改正民法 解説

2020年4月から改正民法が施行されました。

一体、何がどう変わるのか

けっこうなボリュームになってますが、部分的につまみ食いで十分な気もするので、そういうわけで、最低限の知識だけでもどうぞ。


1.総則


■ 意思能力

意思無能力の規定がなかったため新設しました。今までは根拠なく解釈でやってきたのですが、運用としては当たり前になっているので問題ないかと思います。

旧:なし
新:意思表示をした時に意思能力を有しない者がした法律行為は無効

→ 判例(大判明38.5.11)にて、意思能力を有しない者がした法律行為は無効となるとしていたので、これを踏まえています。


この意思無能力を理由とする無効なのですが、意思能力を有しない者側からしか主張することができません


■ 公序良俗

旧:公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする行為は、無効とする
新:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする


→ 通常、お金の貸し借りは、「消費貸借契約」ですので、公序良俗に反しません。

ところが、賭けごとや身売りとかそういった類のものが目的だと問題です。

判例(最判昭47.4.25)によれば、動機が賭博などの場合、無効にしていました。

これを踏まえ、解釈上の運用だったところを明確化するために文言を削除しました。

■ 心裡留保

1.取引相手との関係

旧:「相手方が、表意者の真意を知り、または知ることができたとき」は無効
新:「相手方が、その意思表示が、表意者の真意ではないことを知り、または知ることができたとき」 は無効


→ 表意者がどういう目的で取引しようとしているのかという真意を知る必要はなくなります。「真意ではないな」ということがわかれば十分というように緩めました。


2.第三者との関係

旧:なし(94条2項を類推適用)
新設:心裡留保の無効は善意の第三者に対抗することができない


→(最判昭44.11.14)の判例によると、表意者と善意の第三者との関係について、94条2項を類推適用して、第三者を保護していました。

結論は維持しており、法律構成を新設してます。


■ 錯誤

錯誤は大きく変わりました。「総則」においては一番重要かもしれません。

1.要素の錯誤

旧:法律行為の要素に錯誤があったとき
新:錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるとき


→ 法律行為の要素に錯誤があるというためには、

錯誤がなかったならば意思表示しなかった」ということ

「錯誤がなかったら通常意思表示しなかったといえるくらい客観的に重要といえること」

この2つが必要でした。

「錯誤」と「意思表示しないだろう」ということとの間に因果関係があることというのが表意者自身の視点です。一方、錯誤が意思表示を左右するほど重要であることは通常人の視点です

2.動機の錯誤

最判昭29.11.26)を踏まえて、動機の錯誤が表示されていれば効力を否定できることを明文化しました。


→ 物件名や商品名の書き間違いのように、現実に表れたものが「表示の錯誤」で、その物件や商品を買う理由にあたる部分が「動機の錯誤」に当たりますが、二つを区別していなかったため明文化しました。


3.錯誤の法律効果

旧:…無効とする
新:…取消すことができる

最判昭40.9.10)を踏まえ、無効から取消しになりました
この変化はわりと大きいかもしれません。

表意者のみが主張できるという判例を踏まえています。
詐欺と比べてみると、詐欺は表意者に直接帰責性はありませんが、法律効果は「取消し」です。

錯誤は、表意者に直接帰責性があるにもかかわらず「無効」ですので、取消しより強力な法律効果を与えることになります。このバランスを考慮しました。

結果がほぼ同じなので実務的にはそう大きく変わりはないかもですが、保護のバランスは民法上とても重要です。


4.共通錯誤の効力

表意者に重過失があっても、相手方が表意者の錯誤につき知り、または重過失により知らないとき、共通錯誤のときは錯誤の効力を否定できる


→ 相手方の保護について見直しています。相手方を保護すべき要請に応じてバランスをとっています。


5.錯誤取消しと第三者

新:錯誤による取消しは善意・無過失の第三者に対抗できない。

→ 錯誤の場合、表意者に直接帰責性ありますので、第三者は保護すべき要請があります。

といっても、みずから虚偽の外観をつくりだしたような場合ほどは責められることもないので、無過失まで求めてバランスをとっています。


【参考】(条文が大きく変わったので)

旧(錯誤)
第95条 意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。
新(錯誤)第95条 ①意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。
一 意思表示に対応する意思を欠く錯誤 二 表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤                       
② 前項第二号の規定による意思表示の取消しは、その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたときに限り、することができる。

③ 錯誤が表意者の重大な過失によるものであった場合には、次に掲げる場合を除き、第一項の規定による意思表示の取消しをすることができない。
一 相手方が表意者に錯誤があることを知り、又は重大な過失によって知らなかったとき。
二 相手方が表意者と同一の錯誤に陥っていたとき。
④第一項の規定による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。

■ 代理

1.代理行為の有効性

瑕疵ある意思表示をした場合を、代理人がした場合と相手方がした場合に場合分けして整理してます。

意志の不存在・錯誤などの瑕疵は、代理人がした場合にのみ、代理行為の瑕疵として考えているようです。

旧:第101条① 意思表示の効力が意思の不存在、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。  (第二項は新設)
新:第101条① 代理人が相手方に対してした意思表示の効力が意思の不存在、錯誤、詐欺、強迫又はある事情を知っていたこと若しくは知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。                           ② 相手方が代理人に対してした意思表示の効力が意思表示を受けた者がある事情を知っていたこと又は知らなかったことにつき過失があったことによって影響を受けるべき場合には、その事実の有無は、代理人について決するものとする。


2.本人が、代理人に、特定の法律行為を委託した場合

旧:第101条② 特定の法律行為をすることを委託された場合において、代理人が本人の指図に従ってその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする。

新:第101条③ 特定の法律行為をすることを委託された代理人がその行為をしたときは、本人は、自ら知っていた事情について代理人が知らなかったことを主張することができない。本人が過失によって知らなかった事情についても、同様とする

→ (大判明示41.6.10)を踏まえ、本人の指図に従ったかどうかは関係無いものとしています。
あくまでも本人が知っていたかどうかです。


3.制限行為能力者の代理行為

旧:代理人は、行為能力者であることを要しない。
新:制限行為能力者が代理人としてした行為は、行為能力の制限によっては取り消すことができない。ただし、制限行為能力者が他の制限行為能力者の法定代理人としてした行為については、この限りでない。


→ 制限行為能力者の代理行為は、行為能力を理由に取消せない
という内容は同じで、文言を分かりやすくしました。

また、ただし書以下追加していますが、制限行為能力者が法定代理人の場合に、代理行為の取消しができないと、選任しているわけでもないのに、本人である「他の制限行為能力者」の保護が図れませんので、改正しています。

4.代理権濫用・利益相反

(最判昭42.4.20)の趣旨を踏まえ、「代理権濫用」は無権代理と明確にされました。

代理人が、本人ではなく、自分や第三者の利益を目的に代理行為を行う裏切り行為が「代理権の濫用」です。

もし、相手方が、代理人の意図を知り、または知ることができたときは、「真意がちがう」ということで、心裡留保の93条ただし書を類推適用して、結果として本人に効果帰属させないものとして保護していました。これを明文化したものです。


また、(最判昭47.4.4)の趣旨を踏まえ、以下明確にされました。

自己契約」・「双方代理」の効果も、無権代理

自己契約・双方代理以外の利益相反行為について、本人の許諾を除き、無権代理行為とみなす規定を新設しています。

ちなみに(大判昭7.6.6)では、「自己契約にあたらない利益相反行為」が否定されています。



5.無権代理


・ 代理権授与表示はされたものの、代理権を有していない者が、表示された代理権の範囲外の行為をした場合
最判昭45.7.28
→ 109条, 110条


・ 代理人だった者が、代理権消滅後に、もともと有していた代理権の範囲外の行為をした場合
最判昭32.11.29
→ 110条, 112条

このような場合、

表見代理の各規定を重畳適用して、本人が責任を負うことを明文化

109, 112条だけだと、第三者に対して取引における「正当な理由」を求めることができなかったので、110条を引っ張ってくることで、クリアしていました。

これは、不動産や金融などの取引でよくありますが、本人である素人のお客さんがよくわかっていないまま、委任状など書類にサインさせ代理人となる業者が多く、たいがい第三者は金融機関でプロなので、疑わしいところがないかチェックさせるために正当理由を要件に読み込む必要がありました。そんな必要性からの理屈です。


次に、

代理権消滅後の表見代理における第三者の「善意」(112条本文)の意味を「代理権の消滅の事実を知らなかった」へ明確化

→ ただ、存在しないことを知らないだけでなく、もう少し踏み込んで、「過去には代理権あったけど、もう消滅してしまっている」という事実について知らないことを指します。


無権代理人の責任について、無権代理であることを過失によって知らなかった時でも、無権代理人が自己に代理権がないことを知っていた時は、責任を負うとしています。

■ 無効 ・ 取消し

・無効となった行為に基づいて、債務が履行されてしまった場合、原則、原状回復義務を負うという規定を新設しました。

追認は、取消権を有することを知った後にしなければその効力を生じないとしておりこれを明文化しました。 -(大判大正5.12.28)

■ 条件

条件成就により利益を受ける当事者不正に条件を成就させた場合、条件が成就しなかったものとみなすという規定を新設しました。

→ (最判平6.5.31)において、事例判断ですが、130条を類推して条件成就はしなかったものとしていました。


■ 時効

項目が多いのでやや重たいところですが、内容としてはむずかしくありません。むしろ、今までごちゃっとしてたところを整理しました。


判例を踏まえた明文化もありますが、ポイントとしては、時効の効果は、時効が止まるのかゼロから数え直しになるのかを整理したことです。

旧:第145条 時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない。
新:第145条 時効は、当事者(消滅時効にあっては、保証人、物上保証人、第三取得者その他権利の消滅について正当な利益を有する者を含む。)が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができない

→ 当事者に含まれるのはだれかを判例を踏まえて明確にしました。
物上保証人(最判昭43.9.26)
第三取得者(最判昭48.12.14)


・時効中断

条文操作が分かりにくいので、適宜条文参照してみてください。

若干、対象となる完成猶予事由を拡大したりしてますが、ほぼ同じです。
ポイントは分かりやすく文言を変えて条文を整理したことです。

旧:(時効の中断事由)第147条 時効は、次に掲げる事由によって中断する。
新:(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)  第147条 ①次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない

→ 旧法において、中断するとなってますが、催告は完成猶予するものですし、承認は時効をゼロから新たに進行させる更新でしたので、文言と法律効果の理解が困難なものとなっていました。


いままでは時効の完成が猶予されるものと、新たにゼロから時効を数える更新の二つの効果があるのに、中断とひとくくりに言っていましたし、時効停止についても時効完成猶予であるところを停止といっていました。(ややこしい…)


その上で、完成猶予事由と更新事由を整理しています。


▼ 以下、新法における「完成猶予事由」、「更新事由」をまとめておきます。


■ 完成猶予事由

第147条                       

以下事由は、終了するまで猶予されます。         

・ 裁判上の請求
・ 支払督促
・ 民事訴訟の和解又は民事調停若しくは家事事件手続による調停
・ 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加


第148条

以下事由は、終了するまで猶予です

・ 強制執行
・ 担保権の実行
・ 形式競売
・ 財産開示手続き

→ 財産開示手続きや差押えをともなわない強制執行も時効完成が猶予されます。


第149条

以下事由は6ヶ月猶予されます。更新の効果はなくなりました。

・ 仮差押え
・ 仮処分

第150条

以下事由は、6ヶ月の猶予です

・ 催告


第151条
以下事由は、合意から1年、拒絶通知から6ヶ月猶予されます。

・ 協議を行う旨の合意


■ 更新事由


第152条

権利の承認があったときは時効は更新されます。

・ 承認


第170条から第174条

これらは以下について細かく規定されていましたが、削除されました。理由は、判断もむずかしい割りに実益に乏しいということです…(法定利率が見直されて必要なくなったことも影響してます。)


・ 短期消滅時効の廃止
・ 商事消滅時効の廃止


Ex1. 「動産損料」にあたるのは、貸寝具や衣装であって建設重機はあたらない(最判昭46.11.19)
Ex2.  銀行は5年だが、信金は10年 

うーむ、たしかに判断はむずかしそうですね。


2.債権総論


■ 債権の目的


1.文言追加
400条です。善管注意義務の内容程度は、取引におけるさまざまな事情できまります。そのことをあきらかにするため文言を追加しています。

追加:契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる


2.選択債権特定の要件

新:数個の給付の中に不能のものがある場合、選択権者の過失による時に限り、債権の目的となる。

「当事者の過失がなく、給付が不能になった場合」の取扱いが変わりました。


■ 債務不履行

1.原始的履行不能の場合

債務の履行が不能であるときは、履行請求できないとされていた


大判大正2年5月12日では、債務の履行が物理的に不可能な場合のみならず、取引通念において履行が期待できないような場合にまで拡げてかんがえています。

これを新設しました。

さらに

旧:なし
新:契約成立時に債務の履行が不能であったことは、損害賠償することを妨げない(損賠請求できる)

最判昭25.10.26)では、傍論ではありますが、原始的不能の場合、債務不履行に基づく損害賠償請求ができないという判断を示していました。


2.債権者の受領遅滞効果

受領遅滞の場合の以下効果を明文化しています。
債権者に帰責事由がない場合にも以下の効果が発生するかは、一応解釈なのですが、判例としては発生する立場と考えられているようです。


・ 特定物の引渡しについて、受領遅滞の後は自己の財産と同一の注意義務で足りる。
・ 増加した費用は、受け取るべき債権者の負担となる
・ 受領遅滞の後、いずれの過失でもなく履行不能となってしまった場合、債権者の帰責事由となる。


3.損害賠償請求

(債務不履行による損害賠償)
旧: 第415条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

新: 第415条①債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。
(▼追加)②前項の規定により損害賠償の請求をすることができる場合において、債権者は、次に掲げるときは、債務の履行に代わる損害賠償の請求をすることができる。
一債務の履行が不能であるとき。
二債務者がその債務の履行を拒絶する意思を明確に表示したとき。
三債務が契約によって生じたものである場合において、その契約が解除され、又は債務の不履行による契約の解除権が発生したとき。


旧法では、履行不能意外の債務不履行について規定がなかったのですが、(最判昭61.1.23)でも同様に履行不能にかかわらず、債務者に帰責事由がない場合は損害賠償を負わないとしていたため規定を新設。この場合、債権者が、「帰責事由がないですよ」と立証する必要があります。


また、帰責性の有無についてどう判断するかについても、取引通念にしたがって諸事情を考慮すべきなのでそのことを追加してます。


それから、債務の履行に代わる損害賠償請求できることを新設してます

そして、賠償の範囲がどこまで拡がるのかというところですが、当事者が「予見するべきだった」といえる事情を含めるように明確化しています。

たとえば、転売ヤーですが、不動産販売で仕入れの時に、すでに違約金をつけて転売契約を結んでいるような場合、違約金について賠償に含まれるとするとさすがに妥当ではないです。

これを「予見していた」という主観的な基準にすると、告げることで賠償範囲に含まれてしまいますので、「予見すべきであった」という客観的に評価できる事情に限定していくことになります。


4.損害賠償額の予定

損害賠償額を予定していた場合、裁判所は増減できないことになっていましたが、裁判実務では公序良俗違反で増減判断をしていたため、削除されました。


■ 法定利率

大切なところなので、すこし踏み込んでいきます。

旧:年5%
新:年3%(3年ごと見直す)


法定利率は金利とバランスがとれていないと合法的に法外な金額を請求できることになり得ます。

近時だと、市中金利は低いので、法定利率が金利を上回っています。この場合、遅延損害金は高額となり、中間利息控除により、損害賠償請求不当に低い額となります。


複利はおそろしいという話は有名ですが
これは利息がおそろしいほど膨れ上がるということで

もちろんその逆もしかりで、おそろしいほど膨れ上がるということはおそろしいほど減るパターンがあるということです。

それが、中間利息の控除でして

時間がかかるものほど減額が大きいということです。

裁判では損害賠償額を計算するのに、「逸失利益」というものを考えます。
これは、もし、定年まで生きて働いていたらだいたいいくら稼げたかを平均年収をもとに概算します。

ここからが問題なんですが、定年まで時間をかけて私たちは稼ぎ、蓄積される金額です。

これを賠償金として「今」受け取ることになると、本来なら長い時間をかけて受け取れるはずの大金をすぐに得られることになるため(現在価値)、それだけの時間がかからない分、価値が高い金額と考えられます。

つまり、定年まで残り10年で、3,000万稼げたとしても、10年分の時間コストを3000万から引かなければならないのです。(割引

いくら引くのか?というと、その時間をお金に換えたもので「利息」です。この利息が法定利率をもとに計算されることになるのでこの利率が高いとそれだけ引くものも増えて、受け取れる賠償金が少なくなるということです。


時間に応じて発生した分を利息に相当する金額として控除しようと考えるこの「中間利息控除」というものは、わたしたちが若ければ若いほど、おそろしいほどに減額されていくのです。

たとえば、(最判平17.6.14

こちらは、9歳で死亡したこどもの逸失利益についての判例ですが

年齢が低いために長期間となり、その分、賠償請求できる金額の「割引き」も大きくなることになります。

遅延損害金のような賠償であれば比較的短時間で済みますが、人間が亡くなった場合は期間が長くなりがちです。

法定利率は、ふだんこそあまり意識しないものかもしれないのですが、とてもセンシティブな時に問題をはらんでおり、とても大切なことです。
たしかに、これまでの固定5%よりは引き下げられ、見直しもあり改善はされましたが、引き続き課題としては残っていると思われます。

■ 債権者代位権

1.要件の明確化

・自己の債権を保全するため(明確化)

・差押禁止債権は、代位行使できない(明確化)

・強制執行で実現できない債権は代位行使できない(明確化)

・裁判上の代位を廃止(廃止)

2.債権者代位権の行使方法

・代位行使できる範囲を自己の債権の額の限度として明確化
(最判昭44.6.24)

・金銭・動産の引渡しを債務者ではなく、直接自分に引渡すよう請求できる
(大判昭10.3.12)

・相手方は、債務者に対して主張できる抗弁をもって債権者に対抗できる
(大判昭11.3.23)

3.債務者の権限

債権者が被代位権利を行使した場合であっても、債務者はその権利について取立てその他の処分をすることができ相手方も債務者に対して履行することが妨げられない。

→ (大判昭14.5.16)では、債権者が代位行使に着手してしまうと、債務者は止められなかったのですが、結局、債権者は財産保全ができれば良いわけです。債務者が処分することを妨げてしまうのは過剰な財産権侵害と考えられ新設されています。

4.債務者への訴訟告知(おまけ)

債権者代位訴訟を提起した場合、判決の効力は債務者にも及ぶのですが、債務者は訴えがあることを知らないこともあり、手続き保障が十分ではなかったので、債務者に対して「訴訟告知」という裁判を知らせる手続きをすることを債権者に義務付けています。


5.登記請求権保全のための債権者代位権(おまけ)

債権者代位権というのは、本来、債権者が無一文になってしまう債務者の財産を守るための制度でしたので、不動産登記を保全するために債権者代位権を行使することは「債権者代位権の転用」と言い、(講学上)区別されていました。

そこで、一般の債権者代位権と区別して規定しています。


■ 詐害行為取消権


1.詐害行為取消権の要件について

旧:第424条① 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした法律行為の取消しを裁判所に請求することができる。
新:第424条① 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。

法律行為に当たらない弁済なども取消すことができる(最判昭33.9.26
としていた為、明確化されました。


また、被保全債権は、詐害行為の前に発生していることが必要(最判昭33.2.21)としていたのですが、さらに進めており

旧:なし
新:被保全債権が発生してなくても原因が発生していればいい



2.詐害行為取消権の行使方法

行使方法についても運用は変わりませんが判例を踏まえて細かく明文化されました。

・取消しの対象となる行為を取消すだけでなく、移転した財産を債務者に返還することを請求できることについて明文化されました。(大判明44.3.24)
取消しの対象となる行為の目的が金銭などで、分割できるような債権なら、行使できるのは保全する債権額の限度とされます。(大判明36.12.7)
取消し対象金銭・動産である時は、直接、自己に引渡しを求められることを明文化。(大判大10.6.18)


また、詐害行為取消権を行使する場合、財産の流れとしては債務者を経由しますので、被告適格は受益者とした上で、債務者にも「訴訟告知」により裁判手続きに参加するようにしています。

旧:被告は受益者とすべきである。確定判決の効力は債務者に及ばない。(大判明44.3.24)
新:被告は受益者とした上で、確定判決の効力は債務者に及ぶ
したがって、訴えを提起したときは、債務者に、訴訟告知しなければならない。


旧:受益者が善意で詐害行為取消請求できない場合でも悪意の転得者には請求できる。(最判昭49.12.12)
新:受益者が善意でなく、受益者に対して詐害行為取消請求することができる場合、転得者に請求できる

受益者が善意 ⇒ 請求×
受益者が悪意 ⇒ 請求〇


3.受益者の反対給付の返還請求

詐害行為取消権は、債務者と受益者との行為を取消しますので、受益者も何か給付をしていた場合には、債務者にこれを返還してもらえます。

旧:受益者は、取消しとなった行為の反対給付を請求できない
新:受益者は、反対給付の返還(価額の償還)を請求できる


・期間の制限

主観的制限期間の起算点を明確化しました。

「債務者が詐害行為したことを債権者が知った時」から2年


客観的制限期間の権利行使の期間が短くなりました。

旧:詐害行為の時から20年経過で消滅する消滅時効
新:詐害行為の時から10年経過したとき提起できなくなる出訴期間

■ 多数当事者の債権債務

1.債務の分類


分割債務:可分で、法令の規定がなく、各債務者に分割     連帯債務:可分で、法令の規定により、各債務者が全額責任を負う不可分債務:当事者の意思により、又は性質上、不可分である (分割債務・連帯債務は変化なし、旧法維持)
旧:不可分債務は、当事者の意思により、又は性質上、不可分であるもの
新:不可分債務は、性質上、不可分であるもの

2.債権の分類

分割債権:性質上可分で、法令の規定がなく、各債権者に分割されるもの                           不可分債権:当事者の意思または性質上可分であるが、当事者意思によって不可分とされたものなど
新:不可分債権は、性質上不可分であるもの
新設:連帯債権は、性質上可分で、各債権者が全部の履行を請求できるもの(連帯債権を新設して、分割債権は変化なし)


3.連帯債務


(1)履行の請求

旧:連帯債務者のひとりに対する履行の請求を絶対的効力事由として、他の債務者にも効力が生じるとしていた。(遅滞になる)
新:廃止


(2)相殺

旧:連帯債務者のひとりが持っている相殺を援用しない間は、その負担部分についてのみ、ほかの連帯債務者が援用できるとしていた。
新:援用は認めない。かわりにその負担部分について履行を拒めるとした


(3)債務の免除

旧:連帯債務者のひとりに対する免除をしたら、その負担部分について、ほかの連帯債務者についても義務を免れるとしていた。
新:廃止


(4)時効の完成

旧:連帯債務者のひとりに対する時効が完成したら、その負担部分について他の連帯債務者も義務を免れるとしていた。
新:廃止

■ 保証

1.保証の内容(若干、強化されました)

旧:第457条①主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の中断は、保証人に対しても、その効力を生ずる。②保証人は、主たる債務者の債権による相殺をもって債権者に対抗することができる。
新:第457条①主たる債務者に対する履行の請求その他の事由による時効の完成猶予及び更新は、保証人に対しても、その効力を生ずる。②保証人は、主たる債務者が主張することができる抗弁をもって債権者に対抗することができる。


2.保証人に対する「情報提供義務」新設

→ 事業のために融資を受けるなどの場合は多額になりますので、保証人の負担も過大です。

そこで、主債務者に自身の財産状況を、把握させるために情報提供を義務付けました。

・財産、収支の状況
・他に負担している債務があるかどうか、返済状況はどうか
・担保として提供しようとするものが何か


こういった情報について、債権者は、保証人の請求があったときは情報提供しなければなりません。


この情報提供義務を怠っていた場合、保証人は保証契約を取消すことができます。


3.期限の利益

主債務者が期限の利益を喪失した場合、債権者は2か月以内に保証人に通知(ちゃんと到達するまで)しなければ遅延損害金を請求できなくなります。


4.個人根保証契約

個人根保証契約は、書面で極度額(上限)を定めなければ効力を生じないとしています。


5.公証人による「保証意思確認手続き」の新設

→ 事業のために負担する保証契約の場合、公証人による保証意思宣明公正証書が必要です。

公的機関で作成される公正証書によって保証意思を確認しなければならないことになりました。


■ 債権譲渡


1.異議をとどめない承諾制度の廃止

異議をとどめない承諾の制度を廃止し、抗弁を放棄することについて債務者の意思を確認する必要があります。

債務者が異議をとどめない債権譲渡の承諾をした場合、譲渡人に対抗できたことがあっても、それを譲受人に対抗できませんでした。

取引安全のためではありましたが、単に譲渡があったことを認識しただけでも抗弁が対抗できなくなる強力な制度でしたので、債務者意思で放棄した場合に限るのが妥当だろうという事になり、廃止されました。


2.債権譲渡における相殺

債権が譲渡された後であっても、相殺ができましたが、譲渡通知の時点で債権が発生している必要があるのか、弁済期の到来が必要なのかなど不明確な状態でした。


譲渡について債務者への対抗要件が具備される前に債務者が取得した債権であれば相殺することができ弁済期も問わないとされました。

そして、譲受人が債務者対抗要件を具備した時点よりも後に債務者が取得した債権についても

・対抗要件具備より前の原因に基づいて発生
・譲渡された債権の発生原因となる契約に基づいて発生

このいずれかであれば相殺ができることになります。


■弁済

1.弁済の効果

第三者の範囲を利害関係を有しない第三者から、弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者に明確化されました。

旧:(第三者の弁済)
第474条① (略)
② 利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

新:
第474条① (略)
②弁済をするについて正当な利益を有する者でない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。ただし、債務者の意思に反することを債権者が知らなかったときは、この限りでない。


2.債権の準占有者に対する弁済

旧:第478条 債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。
新:第478条 受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する

なお、受取証書の持参人に対する弁済(480条)については不要となったので削除されました。

3.代物弁済

旧:第482条 債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。
新:第482条 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する

(最判昭60.12.20, 最判昭57.6.4)代物弁済の合意があれば、所有権移転の効力が生じるとされていました。
代物弁済の法的性質は諾成契約です。


■ 相殺

1.相殺制限特約

相殺を制限する特約については、第三者が特約について悪意・重過失である場合、対抗できます。

2.相殺禁止の範囲

不法行為に基づく損害賠償請求権一般を受働債権とする相殺を禁止していましたが、


・ 悪意による不法行為
・ 生命・身体の侵害

これらに基づく損害賠償請求権を受働債権とする相殺を禁止しており、これらを譲り受けた場合は禁止されないとしています。

3.差押えを受けた債権での相殺 

判例(最判昭45.6.24)によると、自己の有する債権が、差押え前に取得したものである限り、第三債務者は弁済期を問わず、相殺を対抗できるとされてました。

これは無制限説という立場で、実務でも確立されていたため明文化。

さらに、差押え後に取得した債権であっても、その債権が発生する原因(契約等)が差押え前であれば相殺を対抗できることも明文化されました。

ただし、この債権が譲渡されるなどした場合の第三債務者は相殺を対抗できません。




3.債権各論


■ 契約の効力


1.同時履行の抗弁権

契約に基づく債務の履行だけでなく、その債務が損害賠償に代わった場合の債務の履行を含むことを明確化

2.危険負担

債権者主義を削除し、反対給付の履行を拒むことができるようになりました。


債権者主義という制度は、債務者の責任なく商品が滅失したとしても、代金の支払わなければならないという制度です。
まともな取引であれば特約をしますので問題になりませんが、不合理で批判が強かったもので削除されました。


一応、根拠としては、契約締結後の商品価値の利益も損失も取得する。ということでした。すなわち、物件の場合、契約後(引渡し前)の天災による損失も、急高騰による利益もいずれのリスクも引き受けるということです。一見、それっぽい理屈ですが、比較対象ではなく両者はまったく関係ないことです。


■ 第三者のためにする契約

第三者のためにする契約は、契約成立時に第三者が現に存在していなくても効力が妨げられないことを新設してます。

そして、債務者の第三者に対する債務不履行を理由に契約を解除する場合には、第三者の承諾を得なければならないとしています。
 

■ 定型約款

定型約款というのは、今まで定義がなかったのですが、たとえば

運送約款
電気供給約款
普通預金規定
保険約款
物品購入約款
インターネット利用規約
ライセンス規約

といったもので、こまーかい文字がたくさん並んでいる○○規約のことです。これらの新しい定義が、以下。

①特定の者が、不特定多数の者を相手方として行う取引で    ②内容が画一的であることが互いに合理的なものを定型取引といい③契約内容にするため、準備された条項をまとめて定型約款とする


そして、これは大量の取引を処理していかなければならないので、約款内容を変更する場合に、ひとりひとりと交渉するということは不可能です。


そこで、相手方の同意を得ることなく一方的に契約の内容を変更する規定を新設しており、その要件が以下。

①相手方の利益に適合
②契約の目的に反せず、かつ合理的であると認められるとき

一方、このような約款の内容について細かいところまで認識することなく取引を行っているため、不利益な条項を示されては困ります。

そこで不当な条項については、排除して合理性を担保するのですが、それをどう判断していくかが問題です。

相手の権利を制限したり、義務を加重する条項については
信義則上、一方的に相手の利益を害すると言えるような場合、合意しなかったものとみなす、としています。

そして、これは取引通念に照らし、

相手方にとって客観的に予測しがたい、かつ、相手方に重大な不利益を課すものであるとき

そんなときは、その内容を知り得る措置を講じていない限り信義則に反すると考えていきます。(上記3点に加え、個別取引の実情も具体的に考慮します。)


■ 消費貸借
物の授受がなくても、既に存在している消費貸借上の債務を新たな消費貸借上の債務とすることもできます(大判大正2年1月24日)

■ 使用貸借

■ 賃貸借

1.賃貸借の合意内容

旧:第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
新:第601条 賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる。

旧法では明確ではなかったですが、「賃借物を返すことを約する」ことが合意内容であることを明確化しました。


2.賃貸借の存続期間

普通借の存続期間を50年に伸長されました。

旧:賃貸借の存続期間は、20年を超えられない
新:賃貸借の存続期間は、50年を超えられない

借地でも住む場合は「借地借家法」があるのですが、ゴルフ場経営とか太陽光パネル設置などの、存続期間を20年以上としたいニーズがありましたが、再契約をしなければならなかったので、このようなニーズに対応することになります。


50年という数字は「永小作権」の存続期間を意識して合わせてます。


3.修繕

■ 賃借人の責めに帰すべき事由によって修繕が必要になった場合、賃貸人は修繕義務を負わないとしました。

旧:賃貸人は、必要な修繕をする義務を負う。
新:賃貸人は、必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人責任で修繕が必要になった場合は修繕の義務を負わない。


■ 賃借人が修繕できる場合について新設

新設:賃貸人が必要な修繕をしないとき、急迫の事情があるとき、賃借人は修繕できる

→ 賃貸人に対して、必要費を償還請求することができます。

4.賃料の減額


■ 賃借物の一部が滅失その他の事由により使用収益できなくなった場合、当然に減額

旧:賃料の減額を請求することができる。
新:当然に減額される

→ 旧法では、請求しなければならなかったところです。


5.解除


■ 賃借物の一部滅失によって使用収益できなくなり、契約の目的を果たせないときには、賃借人の責任があっても解除できる

旧:賃借人の過失によって一部滅失の場合、契約目的が果たせなくても解除ができない
新:賃借人の過失によって一部滅失の場合、契約目的が果たせないときには解除できる



■ 全部使用できなくなった場合の終了

新設:賃借物の全部が滅失した場合、賃貸借は終了する

最判昭32.12.3)を踏まえて明文化です。


6.転貸借


■ 転借人の債務の範囲

新設:転借人は、原賃貸借における賃借人の債務の限度において、賃貸人に直接義務を負う

転借人は、「賃貸人に直接履行義務を負う」とされていましたが、解釈としては、もちろん転貸借についての債務を履行するものであり、現賃貸借契約における賃借人の債務の範囲に限られるとされていました。


■ 合意解除と転借人

新設:賃借人が債務不履行でその解除による場合は対抗できる


最判昭62.3.24)により、転貸された場合、賃借人(転借人の貸主)に債務不履行がなければ、原賃貸借を合意により解除しても転借人に対抗することができません。(不当に追い出すことができてしまいます)




7.原状回復義務・収去義務

裁判実務を踏まえて、明文化しています。

新設:賃貸借が終了したときは、賃借物を受け取った後に生じた損傷について、原状回復義務を負うが、通常の使用収益によって生じた賃借物の損耗や賃借物の経年変化については原状回復義務を負わない

まとめると、

・ 賃借物を受け取ったあとに生じた損傷は、賃借人が原状回復義務を負う
・ 経年劣化は原状回復義務を負わない
・ 賃借人の責任ではない場合は原状回復義務を負わない


■ 賃借物に附属させた物についても収去義務を負うことを新設

新設:賃借物に附属させた物についても収去義務を負う

→(使用貸借の規定を準用するかたちで明文化)


8.敷金


■ 定義

最判昭48.2.2)を踏まえ、敷金の定義を明確化

新設:いかなる名目を問わず賃料や賃貸借によって生じる債務担保する目的で借主が交付する金銭

→ 保証金、権利金と呼んでいても敷金の適用を受けます。

なお、敷金の充当については(大判昭5.3.10)によると借主からは指定できません。

新設賃借人は敷金を賃料の弁済にあてることを請求できない


9.賃貸人たる地位の移転

■ 登記をした不動産賃貸借は、不動産について物権を取得した物その他の第三者に対抗できる

旧:不動産賃貸借の登記をしたときは、その後物権を取得した者に対しても効力を生じる
新:不動産賃貸借の登記をしたときは、物権を取得した者その他の第三者にも対抗できる

→ (最判昭28.12.18)によると、「物権」ではなく賃借権のような債権」をもつ第三者についても「対抗できる」としていたのでこれに合わせて明確化しています。

■ 対抗要件を備えた譲渡では当然に移転

新設:対抗要件を備えた不動産が譲渡されたときは、賃貸人たる地位は、譲受人に移転する

→ もっとも、合意により移転しないとすることは認められます。貸す場合というのは、宅建も必要ないです。大家さんは誰でもなれるんですよ。


■ 対抗要件を備えた譲渡では譲渡人と譲受人の合意

新設:対抗要件を備えていない賃貸不動産が譲渡された場合、譲渡人と譲受人との合意により賃借人の承諾を要しないで賃貸人たる地位を移転できる。


最判昭46.4.23)によると、対抗要件を備えていない場合、賃貸人たる地位については譲渡人と譲受人が合意していれば賃借人(入居者)の承諾なく移転できるとしていましたので明文化されます。


→ ようは対抗要件がなければ、譲受人と譲渡人の合意が必要で、
対抗要件があれば、この合意も不要となります。


■ 費用償還債務・敷金返還債務

新設敷金返還債務について譲受人に承継される

最判昭44.7.17)によると、賃貸人たる地位が移転した場合、費用償還債務や敷金返還債務について譲受人に承継されるとしており、新設です。

敷金は超ややこしいところでして、実は業者側も20年、30年のベテランでさえ間違えてますので。とりあえず、敷金といえば返還するものと考えておいてください。(返還しないものを償却金といいますが、敷金に包括してたりします。都内の場合たいてい敷金としておきつつ0.5ヶ月償却と小さく書いてあるので半分持ってかれます…。)


→ 譲り渡しちゃってるので、こちらに敷金の(費用償還も)返還を求めるとなると回収が困難になります。物件を購入した場合、そのままくっついて買主が引き継ぐことになります。


■ 請負

1.報酬に関する規定

仕事が完成しなかった場合でも、割合的な報酬認めています

注文者の責めに帰することができない事由により仕事を完成することができなくなった場合又は請負が仕事の完成前に解除された場合、すでになされた仕事のうち、給付できる部分があって注文者が利益を受けるときはその部分を完成とみなしその利益に応じて報酬請求ができる

(最判昭56.2.17)によると、
建物その他土地の工作物の工事請負契約につき、工事全体が未完成の間に注文者が請負人の債務不履行を理由に右契約を解除する場合において、工事内容が可分であり、しかも当事者が既施工部分の給付に関し利益を有するときは、特段の事情のない限り、既施工部分については契約を解除することができず、ただ未施工部分について契約の一部解除をすることができるにすぎないものと解する

2.請負人の担保責任

売買の規定を準用し、売買における担保責任と同様の規律が及ぶものとして整理しています。削除規定があるのも、売買の規定と重複するものです。

■ 契約不適合の担保責任

注文者が材料を提供して瑕疵が生じた場合は、請負人が担保責任を負わない。請負人は材料が不適当と知りながら告げなかった場合は責任を免れない。

契約に適合しないことが注文者の責めに帰すべき事由による場合は注文者は追完請求、減額請求、損賠請求、解除ができないこととなりました。

■ 瑕疵修補請求(旧634①)削除

目的物に瑕疵がある場合、請負人に瑕疵を修補する請求ができました。
これは、売買規定を準用し、追完請求ができるため削除されました。


建築技術上過大な費用がかかっても修補することができるみたいで請負人負担が大きいところでした。

■ 損害賠償請求(旧634②)削除

修補とともに損害賠償請求ができました。
これは、契約内容に適合しない場合、債務は未履行であるとされ、修補としての請求を削除し、債務不履行に基づく損害賠償請求のを適用するものとなりました。

■ 解除規定(旧635)を削除

請負人の責めに帰すべき事由によらない場合であっても契約の解除をみとめていました。これは、解除の一般規定(541条以下)の債務不履行において債務者に帰責事由がない場合にも契約解除が認められることになったので、そちらを準用するため削除されました。

なお、建築請負の場合、目的物が建物や工作物であり、経済的な理由で解除ができないとされていました。

最判平14.9.24)においては、建替え費用相当を損害賠償できるとされてもいたので削除されても問題はないかと思われます。


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重要なとこはざっとこんなもんですか。けっこうおおがかりな改正でしたのでこまかいところを入れると、この2倍くらいボリュームありそうでした…。おつかれさまです。

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