《小説》 ひなねこ 共同戦線をはじめました《序曲》3
あれから1週間がたった。
自分が見たのは幻だったのか?・・・と思うくらいに猫の姿は見なかった。
見ないからこそ怖かったので、とりあえずペット用のカメラも買って部屋に置いてもみた。
もし、自分がいない時に猫が出たら・・・。
しかし、毎日カメラから送られてくる映像は、静かなまま、時が止まっているようだ。
自分の中で、あの日の事を無かったことにしようとしている・・・。
そう思いながら、仕事の休憩中にスマホから部屋の映像を見ていると、
「佐々木さん、隣いい?」
と、声をかけられた。
顔を上げると、同期の塩崎さんだった。
今は部署が違うけれど、新入社員の研修の時に同じグループになって以来、時々会って会社の愚痴を言い合う仲だ。
「どうど、どうぞ」
陽菜は、隣の椅子を引きながらそう言うと、
「久しぶりだね」
同じ会社の建物とはいえ、休憩時間は仕事次第なので、顔を会わすことはほとんどない。
塩崎とは階も違うので、休憩部屋で会わなかったらあとは飲みに行く時ぐらいだ。
「ところで、犬か猫でも飼い始めたの?」
お弁当をバッグから取り出しながら、塩崎は聞いてくる。
「えっ?」
思わず返すと、
「それ、お留守番しているペットの様子をみるカメラでしょう?
うちの猫も、心配だからつけてるよ。」
彼女は白黒の猫を飼っている。
「ん~・・・、飼っているというんじゃなくて、居るというか・・・。」
なんて説明をすればいいのだろう?
猫が消えたなんて言っても、信じてもらえるはずもないし。
自分でも確信が持てている訳でもないのだ。
陽菜は、どう説明しようかと悩んでいると、
「え?でもそこの床に肉球の跡があるよ?」
と、言葉を続ける。
その言葉に、陽菜は思わず画面を食い入るように見る。
「どこ?どこに肉球が写ってる?」
「ほら、右下のここ」
指をさしている所をよく見ると、確かにうっすらと肉球らしい跡がある。
やっぱり、自分が見たものは、幻ではなかったのだ。
やっと確信への手がかりをみつけた!
「ありがとう、塩崎さん!」
思わず手を握ってしまっていた。
塩崎は、よくわからないままに笑顔で返してくれた。そして、お弁当を食べ始める。
それから陽菜はカメラの事を聞かれないように話をそらしながらも、塩崎の愛猫話を聞きながら休憩時間を過ごした。
そして、考えていた。
猫の幽霊って、足跡ってあるの?
と、誰にも答えられない、よくわからないことを・・・。
「ひなねこ 共同戦線をはじめました《序曲》」
どうだったでしょうか?
まだ、始まったばかりの物語です。
これからも読んで頂けたら幸いです!