《小説》ひなねこ 共同戦線をはじめました《序曲》7
自分の目の前にいるのは、猫。
その猫が、こう言ったのを、確かに佐々木陽菜は聞いた。
「私は、地球でいう猫ではないのだ。」と。
では、目の前にいるこの生き物は何なのだろう?
見た目は、一般に言う「ネコ科」だし、モフモフ感がたまらない毛並みを持っている生き物だ。
そして、ブルーの猫目で、陽菜を見上げている。
「猫よね。」
陽菜の言ったその言葉を打ち消すように
「この体は猫の形をとっているが、私は猫の形にとりついているのだ。」
そして、
「猫は、話すことはしないだろう。」
キッパリと言い放った。
だったらこの生き物は何なんだろう?
と言うことは、最初に思っていた幽霊?
幽霊が猫についているの?
「・・・じゃあ、幽霊?」
おそるおそる猫に尋ねる。
「それも違う。私は地球でいう猫ではないと言ったであろう。」
落ち着いた風に猫は話す。
「じゃあ、なんなのよ。」
「・・・それはまだ言えないのだ。」
自分はこんなに振り回されているのに、淡々と言葉を返す猫に陽菜は理不尽な感じがしてきた。
「人の家に、勝手に入って来て言えないとはおかしいでしょう!」
「仕方がないではないか。そもそも、姿を見せるつもりもなかったのだ。」
「姿をみせないまま、この部屋に居つくつもりだったの?」
ちょっとそれは怖すぎる・・・。
「それってストーカーと言う・・・」
その言葉には、猫は憤慨だとでもいうように
「そんなものと一緒にするな。私は仕方なくここに居るだけだ。」
と、小さな手でバシバシと床を叩いた。
「別に害を与えるつもりはなかったのに、何故かこんな事になったのではないか!」
そういうと、猫はべったりと粘着のりが貼りついた自分の体を恨めしそうに見た。
「・・・仕方ないでしょ、変な猫がいると思って怖かったんだから。」
陽菜としても、これが色々考えた中での作戦だったのだ。
「それは驚かして悪かったと思っている。しかし、これを早く取ってくれないと動けなくて困るのだ。」
猫は上目遣いに陽菜を見た。
うっ・・・可愛いかも。
でも
「それはできないわ。」
陽菜はそう言うと、猫に
「あなたが何者で、何をしたかったのかは分からないけど、この粘着力は病院に行かないと無理。」
取る方法がわからないし、とにかくこの粘着力はどうにもならない。
それなのに
「病院は困る。」
キッパリと猫は言う。
「見た目は猫でも、医者に私の存在がバレたら困るのだ。」
「猫にしか見えないけど・・・。」
そう言うと、いままでの疑問を投げかける。
「そもそも何なのよ。あなたの正体は。」
そう、いつの間にかこの部屋にいたかと思えば、姿が見えなくなったり、猫ではないと話し出したり、この猫としか見えない姿の不思議な生き物は・・・。
その陽菜の問いに猫は仕方がないと言うようにため息を一つついた。
そして
「私は地球から遥か遠いところから来た生命体。この体は地球で活動するために仮に作られた体だ。」
そう言うと、
「私は高次有機機械生命体。『地球外ロボット』なのだ。」
と真面目な顔で言い切った。