三鶴

1986年、静岡県生まれ。 高校卒業後、音楽の道へ。東京を中心に全国でライブ活動を展開。CDリリースやメディア出演の経験も多数。 現在は、主にエッセイを執筆している。

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ひたむきな、余りにひたむきな ~息子へ~

 息子の幼稚園の生活発表会を観に行ってきた。  今通っている幼稚園は園児がとても少なく、息子の所属する年少クラスは五人しかいない。園児の多様性に富みながらも、先生方の尽力のおかげで個性の発揮できる環境が整っている。以前の園で過剰適応になってしまった息子も、現在は徐々に自分らしさを表現できるようになってきているようだ。  生活発表会では先生と園児たちで作った歌や踊り、劇などを舞台で披露する。わが子は、大勢の前で何かを披露することは初めての体験である。息子はとても緊張しているよ

    • 人生の栞 【詩】

      「パパはいつになっても子どもだね」 と、君は言う 君はよく知っている 私が君を知っている以上に 「さみしい」 と、君が言う 眠りにつくまで頭を撫でていると 涙がこぼれて止まらなくなった 「どうして泣いてるの」 「大好きだからだよ」 と、頬を撫でる 「いやだ! いやだ! いやだあ!……」 と、君が言う 大泣きして必死に抱きつく この姿を 一生、私は背負っていく そう決めて、目に焼き付けた 私が泣いてはいけない 笑いながら 「大丈夫だよ」と背中を擦る 自分よりもずっと大切

      • ピザ屋のズル休みを手伝う

         高校生の頃に交際していた彼女Мは、ピザ屋でアルバイトをしていた。  私の部屋で睦言を交わしている最中、彼女は急に「あっ」と言った。一時間後にアルバイトの予定であることを思い出したのだそうだ。  だが、今から支度しても遅刻は確定だ。Mは「今日はもう休みたーい」と嘆く。しかし、休むにしても、出勤時間の直前すぎて迷惑がかかるのは間違いない。今から休みの連絡を入れるなんて気まずい行為だ。そこで、彼女はある提案をした。 「みつるが私のお父さんのふりして、お店に電話をかけてよ。店長に

        • もしも、あのとき……

           今回のエッセイは、親友が亡くなったときのことを綴ろうと思う。  Hのことは過去のエッセイにも載せたことがあるので、読んだことがない方は先にこちらを読んでいただけたら嬉しい。  私の親友は十五年前、亡くなった。彼は自ら死を選んだ。その動機の真実は、誰も知らない。だが、彼に最後にあった日のことを、私ははっきりと覚えている。  東京から帰省した秋頃、親友のHは子どもを連れて私に会いに来てくれた。およそ二年ぶりの再会だ。娘はまだ一歳だというが、少しだけ彼の面影がある。私が抱っこ

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          「なりたい」と「ありたい」の狭間で ~ゼロさんとの邂逅~

           ゼロ。  この言葉を聞くと、私はある男性を思い出す。それは、東京から田舎に帰ってきた二十代後半。まだ夢との折り合いをつけることができずに、だらだらとアルバイト生活を続けていた。そんなときに出会った、ある不思議なミュージシャンのことである。  これから、どうやって生きていこう。  中学生のときから音楽以外の人生をろくに考えてこなかった。これまで「駄目だったときのことを考えて、保険をかけておけ」と、いろんな人から言われたが、まったく聞く耳を持たなかった。だから、それ以外の

          「なりたい」と「ありたい」の狭間で ~ゼロさんとの邂逅~

          少しはましな世界の、一部になれたら

           その頃の私の生活といえば、平日は朝から昼過ぎまでコンビニでアルバイト、夕方には駅前の地下通路で路上ライブ、夜はバンドメンバーでスタジオ練習。大体そんな日々を過ごしていた。  東京から静岡に帰ってきた、二十代も後半に差しかっていた頃である。何のために生きているのか、目的もよくわからないまま。    ある日曜日、埼玉に住む音楽仲間、Takaちゃんがいつものように、ニコニコ生放送で自分語りや音楽配信を行っていた。彼の放送には、少人数ではあるが固定の視聴者がいる。私も時間が合うとき

          少しはましな世界の、一部になれたら

          東京の夜桜と、Tさんのナルシシズム

           東京のドラッグストアでアルバイトをしていた十九歳の頃。バイト仲間にTさんという一つ歳上の男性がいた。彼はいつも周囲の視線を気にして、すました顔をしている。彼の殆どの行動は「かっこいいと思われたい」という動機に基づいているものなのだ。私はそんな彼のナルシストぶりを観察することが、密かな楽しみだった。  バイト先の隣には美容院が建っている。アシスタントと思われる若手の美容師さんたちが、仕事に必要な日用品をよく買いに来ていた。その中でも、NさんとОさんはお洒落で顔立ちもよく、バ

          東京の夜桜と、Tさんのナルシシズム

          風に立つライオンになりたかった

           嫉妬。とてもやっかないな感情だ。しかし、嫉妬こそが、私たちの「欲しいもの」である。  十五歳の私が、誰よりも何よりも嫉妬した人物。それは、「風に立つライオン」という曲の主人公である。  この曲を知った時の衝撃は、今でも忘れられない。  それは道徳の授業のこと。日直の生徒が教卓の上にカセットデッキを運んできた。その間に先生は、曲の歌詞を書いた紙を配布する。  何をやるのだろうと身構えていると、特にこれといった説明もなく、急にカセットテープを流し始めた。さだまさしさんの歌だっ

          風に立つライオンになりたかった

          川に飛び込んだ小学生

           三年四組の教室で、帰りの会が行われていた。この時間、胸に黒い靄がかかり始め、息ができなくなるほど苦しくなる。  廊下側の窓から、二人の男が睨みつけるような視線をこちらに向けている。隣のクラスのTとOだ。彼らと目が合うと、体が震え、視界が暗くなるような錯覚に陥る。今日も彼らと一緒に帰らなければならない。  彼らは、自分たちのやっていることを「修行」と言った。でも、わかっていた。私の身に起きていることは、明らかな「いじめ」であることを。  元々、TとОは幼馴染だった。だが小学

          川に飛び込んだ小学生

          地球の端を歩いているような

           もう十七年くらい前のことである。ライブによく来てくれていた、私よりひと回りくらい歳上のSさんとJさんがいた。とても穏やかなカップルといった印象で、いつも微笑ましく私のステージを見守ってくれていた。  彼らがライブに来るようになったのは、たまたま私のホームページに訪れたことがきっかけだった。曲の歌詞を読んで、深く共感するところがあったのだと言う。二人は、重度の精神疾患を抱えて生活保護を受けていた。  渋谷CLUB QUATTROというライブハウスに出演した日の夜も、いつものよ

          地球の端を歩いているような

          あの日、あの場所を通らなかったら

           Takaちゃんと会ったのは、原宿駅の神宮橋で路上ライブをやっていたときだった。  神宮橋は路上ライブやコスプレの人気スポットである。ゴスロリファッションをした女性がたくさん聴いてくれている中、ギターを抱えた若い男性と小柄な女性が足を止めて聴いてくれた。曲が終わると、男性が「いいっすねえ」と笑顔で声をかけてきた。彼がTakaちゃんだった。  彼は当時の私と同じ二十歳で、歳下の彼女と手を繋いでいた。言葉は訛りが強くて、時々何を話しているかわからない。でも人柄も話し方も、とても

          あの日、あの場所を通らなかったら

          あの人も、あの街も

           路上ライブをやっていると、たくさんの出会いがある。そのほとんどが、二度と会うことのない、一生に一度の縁である。  看板を立てたりフライヤーを配布したりして、固定客が増えることを目指していても、そのとき出会った人は、いつも一期一会として受け止めている。  ただ、偶然に再会する奇跡も稀にある。  二十歳の頃、その日も池袋駅で路上ライブを演っていた。すると、長い黒髪の若い女性が足を止めた。  演奏が終わって、その女性に挨拶する。彼女は目を合わさずに、ぼそぼそと喋った。  彼女

          あの人も、あの街も

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」⑤ 最終話

           上野さんが亡くなってから一ヶ月後、坂本さんに居酒屋へ誘われた。佐々木さんを含めて、三人で酒を飲むことになったのである。 「それにしても、三浦くんがSeijiさんと歌うなんて、ホントにびっくりしたな」  坂本さんが二杯目のビールを飲みながら話し始めた。このメンバーで集うということは、上野さんやSeijiさんの話が出てくる。それは覚悟していた。  佐々木さんがやや興奮した調子で反応した。 「そうそう。あのSeijiですよ! 知り合いだったなんて。どうして早く言ってくれなか

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」⑤ 最終話

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」②

           病院祭から一週間が経った。  あの日から、上野さんの容態が急速に悪化した。酸素の投与や医療用麻薬の持続皮下注射が開始された。痛みや倦怠感が強く、ベッドから離れることはできない。  確かに、病院祭の前から背中の痛みや動悸などの違和感を訴えることが増えていた。が、あまりの突然な変化に多くのスタッフが驚いていた。  詩を考えたり、書いたりすることも辛いようで、リハビリのできない日が続いた。作業療法の内容を変更して、身体機能に対するアプローチを施そうとするも、彼女から断られてしまっ

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」②

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」①

           三月二十八日。年に一度の病院祭の日を迎えた。今年は、前島病院の創立百三十周年記念であり、例年より盛大に開かれることになった。  僕は実行委員として、会場であるホスピスのホールを忙しく歩き回っていた。  当日になってもスペシャルゲストは教えられず、開場時間になっても来ない。とても不安だ。誰かもわからない人物は、本当に来るのだろうか。  会場には細長いテーブルが並べられ、その上に栄養課の調理室で拵えた焼きそばやたこ焼きが置かれている。その他にも、かき氷や綿飴を作って配って

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第5章「永遠」①

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第4章「好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい」④

          好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい【エッセイ】  髪を切ってもらいながら、美容師さんの好きな音楽について聴いていた。すると、あるバンドの名前があがった。私はそのバンドのボーカルを少し知っている。だが、黙ってそのまま聴いていた。  美容師さんの話は、だんだんと熱が入る。笑顔で相槌を打ちながら、Sさんのことを考えていた。  Sさんは日本武道館で歌っていた。  偉大なミュージシャンたちも、昔の恋人も、彼に夢中だった。  人は彼を、カリスマボーカリストと呼んだ。  多少の贔

          共作小説【白い春〜君に贈る歌〜】第4章「好きって伝えたかったら、嫌いって書けばいい」④