(小説) ひなねこ 共同戦線をはじめました《序曲》
人は信じたくなことがおきたら、どうするのか。
佐々木陽菜はまさに今、その状態だった。
「私は見ていない、何も見ていない」
心の中で言い聞かせるようにつぶやく。
今、テレビが映像を映しているのは、きっと朝出ていく時に消し忘れただけ。
そして、ソファーの上を陣取りテレビを見ている猫。
なぜ猫がこの部屋に?
陽菜は今のこの状況を受け入れることを否定しようとしている状態なのだ。
佐々木陽菜がこの部屋に引っ越してきたのは1年前。
大学を卒業して、社会人になって念願の一人暮らしを始めた。
もちろん初めての一人暮らしだ。
物件を選ぶ時も、色々と調べて選んだ。
もちろん、その中には事故物件でないかも確認している。
だから、幽霊が出るはずもないのだ。
なら、この猫はどこから来たのだろう?
今日の朝、会社に行く時はいつもと何も変わったことはなかった。
普段通り、お弁当を作り、朝ご飯を食べて会社に出勤した。
そして、いつもどうりの仕事をこなし、学生時代の友達とご飯を食べて帰宅した。その時に、ちょっとチューハイは飲んだけど許容範囲でだ。
そして、家のドアを開けると・・・。
テレビがついていて、ソファーには猫がいたのだ。
「ちょ、ちょっと待って」
もしかして、このマンションの誰かが猫を飼っていて、その猫が外に出てしまったとか。
そして、帰って来た時、ドアを開けた時に入って来たのを気付かなかったとか。
それならば、納得がいく。
だけど、このマンションはたしかペットを飼うのは禁止だったはず。
だから、このマンションに決めたのだ。
ということは、このマンションの住人の誰かが内緒で飼っているんだろう。
陽菜はそう頭の中で納得すると、まずは猫をどうしようかと考える。
実は陽菜は動物を飼ったことがないのだ。
小さい時にふれあい教室で、小動物を触ったことはあるのだが、大人が側にいてこそ出来たことだ。
だから、一人ではどうすればいいいのか分からない。
でもこのままにするわけにもいかず、恐る恐る近づく。
「いい子だから動かないでね~・・・」
その声に、テレビを見ていた猫は陽菜を見る。
吸い込まれそうなブルー。
ソファーの上を動かず、ただじっと陽菜を見てくる。
やっぱり、ちょっと怖い。
手を伸ばしたまま触れられずにいると、不意に猫がソファーから飛び降りた。
どう仕様も出来ずに見ていると、猫はそのままドアに向かって歩いていく。
そのままドアの前で止まると
「にゃーぁ」
と鳴いた。
そして、姿が消えたのだ。
まるでドアに溶け込むようにいなくなった。
幽霊のように・・・。
「!!!」
陽菜はその場にへたり込んだ。
何?今の?
確かに猫はいたよね?
ドアは確かに閉まっている。
私の見間違い?
どうなっているの?どうなっているの?どうなっているの?
頭の中がパニックだ!
幽霊? 猫の幽霊?
そんなのいるの?
この状況をどうしたらいいの~!?
ただ、テレビの音だけが、今の状況を証明していた。