【劇】少女アリスの魅力~B機関「狂人教育」感想
第6回B機関公演「狂人教育」ザムザ阿佐谷
B機関という劇団が11/2~11/8までザムザ阿佐谷で公演していた「狂人教育」を観劇してきた。寺山修司ばかりをやっている劇団だ。旗揚げ公演から、まだ6回目。私は、2018年に初めて第三回公演「大山デブコの犯罪」を観て、旗揚げから三回目なのに素晴らしい完成度の高さだと衝撃を受け、それから毎回観に行っている。今一番好きな劇団だ。
今回の公演「狂人教育」は、もともと寺山修司が人形劇団のために書いた戯曲。それを人間が演じるという、めちゃくちゃ難しい演目。
でも、人形らしく動いている場面では、本当に人形のように見えて、どうしてかはわからないけれど、人間がそう見えることに驚いた。何回でも見直したくなる。しかも、同じ俳優さん達が、人間らしく動く時には人間らしい動きになる。すごい。まさにプロという感じ。
「狂人教育」あらすじ
蘭という主人公の少女とその家族の話。「家族の中に1人狂人がいる」と法医学者に言われ、家族の名誉のためにその狂人を探し出して殺そうとする話だ。家族みんなが疑心暗鬼になる。「狂人」と思われたくなくて、主人公の蘭以外の家族全員が同じ動きをする、という滑稽さは、世間一般の風刺にもなっていて面白く、考えさせられる。「人と違う部分こそが、その人らしさなのに」と繰り返す蘭の言葉も胸に響く。小児麻痺も吃も男好きなお姉さんも、人とは違うその人らしさ。確かに、「狂っている」というのは「人と違う」ということになるけれど、狂っていると思われたくないからといって必死に人に合わせるのは、それはそれで狂気じみている。が、波風たてないように人に合わせておこう、と思ったことがない人はいないのではないか。自分の身につまされ、考えさせられる。
今回は、前回までレギュラー出演していた俳優の方々がかわっていたことにも驚いた。今まで色々な中小劇団を観ていて、劇団のメンバーは、メインかそうではないかは別としても、決まった人が出続けるような劇団ばかりだったから、レギュラー的に出ていた人が入れ替わるというのが斬新だった。が、今回初めて出た役者さん、素晴らしくイイ。次回作もオーディションをして配役を決めるみたいだし、今までもよくオーディションをしていたから、オーディションで選んだのか。それにしても、次から次によくいい人が見つかるなぁ。人材豊富な劇団だなぁ、と思った。
開場から開演までの楽しみ
この劇団、毎回、開場した時から独特な世界が始まっている。舞台の上でダンサーさんが、劇の世界観でゆっくり踊り続けている。激しく魅せるダンスではなく、砂時計の砂が徐々に形を変えていって気づくとまるで変わっているような、じわじわした踊り。その動きを観ながら開演を待つ、というのも贅沢なひとときだ。
カラスアゲハの羽根の素晴らしさ
そして、大道具や小物のセンスもよい。今回、緞帳ではなく、緞帳を描いたベニヤ板の舞台、というのが世界観にも合っていて素晴らしくよかった。また、木の箱に書いた文字を組み立て変える演出もグッとくる。よい。
さらに、毎回のことではあるけれど衣装もよかった。特に、カラスアゲハの羽根。羽根は作り方を間違えるとめちゃくちゃ野暮ったくダサいモノになってしまう危険な衣装だと思う。今回、羽根を薄く作って、所々穴もあいているのが、そこから漏れ出る光まで計算されレースの穴のような優雅さもあり、儚さも感じさせ、素晴らしく美しかった。カラスアゲハのダンスも、抑えている感じで、よかった。
ニューヒロイン大津澄怜
主人公の蘭を演じた大津澄怜(すみれ)という女優さん、大人の女性ではあるけれど、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」のようだった。衣装も髪型も雰囲気も。沢渡朔の写真集「少女アリス」を彷彿とさせられた。そして、「小児麻痺」という設定を、本当にフラットに自然に演じていてよかった。足の装具も体の一部となっていた。手がうまく動かせない様子、それが幻想の中で、蝶のように羽ばたいて自由に動かせるようになるところの驚きと喜びも、素晴らしい。障害に対するフラットな見方があらわれているような自然な演技。装具をつけたダンスで美しいと感じたのは、今は亡き横町慶子さんのダンスを見て以来だ。とても惹きつける、魅せる女優さんだと思った。ニュースター感がある。次回作にもぜひ出て欲しい。
次回は「毛皮のマリー」
次回、第7回公演は2023年4月14日~17日、座・高円寺1で、旗揚げの時の演目「毛皮のマリー」とのこと。第三回の公演でこの劇団を知って、観ることができなかったことが悔しかった演目だ。しかも、当初第5回公演として予定していた2020年2021年と、コロナのために公演延期になったままになってしまっていた(第5回公演は、違う演目になっていた)。またやってくれるなんて、まさに「待ってました!」という感じ。今から楽しみで仕方ない。コロナが順調に収まっていくように、無事に公演できるように願っている。