逆光のみクジラ|毎週ショートショートnote
おじいちゃんが龍のひげでつくったブラシ、山藍摺で、がしがしとこする。
深く太い聲が、あたまの上で鳴り響く。
「もうすこしだからまってね」
寅の刻になるとはじまる「肆」は、一年の始まりに行う行事だ。
特別に選ばれた生きものが行う奉ごとで東西南北、四方向の神々に今年の旅が美しいものになるよう遙拝する。
躰を洗われるのが好きなクジラは、うれしくてぶるぶる震えている。
その振動がブラシまで届くと、私の佩服は、びしょぬれになった。
まだ時間はある。私の隣で同じく佩服を濡らしているセチはシャチの担当だ。
「肆」は、シャチとイルカ、クジラと人の四種が行う。
太陽が昇る方角を確認しながら執り行う肆は、光の入り方が決められており、逆光で行うのはクジラだけなのだ。
「さあできた!」
濡れた佩服を着替えて、クジラに鞍を浮かす。クジラの躰を傷つけないようにと作られた思念体の鞍は、私の精神力の揺らぎに合わせて、濃くなったり、薄くなったりして見える。
右手の指を絡めて印を組み、しっかりと鞍を安定させて、クジラに乗り込む。
クジラの担当をする者は、方角感覚が優れていると認められる名誉なことなのだ。
私は一年で一番高く熱い太陽の逆光になるよう、舵をとりながらクジラと共に進んで行く。
【あとがき】
今週もたらはかにさんの #毎週ショートショートnote に参加させていただきます。
今日はお正月なので、表も裏もかいちゃおう!ということで両方書きました。
ファンタジーなかんじのやつを書いてみたいなと思ってまずはクジラを空に飛ばしてみて、それをお世話する人がいるなあ……などど考えているうちにこんなお話になりました。
江戸時代のお正月宮廷行事を調べていたら出てきた言葉たちを適当に変えて、さらに今回はルビにも挑戦!難しい読み仮名にルビあったら嬉しいですよね。
ちょっと続きが気になる。
この絵もキャンバAIに描いてもらいました。