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上野照美は悩んでいる。 悩みの種は名前だ。
京子はビデオカメラの前で語り始めた。 それは、誰にも言えない秘密だった。
「ねえ、「さいちゅう」があるよ」 と彼女はお土産ショップで僕に言った。 「それ、「さいちゅう」じゃなくて「もなか」だよ。「最中」って書いて「もなか」って読むんだよ」 と僕は答えた。 「「さいちゅう」じゃなくて、「もなか」ね」 と彼女はそれを忘れないようにするために繰り返した。 彼女は「もなか」が気に入ったようだった。
僕がアパートに帰ると、ベッドの中に僕の彼女と知らない男が寝ていた。
「考える人って、何を考えていると思う?」 と僕は彼女に尋ねた。 「何も考えていないと思う」 と彼女は答える。 「え?」
「ねえ、結婚したらさあ、東京に住みたい」 と彼女は言った。 「え? 結婚したらって何? 僕たち付き合ってないけど」 「え? だって私達、許嫁 でしょう?」
「最近シェアライドしているんだけど君もする?」 と明夫は僕に言った。 僕らは渋谷のセンター街を歩いていた。
僕は大学3年生で、彼女は大学1年生だった。 僕は工学部で、彼女は文学部だった。 僕は古い映画が好きで、ロバート・レッドフォード主演の「華麗なるギャツビー」という映画が好きで、彼女は日本文学が好きで、村上春樹の「風の歌を聴け」が好きだった。 僕はビートルズが好きで、「ノーウェジアン・ウッド」を聴いていて、彼女は村上春樹の「ノルウェーの森」を読んでいた。
僕は漁船で沖にでているときに、人魚に出会った。
「ねえ、私ね、バーテンダーになろうと思うの」 と彼女は唐突に言った。 「何で?」 と僕は訊ねた。 「ただのバーテンダーじゃあ無いのよ。踊るバーテンダー」 「え? 踊るさんま御殿?」 「違うわよ。何が「踊る大捜査線」よ?」 い、言ってない。 「だからね、踊りながらカクテルを作るの」 「もしかして、映画観た?」 「うん」 「カクテル !」 2人が同時に叫んだ。