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事故物件に作られた、ある像

当時も疑問でしたが、今考えても「なぜ、ああいう流れになったのだろう?」
と不思議に思うことがあります。今となっては誰かに確認することもできませんし、かといって当時の関係者ですら真意を知っている人はいないような気もします。


私が起業前に勤務していた音楽関連企業は、ある娯楽施設も経営していました。その業界では上位に入る大手です。現在の内部事情は知りませんが、私が在籍していた当時は活気に溢れ、代表は有能で社員思いであり、楽しい会社でした。

今でも疑問に思うというのは、都内某所のビルに店舗をオープンさせたときのことです。ハイブランドや高級デパートが並ぶ一角の空き物件に目をつけたのは、たしか当時の代表でした。
高層ではなく、せいぜい7〜8階建てのビルだったと思います。全館まるごとの賃料が、周囲より手頃だったと聞いています。

なぜ、賃料が他より手頃だったのか・・・。
聞いた話によると、少し前にそのビルで亡くなった方がいて、暫くの間借り手がいない状況が続いていたそうです。
亡くなったのは女性。投身自殺でした。


さて。
物件の賃貸借契約も済み、新店舗オープンに向けて関連部署が動き出すわけですが、いつも通り私も部分的に加わりました。
その物件の噂を事前に聞いていたために、まず驚いたのが新店舗の外装デザインです。

コンセプトは欧州の田舎町。女性に好まれる内装という方向性は時代にも合っていたと思います。外装は石造りのように見せる素材でシンプルにまとめていてコンセプト通りですが、私や他の人が驚いたのは最上階に大きな女神像を設置したことでした。建物のシンボルにしたわけです。

それも、屋上に立っているわけではありません。屋上付近の外壁に、まるで通りを見下ろすかのように設置したのですから。
ただの偶然か、誰かのこだわりだったのか。当時、物件の事情を知っていた人のほとんどがギョッとしていました。


当時の店長やスタッフの何人かは、遅い時間になると「なんとなく怖い」という話はしていましたね。とはいえ、特に問題もなく工事は進み、オープン後もそれなりに売り上げは上がっていたようです。

ただ、数年で閉店していました。
私もオープン前には何度か足を運んでいますし、どのデパートの近くだったとか、おおよその場所は今でも覚えています。でも、何処のビルだったのかは、さっぱり思い出せません。とっくに他の店舗になっているでしょうし、建て替えた可能性もありますから、わからなくても当然といえば当然なのですが。

こうして書いていても嫌な気分にはまったくならないのも不思議です。
女神像をシンボルにしようと考えたのは、誰なのか。最終決定は代表の筈ですが、そもそも誰がアイデアを出したのか、なぜそうなったのかは謎です。
真意はどうあれ、あの美しい女神像で女性の心が満たされたなら、穏やかになってくれていたなら、それは良いことだったと思います。


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