序文/目次
序文:
人と人との間には、形容しがたいものが漂っている。それは時として好意であり嫌悪であり、憎しみであり、徹底的な無関心であったりする。私たちは、そうしたものと対峙をする術を、往々にして持ち合わせていない。多くの場合は、そうしたものを知覚すらしないまま通り過ぎていく。
文学の営みとは、高尚なものではなく、恐らく本来は、こうした人と人との間に横たわる得体の知れない、見えない蝮のとぐろをほぐすようなものだっただろう。
人は満たされない器、虚ろな器をどこかに持っていると思う。それは普段は覆われているが、ふとした隙間に顔を出す。それは私にも憶えのあることで、そうした瞬間に、私は生身の人間の醜悪さを身につまされるような心地がする。
この散文集はそうしたものをテーマに書いてみた。
目次:
1.「屠殺」
2.「腐肉」
3.「路傍の人」
終曲:明るいもの