《小説》ひなねこ 共同戦線をはじめました《序曲》6
「と、とれない・・・。」
佐々木陽菜はあせっていた。
それは、猫のお腹にべったりと付いた「ゴキブリホイホイ」の粘着力の強さ。
引っ張っても、びくともしない。
というか、猫の事を考えると力いっぱい引っ張れない。
石鹸やオイルを使ってみたが、びくともしないかった。
困った・・・。
飼い主がいたら、このままで返すわけにはいかないのだ。
このマンションはペット禁止だけど、この状況を飼い主が見たらきっと「なんていう事をしてくれたんだ」とか、「虐待だ!」とか言われてご近所問題に発展するかもしれない。
というか、きっとするだろう。それは困る。
頭の中でぐるぐると考えていると腕の中の猫は、首を回して舐めて取ろうとした。
「ストップ!待って待って~。」
陽菜は慌てて止める。
もうこのままではダメだ。
「どうしよう。」
こうなったのも、何にも考えずにやってしまった自分のせいだ。
猫には罪はない。というか、罪はないのか?
一応家宅侵入なのだが。
でも自分ではどうにもできないし、こうなったら専門家の力を借りるしかない。
「病院に連れて行こう!」
そう言って立ち上がろうとした時、腕の中の猫がいきなり抵抗するように動いた。
猫は、腕の中から逃げ出すようにするりと抜け出した。
「ちょっと待った!」
慌てて陽菜は猫を捕まえなおす。
また逃げ出すと大変だ。
「猫ちゃん、病院が嫌いなの?」
動画とかでも、「病院」と聞いただけで逃げ出す犬や猫がいた。
「でも、このままではいられないでしょう。」
そう猫に言い聞かせるように話すと、スマホで夜でも空いている動物病院を探し始める。
夜ともなると、開いている病院は少ない。
しかも、近いところとなると尚更だ。
「よそ様の猫じゃなかったら、毛を刈ることも出来るのに・・・。」
と恨めしそうに猫を見る。
すると猫はじっと陽菜の顔を見返して、ため息をついた。
と言うか、ため息をついたように見えた。
そしていきなり、
「じゃあ、そうしてくれ。」
と言葉を言い、鋏のある引き出しを指したのだ。
「・・・・・・。」
しばらくの無言・・・。
しゃべる猫がいるのは知っている。
ゴハ~ンとか、たべる~とか、マグロ好き~とか言っている猫の動画を見たことがある。
そういう猫なのだろうか?
「いやいやいや、そういう風に聞こえただけ。」
自分に言い聞かせるように言うと、スマホの検索を続けてごまかしてみる。
しかしそれを見た猫は、スマホの画面を隠すように手を置き、
「だから、病院はやめて欲しい。」
今度は、はっきりとした言葉で陽菜を見る。
そして、こう言ったのだ。
「私は、地球でいう猫ではないのだ。」