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「これ、食べる?」 と彼女はバツが悪そうに僕にチョコレートの包を差し出した。
「魔法の鏡を持ってたら、私の暮らし、映してみたい?」 と小百合は僕に訊ねた。 「何? ユーミン?」 と僕が聞き返すと、小百合はうれしそうに「あるのよ」と言ってほほ笑んだ。
紺野民子はコンタミというあだ名で呼ばれている。 身なりが汚くて見苦しいし、髪はボサボサだし、臭いし、無愛想なものだから、汚染という英語であるコンタミネーションの略でコンタミと呼ばれているのだ。
彼女は僕のことが好きでも何でもなかった。 それなのに彼女は、「あなたのことが好き」と僕に言ったのだ。 彼女は嘘つきだ。 嘘をつくことで相手がどんな反応をするのかを見るのが楽しみなのだ。 僕はそんな彼女が好きだった。
僕の鞄の中から一枚の紙切れが出てきた。 それは映画のチケットの半券だった。 それを見て、僕は朋美の事を思い出す。
「君は神を信じる?」 と僕は彼女に訊ねた。 「信じない。だってそんなものいないから」 と彼女は答えた。
「栞が必要なんだよ」、という僕の言葉に彼女は顔を赤らめた。 彼女の名前が栞であるということを、僕はすっかり忘れていた。
「この小説、本当に君が書いたの?」 と担当編集者は彼女に言った。 「どうしてそう思うんですか?」 と井上奈々は答える。
「落書きされちゃってさあ、消すの手伝ってよ」 と僕は友人に頼まれた。 僕は案内された場所で、その落書きを見た。 あれ、これって。 「バンクシーじゃない?」
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