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8 僕が意識を取り戻して目を開けると、目の前にアイリンがいて、僕の顔を覗き込んでいた。 「アイリン」 と僕は思わず口にした。 「私はアイリンの開発者の嘉門愛よ」 と彼女は言った。 カモンアイ? そして彼女は僕の目の前にあった顔を遠ざけた。彼女の隣には同じ顔をした女が立っていた。 「そしてこの子は私の双子の妹で共同研究者のリン」 リン? カモンアイとカモンリン? カモンって苗字だったのか、、。
7 知美はソフトクリームを食べた。 目をつぶって「ふぅ」とため息をつき、心を落ち着かせる。禅の境地だ。集中力だ。まるで今、目の前で見たことのすべてを無かったことにするかのように。 形はともあれ、これはフラペチーノだ。そう、スターバックス・コーヒーのフラペチーノなのだ。 知美がぱくっとそれを食べた。目をつぶったまま、しあわせそうな表情をして。 大した精神力だ、と僕は感心した。
6 僕らはスタバから逃げた。 いや、スタバから逃げたのではなく、彼女を追う彼女の開発者から逃げたのだ。 彼女はアンドロイドだ。
5 「私はアイリンの開発者よ。悪いけどアイリンは返してもらうわよ」 と彼女が言った。彼女はアイリンというのか。 (アイリーンじゃなかった)
4 僕はアンドロイドの彼女と一緒にスターバックス・コーヒーに行った。 アンドロイドのお姉さんだ。 アンドロイドのお姉さんと言ってもあのアンドロイドのお姉さんじゃない。あのアンドロイドのお姉さんは人間だ。 エアコンぶんぶんお姉さんでもない。 あのでもない。
3 朝起きて、僕はアンドロイドを確認する。 彼女は壁にもたれかけたまま眠っている。 若い女の子をこんな状態で放っておくことには少しばかり罪悪感を覚えたが、彼女はアンドロイドだ。人間ではないのだ。 だけどもそのあどけない寝顔を見ていると、僕にはそれがとても機械だなんて思えなかった。 僕は彼女の腕のインジケータを見る。充電は100%になっていた。 僕はキーワードを言う。 「カモン、アイリーン」
2 僕はアパートへと歩いて向かう。 そのすぐ後ろを彼女がついてくる。 彼女はアンドロイドだ。 あたりは暗くなってきた。通りには街頭の明かりが灯った。街頭のまわりには小さな虫たちが群がっていた。 彼女は歩きながら目の前を邪魔臭さそうに両手で払っていた。彼女の周りに虫は飛んでいない。僕は不思議に思って彼女に訊ねてみた。 「何をやっているの?」 僕の言葉に彼女はうんざりしたような表情をして僕に答えた。 「ここ、WIFIが飛んでいるのよ」 カズレーザーか!
僕は寂しい気持になると、いつもここに来る。 夕暮れの荒川の土手。川の流れを眺めながら、僕は大きく息を吸う。 気持ちがいい風が流れてゆく。嫌なことなんて忘れてしまう。 ここは僕だけの空間だ。誰もいない。ゆっくりと時間が流れる。 名前も知らない鳥が飛んで行った。雑草が風で揺れている。僕は何気なくその鳥の飛ぶ行方を目で追っていた。 そして僕はそれを見つけた。僕の視界に映ったのは、美しい顔をした女の子の姿。彼女は雑草の上にあおむけに倒れていた。 眠っている? いや、死