【短編小説】「ベルガマスク組曲」/ドビュッシー
1.
おかあさん、ねえおかあさん!
スカートの裾をつかんで引いたら、ぶたれた。唇をすこし切った。なめると、鉄の味がした。
お母さんが去年くらいから弾くようになったこの曲は、次から次へと水滴がしたたってくるみたいに聴こえる。
わたしはこの曲とこの曲を弾いているお母さんがとても好きだ。
リビングに置いてある茶色いグランドピアノの前に座ると、お母さんは何時間もご飯も食べないで、トイレにも行かないで、弾くことに夢中になってしまう。
話しかけても答えてくれない。
だからわたしは、