11. プッシュプル型バッファアンプ用正負電源回路(レールスプリッタ)
前節では、バッファアンプ用の電源として、6Vの直流電圧源を2段重ねて用いています。実際の回路の製作の際には、12VのACアダプターを用い、この電圧を二分割して、0V、6V、12Vの電圧を作成し、6Vの電圧をグラウンドとして扱って、バッファアンプに対して仮想的に±6Vの電源を供給します。このような、電源電圧を二分割するための回路のことをレールスプリッタと呼びます。本節では、レールスプリッタ回路のシミュレーションを行ないます。
抵抗を用いるレールスプリッタ
まず、抵抗だけを用いるレールスプリッタの回路図を次の図に示します。電源電圧を12Vとしたとき、同じ抵抗を0Vと12Vの間に挟むと、オームの法則より、2本の抵抗の間の電圧は6Vとなります。こうやってできる三つの電圧0V-6V-12Vを、2本の抵抗の間をグラウンドに落とすことで、(-6V)-0V-(+6V)と仮想的に見做して用います。
負荷をかけないときの電圧を測ってみると、次の図のように安定して正と負の電圧が出力されていることが分かります。
ここで、実際に電源に負荷をかけてみます。ここでは、次の図のようにMOS-FETを用いたバッファ回路を接続し、バッファ回路に10Vppの正弦波を入力します。
このときの信号のグラフを次の図に示します。
プロットしているデータは上から順に、正の電源電圧、負の電源電圧、上下のMOS-FETに流れる電流、バッファ回路の入力信号電圧、バッファ回路の出力信号電圧です。正負電源の電圧は上二つのグラフを見れば分かるように、入力信号の電圧の上下に合わせて±6Vからぶれてしまっています。ぶれの幅は±0.1V程度です。
これは、中心の電圧をグラウンドに接続しているため0Vと見なしているときの+側の出力電圧と-側の出力電圧をプロットしたものなので、実際には、12Vを2分割して作成した中心の電圧が0V-12Vのちょうど中心の6Vにならずに、ずれてしまっていることを意味しています。
オペアンプを用いるレールスプリッタ
前節では、抵抗分圧を用いるレールスプリッタ回路をシミュレートし、安定して電圧を半分に分圧できないことを示しました。
これに対する対策として、本節では、オペアンプを用いるレールスプリッタの回路をシミュレーションします。オペアンプとしては、NJU77902を用います。このオペアンプは、1000mAの電流を出力可能であり、バッファ用途のアプリケーションに最適であると謳われているので、今回のレールスプリッタのシミュレーション用に採用しました。このオペアンプのLTspice用のモデルは新日本無線のWebから入手できます。
オペアンプを用いるレールスプリッタの回路図を次の図に示します。
入力電圧12Vを抵抗で分圧した電圧を、オペアンプのボルテージフォロワ回路に入力して、その出力をレールスプリッタの出力電圧とします。これにより、負荷に流れる電流がレールスプリッタ回路の出力電圧に影響することを防いでいます。
このレールスプリッタ回路で作成した正負電源回路に、MOS-FETのバッファー回路を接続し、出力に8Ωのダミーロードを接続し、入力として10Vppの正弦波を入力したときの電圧を次の図に示します。
グラフでプロットしているものは上から、正の電源電圧出力、負の電源電圧出力、上と下のMOS-FETに流れる電流、バッファー回路への入力信号電圧、8Ωのダミーロードに出力される電圧です。上二つのグラフがこのレールスプリッタの性能を示しています。MOS-FETに最大500mA程度の電流が流れるとき、正負電源のぶれは±0.1V程度であることが分かります。ここで、正負の電圧が上下しているのは、中点をグラウンドとして0Vに固定しており、そこからの相対的な電圧を測定しているためです。実際には、正負の電源電圧出力の差が12Vのままで、レールスプリッタによって作られた中点がぶれていることになります。
オペアンプとトランジスタバッファを用いるレールスプリッタ
前述のNJU77902は比較的大きな電流を出力できるオペアンプですが、その他のオペアンプでも、出力にバッファを入れて出力電流を大きくすることで、より安定したレールスプリッタにすることができます。ここでは、トランジスタを2個用いるバッファ回路を挿入してみます。
オペアンプの後にトランジスタを用いたバッファを挿入したレールスプリッタの回路図を次の図に示します。
このレールスプリッタ回路で作成した正負電源回路に、MOS-FETのバッファー回路を接続し、出力に8Ωのダミーロードを接続し、入力として10Vppの正弦波を入力したときの電圧を次の図に示します。
グラフは上から入力信号の電圧、正の電源の電圧出力、負の電源の電圧出力です。このグラフを見ると、正負電源の出力電圧のぶれは±1mV程度となっており、十分小さいことが分かります。
抵抗とトランジスタバッファを用いるレールスプリッタ
前節のシミュレーションで、トランジスタを2個用いるバッファ回路の効果が確認できたので、ここでは抵抗で分圧した電圧をそのままトランジスタバッファに通すレールスプリッタ回路を試してみます。
抵抗分圧の後にトランジスタバッファを挿入したレールスプリッタの回路図を次の図に示します。
このレールスプリッタ回路で作成した正負電源回路に、MOS-FETのバッファー回路を接続し、出力に8Ωのダミーロードを接続し、入力として10Vppの正弦波を入力したときの電圧を次の図に示します。
グラフは上から入力信号の電圧、正の電源の電圧出力、負の電源の電圧出力です。このグラフを見ると、正負電源の出力電圧のぶれは±1mV程度となっており、オペアンプを用いなくても十分な性能が出せていることが分かります。