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雪国搬送大作戦!~救急車 vs 最大寒波~~病院に帰るまでが搬送です~
「明日の天気予報では、記録的な寒波が予想されます—」
テレビの天気予報を見ながら、私は軽くため息をつく。
「知ってる。雪になるんでしょ」
朝。目覚めて窓の外を見た時は、正直ほっとした。周りには雪が積もっていない。「やれやれ、病院までは大丈夫そうだな」
でも、私の局地的に慎重な性格は簡単には安心させてくれない。いつもより30分以上早く家を出ることにした。だって、風が吹けば桶屋が儲かるじゃないけど、遠方の悪天候が近場の交通状況に影響することだってあるもの。
そんなびびりな私が、この日はなんとB県までの救急搬送に同乗することになっていた。「大丈夫、きっと大丈夫」と自分に言い聞かせながら。
出発時、A県内は「ちょっと寒いな」程度の認識だった。道路はいつも通り、ただ寒いだけの平凡な冬の風景が続く。ところが—。
県境の橋を越えた瞬間、世界が一変した。
「え、ちょっと待って。これマジ?」
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橋を渡るたび、山を登るたび、景色が劇的に変化していく。まるでファンタジー映画のシーン転換みたい。
私の目の前に広がっていたのは、完璧な銀世界。山も、木も、道路も、すべてが分厚い雪の壁に覆われていた。道路脇では、車に積もった雪と格闘する住民たちの姿が。
「ダメ!絶対!」
医療従事者としての職業病が発動する。「これでスリップしたら大腿骨頚部骨折!転んで手をつけば橈骨遠位端骨折!雪の日の外出禁止!」と心の中で叫ぶ。
彼らにとっては日常かもしれないけど、A県民の私からすれば、もはや異世界。観光目的なら、どれだけわくわくすることか!でも—。
「ピーポーピーポー!!」
現実に引き戻されるサイレンの音。そうだった、これは観光じゃない。私たちには大切な使命がある。
「安全第一で」
救急車は慎重に進む。道を譲ってくれる車両たちに感謝しながら。その時—。
前方の大型トレーラーが私たちのために進路を空けようと、ゆっくりハンドルを切った。その瞬間。
「え?まさか—」
トレーラーが雪道でスリップを始めた。私の心臓が止まるかと思った。時が止まったような一瞬。ベテランドライバーの神業的な操作で、トレーラーは奇跡的に制御を取り戻した。
(申し訳ない...道を譲ってもらおうとしたのに、危険な目に...)
心の中で土下座しながら、それでも使命のため前進。この極寒の中、滑りやすい路面で道を譲ってくれる車両すべてに、感謝の気持ちが溢れる。その小さな勇気が、今この瞬間も、誰かの命をつないでいる。
B県内の移動は、文字通り最高レベルの警戒態勢。救急車だからって調子に乗れない。チーム全員で声を掛け合う。「ゆっくりでいいから、確実に!」
無事に搬送完了。帰り道はサイレンなしのスローペース。そして、ついに除雪された高速道路へ。
「はぁ...これが天国?」
真っ黒な路面が、こんなにも美しく見えたことはない。まるで異世界から現実世界への帰還。全身の緊張が解けていく。
この冒険から学んだこと:
B県の冬は、間違いなく異世界。準備は万全に。
救急車の最優先事項は「安全な」搬送。
雪道で道を譲る勇気が、確実に命を救っている。
トレーラーさん、あの時は本当にごめんなさい!でも素晴らしい運転技術に感謝です!
びびりな性格も、時には役立つ?
まだまだ冬は続く。次はどんな「異世界」が待っているのか。私たち救急隊の冬物語は、まだ序章に過ぎない。
次回B県行きが決まったら、イセカイ転生装備(防寒具しかもオレンジ色)は必須ですよ!