そのすてきな歌声、ひたむきな姿は美しい。

わたしはいま、オーストラリアはシドニーへ来ている。

特にすることも、したいこともなく滞在2日目を終えようとしていた。


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公園の芝生で座ってご飯を食べ、のんびりおしゃべりをする。

多くの人は観光名所やご当地グルメ、いまでいえば、インスタ映えを求める人も多いだろう。
しかし、わたしはそのどれにもあまり興味がない。ただただ、その場の雰囲気を味わいたかった。そんな時間を求めて来たから、なにもしないで良かった。

そういいながら、ほんとうに日本でもできることをし、現地へ留学へ来ている先輩と「またあしたね!」といい、別れを告げた。

それから、そのまま宿へ向かうはずだった。

そこで出会ってしまったのだ。
勝手に涙が溢れ出る。
全身からいろんな感情が湧き上がり、止まらない。

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彼女は若干18歳。
路上ライブをしに、きょうはシドニーへ来たという。郊外にでも住んでいるのだろう。

その歌声は、力強くも優しく、スッと心へ入り込んできた。

多くの人が彼女の周りを囲み、曲のたびに拍手が起こる。誰が聞いても、素晴らしいと感じるほどであった。


ああ、わたしは何をしているんだろうか。
大した目的もなく、毎日を生きている。
なんの価値をも生み出さない、ただの二酸化炭素排出物。

それに対して、きっと歌手デビューを目指しているのだろう。
CDを販売したり、投げ銭をたくさんもらっていた。
自らの価値の対価をお金として生み出す、才能ある人だ。

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そして、価値ある人は愛される。

道向かいにいるホームレスの方が、

お前のせいで俺がもらえるはずの金が奪われている!

などと、暴言を吐き彼女へ近付いてきた。

怖かったのだろう。
泣いてしまい、歌おうとしたのだが無理だった。

しかし見ず知らずの周りの人が涙を拭いに彼女の元へ立ち寄りハグをしたり、暴言を吐いた彼を叱ったりした。

起こるべきことではないが、愛を感じた瞬間でもあった。

きっと、彼女の歌声から垣間見れる人柄の良さがそうさせたのだろう。

You are beautiful.

ひとりのおじさんがそう言った。
そのすてきな歌声、ひたむきな姿の美しさにぴったりな言葉だった。


旅とはこのような出会いから始まるのだろう。


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