煎りゴマ
「すりゴマは 煎りゴマすれば できるのよ」
こんな簡単なことに長らく気づかず、
僕は幾度となくすりゴマを買いに行っていた。
キッチンではいつもすりゴマの隣に、
煎りゴマが居てくれたのに。
「オレ(煎りゴマ)をすれ」
ずっとそう呼びかけていたんだろうに、
こともあろうか僕はずっとそれに気づかないでいたのだ。
僕は本来ゴマすりが好きではないので、
などというみっともない言い訳は通じるわけもない。
すり鉢とスリこぎがあれば、
煎りゴマは新鮮なすりゴマに変身してくれるのだ。
大切な人は、本当はいつも隣にいるというが、
この時ほどこの言葉を実感したことはないかもしれない。
世の中は便利になった。
カットされたネギがある、
切り身になった魚がある、
大根だって1/3で売っている。
しかしだ。
便利なものに触れるたび、
僕は知恵を失っているような気がしている。
ここに誓おうではないか。
これからは煎りゴマとともに生きていく。
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