社と付与対象者の間で個別に締結する契約が割当契約書(+別紙としての添付要項)です。

無償SOの付与にあたっては、募集事項に基づき発行されるSOに対して、「いつ」「誰が」「何個」の無償SOを引き受けるかを少なくとも決める必要があり、その情報を記載する書類が「割当契約書」です(*4)。逆に言えば、そのような情報さえ記載されている限り、その他の事項に何を記載しようと(法令の範囲内であれば)各社の裁量となります。すなわち割当契約書は、要項と違って項目レベルからフリーフォーマットの契約書ですので、柔軟な設計ができる反面、登記対象外かつ開示対象外につき、他社事例を確認することができないミスしやすい書類とも言えます。また、無償SOを適格SOとして取り扱うにあたって必要となる税制適格要件を記載する書類でもあります(詳細については次回以降で解説予定)。なお行使条件については、要項に記載するのが一般的ですが、要項と割当契約書を組み合わせて設計することも実務上は可能です。
(*4)登記実務上、「割当契約書」を利用して「募集新株予約権の総数引受契約を証する書面」もしくは「募集新株予約権の引受の申込を証する書面」としますが、専門的な話につき省略します。興味のある方は、弁護士、司法書士にご確認ください。

それは早速、SO発行における行使条件について解説します。

SOの行使条件とは?

無償SOに限らず新株予約権の発行では、その行使条件を設定可能です。設定される条件は各社により異なりますが、よく見られる条件としては、下記などが存在します。

IPO企業におけるSO行使条件の例
・行使時の在籍を必須とする
・ベスティング
・株式公開後しか行使できない(M&Aでは行使不可能 or M&Aでも行使できる)
・相続による行使の禁止
・1個未満行使の禁止
・発行可能株式総数を超過する行使の禁止
・税制適格要件に関する事項
・割当契約書で定める事項への準拠
・新株予約権の取得事由の不発生

Iの部より筆者集計

一方で、全てのスタートアップにとってオススメの行使条件は当然に存在しません。無償SOを初めて発行するスタートアップの多くは、弁護士から提供される雛形を利用するものと思いますが、行使条件の検討が不十分なまま設計すると、新株予約権者に対して本来意図しなかった制限を加えてしまいます。雛形、あるいは他社事例を鵜呑みにせず、自社に合った行使条件を入念に設計する必要があります。

ところで、SOの行使条件は、有償無償を問わず新規上場申請のための有価証券報告書(Iの部)における必須記載事項ですので、Iの部の【ストックオプション制度の内容】を確認することで誰でも開示対象期間に発行されたSOの行使条件を調べることができます。というわけで今回は、実際に2022年上期にマザーズ市場/グロース市場にIPOした会社のIの部より行使条件の事例をピックアップすることで、その条件の設計背景や留意点を深掘りしてみたいと思います。

条件①行使時の在籍を必須とする

日本では、税制適格要件の制約から、適格SOの付与時において会社の取締役、執行役または従業員である必要があります。では適格SOとして扱うために行使時にも在籍要件が設けられているかというと、実は税制適格の要件において、行使時に会社に在籍している必要はありません(たまに誤解されているケースが見られます)。

すなわち租特法では、会社が認める限り、適格SOを付与された翌日に退職しても適格SOを保有し続けることが可能です。あるいは、一度他の会社に転職して出戻りしたメンバーのSO行使を認めることも設計上は可能です(退職時にSOを消却していなければ)。そうなりますと、(モラルの観点を無視すると、)適格SOを付与される立場からすれば、適格SOを貰えるスタートアップからスタートアップへどんどん転職したほうが、1社で働き続けるよりも金銭的インセンティブが発生します。

一方、スタートアップがSOを発行する理由の多くは既存の役職員に対するインセンティブですので、付与後すぐに転職されては、付与する意味がないどころか資本政策上もマイナスでしかありません。従って多くのSOでは、一定期間働いた人に対するインセンティブとして機能させる目的から、行使時の在籍要件が設定されているものと考えられます(雛形や過去事例をベースに盲目的に設定されている可能性もあります)。

記載例としては下記などがよく見られます。行使時の在籍要件は、8割以上のIPO企業で採用されている行使条件です。

■取締役、執行役、監査役又は従業員とするケース
新株予約権の割当てを受けた者は、権利行使時においても、当社又は子会社の取締役、執行役、監査役又は従業員の地位にあることを要する。ただし、取締役会が認めた場合はこの限りでない。

サークレイス株式会社のIの部より

■顧問や社外協力者まで記載するケース
本新株予約権の権利行使時において、当社または当社の子会社の取締役、監査役、従業員または顧問、社外協力者その他これに準ずる地位を有していること。ただし、当社取締役会決議により正当な理由があると認られた場合はこの限りではない。

セカンドサイトアナリティカ株式会社のIの部より

将来的なグループ経営や委員会設置会社への移行を想定し、上記例のように子会社や執行役といったケースまで記載すると使い勝手がよい条件となります。また、権利行使期間の前に定年退職を迎えてしまう方がいるケース、役員任期満了で退任するケース、幹部社員が病気や事故等で退職せざるを得なくなるケースなど、現実では何か起こるかわかりませんので、そういった場合を想定し「顧問」「社外協力者」「取締役会が認めた場合はこの限りではない。」などを入れておくと機動力が上がります。

条件②ベスティング

ところで、無償SOにおいて「一定期間働く人に対するインセンティブにしたい」という目的を満たす手段は、「行使時の在籍要件」しかないのでしょうか?実は別の手段として、「ベスティング」があります。

SOにおけるベスティングとは、行使期間に到達したSOであってもすぐに100%行使することを認めず、段階的に行使可能とする設計のことです。ベスティングには、期間型ベスティングと業績型ベスティングの2種類があり、無償SOを発行した新規上場スタートアップの1~3割程度で採用されています(メジャーと言えるほどではありません)。

期間型べスティング

期間型ベスティングとは、付与日以降、あるいは上場日などの特定の条件を満たす日以降から、一定期間毎に行使可能なSOの割合が増えていくという条件です。「一定期間働く人に対するインセンティブにしたい」という目的を満たす手段としての期間型べスティングであれば、付与日からのべスティングで問題ありませんが、「IPOをきっかけに退職するのを防止したい」などの目的も満たす手段として設定される場合は、IPOを起点として2年~4年程度で全てのSOを行使可能とする設計となります。2022年上期のIPO企業では、2月25日上場の㈱マーキュリーリアルテックイノベーター、4月4日上場のセカンドサイトアナリティカ㈱、4月27日上場のモイ㈱、4月28日上場のクリアル㈱、6月23日上場の㈱坪田ラボ、6月27日上場の㈱サンウェルズ、6月28日上場の㈱M&A総合研究所などで採用されており、会社によってべスティング条件が異なることが分かります。

■IPO当日以降、1年あたり50%の行使を可能とするケース
新株予約権者は、本新株予約権の行使期間の開始日と、当社普通株式が日本国内の証券取引所に新規株式公開される日のいずれか遅い方の日(以下、当該日を「権利行使可能日」という。)から、次の(a)乃至(b)の区分に従い、本新株予約権を行使することができる。ただし、行使可能な新株予約権について、計算の結果1個未満の端数を生ずる場合、その端数を切り捨てる。
(a) 権利行使可能日(同日も含む。)から1年を経過する日(同日を含まない。)まで割り当てられた本新株予約権の個数(以下「割当個数」という。)の50%を上限として権利行使できる。
(b) 権利行使可能日(同日も含む。)から1年を経過する日(同日も含む。)以降割当個数の100%を上限として行使できる。

モイ株式会社のIの部より

■IPOの1年後以降、1年あたり25%の行使を可能とするケース
新株予約権者は、他の新株予約権の行使の条件を充足していることを条件に、以下に掲げる期間においてのみ、それぞれに定める割合を限度として、新株予約権を行使することができるものとする。ただし、株式公開の日以降、取締役会において別途決議した場合は、下記①から④に定める期間及び割合に関わりなく、承認された新株予約権の個数につき行使することができるものとする。
①株式公開の日の1年後の応当日から起算して1年間 割当てを受けた新株予約権の25%に相当する数(1個に満たない端数が生じる場合には、これを切り捨てる)
②株式公開の日の2年後の応当日から起算して1年間 割当てを受けた新株予約権の50%に相当する数(1個に満たない端数が生じる場合には、これを切り捨てる)
③株式公開の日の3年後の応当日から起算して1年間 割当てを受けた新株予約権の75%に相当する数(1個に満たない端数が生じる場合には、これを切り捨てる)
④株式公開の日の4年後の応当日以降 割当てを受けた新株予約権の全て

クリアル株式会社のIの部より

■IPO当日以降、6ヶ月あたり25%、1年経過で100%の行使を可能とするケース
新株予約権者は、新株予約権を、以下のアからウに掲げる期間において、すでに行使した新株予約権を含めて以下のアからウに掲げる割合の限度において行使することができる。当該割合に基づき算出される行使可能な新株予約権の個数に1個未満の端数が生じる場合は、当該端数を切り捨てた個数の新株予約権についてのみ行使することができるものとする。
ア:上場日から6カ月間
新株予約権者が割当を受けた新株予約権の総数の25%
イ:上場日から6カ月間を経過した日から6カ月間
新株予約権者が割当を受けた新株予約権の総数の50%
ウ:上場日から12カ月が経過した日から行使期間の末日まで
新株予約権者が割当を受けた新株予約権の総数のすべて

株式会社坪田ラボのIの部より

IPO起点の期間型べスティングを設計する際は、行使期間に留意する必要があります。通常の適格SOでは、行使期間の最終日は付与決議日の10年後となりますので、仮にIPO当日から1年毎に25%行使可能な期間型べスティングを付与した場合かつIPOのスケジュールが当初の想定より遅れて付与決議日の8年経過後に上場となった場合は、一部のSOが行使不可能になってしまいます。IPO準備の世界では、下記画像のような「永遠のN-2」と呼ばれるN-2期からなかなか前に進めないなどの悪夢も実際に存在しており、シードから上場まで5年以上かかることの方がむしろ一般的と考えてべスティングを設計する必要があります。

上記を考慮すると、IPOを起点とする期間型べスティングは、IPOが相当先になるシード/アーリーフェーズのスタートアップで推奨されるものでなく、あくまでIPO予定時期が見えているN-3期、あるいは監査法人と契約済みであるN-2期以降でのみ採用するのが良いと考えます(実際に、上記で紹介した2社もN-2期以降のSOで採用しています)。仮にN-3期にIPO起点4年べスティングのSOを発行した場合は、下記の画像のような行使が可能となります。

もしくは、2022年6月27日上場の株式会社サンウェルズのように、万が一行使期限ギリギリでの上場となった場合IPO起点べスティングを無視して行使できるよう設計する方法も考えられます。

■行使期限ギリギリの上場を想定したケース
新株予約権者は、新株予約権の行使にあたっては、以下の区分に従って、割当てられた権利の一部又は全部を行使することができる。ただし、上場日が2030年1月1日以降となる場合には、上場日以降、割当てられた権利の全部について行使することができる。
(a)上場日以降、割当てられた権利の3分の1について行使することができる。
(b)上場日から1年が経過する日以降、割当てられた権利の3分の2について行使することができる。
(c)上場日から2年が経過する日以降、割当てられた権利の全部について行使することができる。
(d)上記各期間における行使可能な権利の累計数は、当該期間以前の期間に既に行使した部分を含むものとする。

㈱サンウェルズのIの部より


業績型べスティング

なお上記では期間型べスティングの事例を紹介しましたが、ごく稀に、業績型べスティングを採用するケースもあります。業績型べスティングとは、目標とする業績を達成する毎に付与済のSOが行使可能とする設計です。業績のいかんによらず「待っていれば行使可能」とも言える期間型べスティングと異なり、業績型べスティングでは業績が未達になった瞬間にSOが消えてしまいますので、より役職員のコミットが必要なタイプのSOとなります。ただし、業績は役職員のコミットだけなく市況にも大きく影響されますので、外部環境に大きな変化があった場合のリスクを承知の上で設計する必要があります。昨年のIPO事例となりますが、2021年6月30日上場の株式会社プラスアルファ・コンサルティングが5%刻みの業績型べスティングを採用し、そして本記事公開日現在において、100%達成見込みとなっています(2021年9月期は達成済み、2022年9月期は業績予想ベースで達成見込)。

新株予約権の割り当てを受けた者(以下「新株予約権者」という。)は、当社の2021年9月期及び2022年9月期の2事業年度の営業利益が、次の各号に掲げる水準を満たしている場合に、割当てを受けた本新株予約権のうち当該各号に掲げる割合(以下、「行使可能割合」という。)を合計した行使可能割合を限度として本新株予約権を行使できる。
(1) 2021年9月期の営業利益が1,180百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(2) 2021年9月期の営業利益が1,250百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(3) 2021年9月期の営業利益が1,330百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(4) 2021年9月期の営業利益が1,400百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(5) 2021年9月期の営業利益が1,470百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(6) 2021年9月期の営業利益が1,550百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(7) 2021年9月期の営業利益が1,620百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(8) 2021年9月期の営業利益が1,690百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(9) 2021年9月期の営業利益が1,770百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(10) 2021年9月期の営業利益が1,840百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(11) 2022年9月期の営業利益が1,340百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(12) 2022年9月期の営業利益が1,440百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(13) 2022年9月期の営業利益が1,540百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(14) 2022年9月期の営業利益が1,630百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(15) 2022年9月期の営業利益が1,730百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(16) 2022年9月期の営業利益が1,830百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(17) 2022年9月期の営業利益が1,930百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(18) 2022年9月期の営業利益が2,020百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(19) 2022年9月期の営業利益が2,120百万円以上の場合 行使可能割合:5%
(20) 2022年9月期の営業利益が2,220百万円以上の場合 行使可能割合:5%
なお、上記における営業利益の判定においては、当社の監査済みかつ株主総会で承認又は報告された損益計算書(連結財務諸表を作成した場合は連結損益計算書)における営業利益(連結財務諸表を作成した場合は連結営業利益)を参照するものとし、参照すべき項目の概念に重要な変更があった場合には、別途参照すべき指標を取締役会で合理的な範囲内で定めるものとする。また、行使可能割合の計算において、各新株予約権者の行使可能な本新株予約権の数に1個未満の端数が生じる場合は、これを切り捨てた数とする。

株式会社プラスアルファ・コンサルティングのIの部より


条件③株式公開後しか行使できない(M&Aでは行使不可能 or M&Aでも行使できる)

IPOを起点とする期間型べスティングを紹介しましたが、べスティングの無い、いわゆる「エグジット縛り」という行使条件も存在します。SOの行使期間に入った場合であっても、株式公開後またはM&A後しか当該SOを行使できない、というものです。こういったエグジット縛り要件は5~6割程度のIPO企業で採用されています。

SOを発行する会社は通常、資本政策としてIPOもしくはM&Aを想定していると思われます。もしIPOもM&Aも想定していない非公開会社であれば、譲渡制限株式を自由に売買することはできませんので、SOを行使できたところで役職員にとっては費用がかかるばかりで、金銭的メリットはありません(セカンダリー市場は存在しないと仮定します)。したがって、IPOもM&Aも想定していない会社の場合、そもそもSOを付与しても行使するインセンティブが殆どありません。結果として、IPOまたはM&Aが発生しない限りは行使不可という条件を設定する合理性が生まれます。

なお上記はSO全般に関する話ですが、SOが適格SOの場合には条件を「IPO縛り」に限定する合理性も生まれます。詳細は別記事にて解説としますが、適格SOでは、発行したSOを適格SOとして行使するために、租特法の定めに従って、行使後の株式の保管委託に関する契約を証券会社等と締結する必要があります。一般的な非公開会社は、IPO準備に入っていない限り証券会社等と契約することはまずありません(*5)ので、結果的に、IPO準備企業しか適格SOの行使はできないものとなっています。ただし、後述する事例のように、適格SOとして発行した無償SOを、M&Aをトリガーとして、非適格SOに切り替えて行使可能とする設計も存在します。
(*5)最近は、非公開会社向けに、適格SO行使にあたって必要となる保管委託を請け負う事業者も存在します。

そうなりますと、行使条件の設計の選択肢としては、「IPOしたら行使できる」「M&Aが発生したら行使できる」「IPOでもM&Aでも、いわゆるエグジットが発生したら行使できる」という3パターンの設計が妥当な選択肢として考えられます。ただし実務上は、IPOしたスタートアップという性質から、「IPOしたら行使できる」もしくは「IPOでもM&Aでも、いわゆるエグジットが発生したら行使できる」の2パターンが多く見られます。下記に主な事例を掲載します。

■IPO当日より行使可能とする設計
本新株予約権は、当社の普通株式が日本国内のいずれかの証券取引所に上場した場合に限り行使することができる。

株式会社トリプルアイズのIの部より

■IPO当日から一定期間経過後の行使可能とする設計
当社の普通株式が、いずれかの金融商品取引所に上場し、かつ上場した日から6ヶ月を経過した場合に限り行使できるものとする。

エッジテクノロジー株式会社のIの部

■IPO当日以降または行使期間を問わないM&A発生をトリガーとして行使可能とする設計
② 当社株式が日本国内の証券取引所にて上場すること、もしくは③に定める事由が発生することを要する。
③ 行使期間初日より前に以下の事由が発生する場合に限り、行使期間が未到来であっても当社の承認を得て行使することができる。
(1) 当社経営権の第三者への移行
(2) 当社創業者の所有する当社株式の半数以上が第三者に譲渡されること

CaSy株式会社のIの部より

■IPO当日以降または行使期間中のM&Aをトリガーとして行使可能とする設計
(3)権利者は、当社の株式のいずれかの金融商品取引所への上場がなされるまでの期間は、本新株予約権を行使することはできないものとする。ただし、当社が特に行使を認めた場合はこの限りでない。
(中略)
(5)上記(3)の内容にかかわらず、権利者は、当社の買収について、法令上又は当社の定款上必要な当社の株主総会その他の機関の承認の決議又は決定(以下「買取決定」という。)が行われ、さらに当該買取決定と同時に又は当該買取決定から10日以内に当社が新株予約権の行使を認めた(以下「買収時行使決定」という。)場合には、その日以降、当社が本新株予約権の行使を認めた期間(以下「買収時行使期間」という。)に限り、当社が行使を認めた数の本新株予約権を行使することができるものとする。「当社の買収」とは、以下のいずれかの場合を意味し、以下同様とする。
① 当社の発行済株式の議決権総数の50%超を特定の第三者が自ら並びにその子会社及び関連会社により取得すること。なお、「子会社」及び「関連会社」とは、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和38年大蔵省令第59号、その後の改正も含む。)第8条で定義される「子会社」及び「関連会社」を意味する。
② 当社が他の会社と合併することにより、合併直前の当社の総株主が合併後の会社に関して保有することとなる議決権総数が、合併後の会社の発行済株式の議決権総数の50%未満となること。
③ 当社が他の会社と株式交換を行うことにより、株式交換直前の当社の総株主が株式交換後の完全親会社に関して保有することとなる議決権総数が、株式交換後の完全親会社の発行済株式の議決権総数の50%未満となること。
④ 当社が他の会社と株式移転を行うことにより、株式移転直前の当社の総株主が株式移転後の完全親会社に関して保有することとなる議決権総数が、株式移転後の完全親会社の発行済株式の議決権総数の50%未満となること。
⑤ 当社が事業譲渡又は会社分割により当社の事業の全部又は実質的に全部を第三者に移転させること。

ANYCOLOR株式会社のIの部より

なお経営メンバーが「M&Aによるエグジットの可能性は、我が社ではゼロである」と考えた場合、M&Aを想定した条項は必要ないという判断になりますので、実務上必ずしもM&Aに関する行使条件を記載する必要があるとは言い切れません。逆に、M&Aの可能性を従業員に示唆すること自体がネガティブに捉えられるカルチャーの会社では、こういった条項の取り扱いに気をつける必要があるとも考えられます。

条件④税制適格要件

SOの行使条件に、ごく稀に、税制適格要件の一部を記載するケースが見られます。ただ観測する限り殆どの新規上場スタートアップでは、SOの行使条件に税制適格要件を満たすための条件は記載されていません(≒割当契約書側に記載していると思われます)ので、税制適格要件の記載方法については次回以降の記事で取り扱うこととします。

というわけで本記事では、無償SO発行時における行使条件について解説しました。雛形や他社事例を鵜呑みにせず、自社に合った行使条件を入念に設計しましょう。次回のnoteでは、税制適格要件について解説します。


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