5.三極管
本節では、その増幅作用がオーディオアンプに用いられる、三極管の構造と動作の仕組みについて説明します。
ここでは、二極管をベースとして三極管を説明します。二極管では、プレートにカソードより高い電位を設定し、カソードをヒーターで熱することで、プレートからカソードの向きに電流が流れました。カソードの電位を0Vと設定すると、プレートの電位は正の電位を持ちますので、カソードから出た熱電子がプレートに引きつけられるという仕組みです。以下に二極管の図を再掲します。
ここで、プレートとカソードの間に網のようなもの(グリッド)を置いてみます。すると、次の図のようになります。
端子が2個から3個に増えたので、これを三極管(トライオード)と呼びます。グリッドの電位を負に設定すると、カソードからプレートに向かって飛んでいる電子の一部がグリッドと反発して、グリッドを通り抜ける電子の割合が減ってしまいます。さらに、グリッドの負の電位を大きくしたり小さくしたりすることで、カソードからプレートに向けて飛んでいる電子の量を制御することができます。電子の代わりに電流について考えてみると、プレートからカソードに向かって流れている電流を、グリッドの電位によって制御することになります。これが三極管の仕組みです。
次のグラフは、カソードに対するグリッドの電位(負)の値をそれぞれ固定して、プレートの電圧を上げていったときのプレートからカソードに向かって流れるプレート電流のグラフです。プレート電圧を上げていくとプレート電流は増加します。また、グリッドの電位Ecの負の値が大きくなるにつれてプレート電流が下がっていくのが分かります。
図.3極管12AU7のEp-Ip特性(Tung Sol 12AU7データシートより引用)
次のグラフは、プレート電圧をそれぞれ固定して、カソードに対するグリッドの電位(負)の値を変化させながらプレート電流を測ったものです。前のグラフと同様に、プレート電圧が上がるとプレート電流が増加すること、負のグリッド電圧が負の方向に大きくなるとプレート電流が減少することが分かります。
図.3極管12AU7のEg-Ip特性(Tung Sol 12AU7データシートより引用)
水道の蛇口に例えて説明すると以下のようになります。水道管にプレート(A点)とカソード(B点)を設定し、A点とB点の間に蛇口を開け閉めするバルブを取り付けます。すると、バルブを回転させることで、A点からB点に向かって流れる水の量を多くしたり少なくしたりできます。バルブを完全に閉めることで、水を止めることもできます。バルブがグリッドの代わりだと考えると、バルブの回転による水の流量の増減がグリッドの電位の上げ下げに対応します。
現在用いられている真空管の中では、最も音が良いと言われていることから真空管の王様と呼んでも良い300Bや、電圧増幅管として用いられる6DJ8、12AU7、12AX7などが三極管です。