セメントの素材感に色の持つパワーを加える【現代美術作家・ARTIST miu】
2022年8月5日から香川県三豊市の三豊鶴で実施される「酒蔵Art Restaurant」。
150年前に作られた歴史ある酒蔵の中に、現代アーティスト24名による作品が展示・販売されるほか、シェフ8名が週ごとにコース料理を振る舞います。
今回は、10月14日(金)~16日(日)に在廊する現代美術作家、ARTIST miu(アーティスト ミウ)さんをご紹介します!
プロフィール
嶋本昭三先生に意識や思想を教わった大学時代
ーこれまでの経歴について教えてください。幼少期からものづくりが好きだったんですか?
母がちぎり絵を習っていたので、一緒にやるのが好きでした。とにかく「創る・生み出す」というのが好きだったんですね。今思うと、絵を描くよりは、塗り絵や折り紙、紙粘土など、立体的なものをよくやっていたと思います。また、母親は美術館によく連れて行ってくれまして、小さい頃からロダンの彫刻を見たり、ピカソの絵を見たり、芸術に触れる経験をさせてもらいました。
その後、姉がファッションの専門学校に通っていた影響もあって、「ものを作る」進路に進もうと思い、工業高校のデザイン科に入学しました。当時は自分に自信がなくて、自尊心がなかったんです。そんな時に絵と出会って、初めて絵で表現したときに、「魂と体がつながった」という感覚があり、アートに救われたと感じました。これを機にアートをやることを決心したんです。
まずは美術・芸術大学に進学しようと思い、様々な大学を調べている中で、宝塚造形芸術大学のパンフレットに嶋本昭三先生の作品が載っているのを見つけました。当時は具体美術など何も知らなかったのですが、「ただただかっこいい!」と思って、魂が震えたんです。この先生に習いたい!と思って進学を決めました。
大学入学後、嶋本先生の授業を受けるようになり、交流する中でアトリエにも通うようになりました。先生のパフォーマンスも手伝わせてもらって、女拓(にょたく)もやりましたよ!先生は常識では考えられないことをやる方で、その概念を教えてくれました。技術的なアドバイスは一切教えてくれないのですが(笑)、意識や思想、既成概念を取り払うことの大切さなどを感じられる場所でした。「これで良いんや!」って思いましたね。18歳とかでその感覚を教えてもらえるというのはとても貴重な経験だったと思います。先生からは、「はまちゃん(miuさん)は明るいから、ばーってやったらええんや!」というアドバイスをもらいました。「このままでいいんやで」と言ってくれていたんですね。
在学中はAUメンバーとして制作活動に取り組んでいたのですが、実は、大学卒業後はブライダルコーディネーターとして就職しまして、3年くらい全く絵を描いていなかったんです。3年ほどOLとして働いた後、「やっぱり絵を描きたい!」と思って仕事を辞めて、行きたいと思っていたNYに向かいました。作品資料を持って、1ヶ月くらい滞在し、美術館を回ったり色々な人に会ったり、楽しく過ごしました。めっちゃ楽しかったですね。
帰国後、制作活動に取り組みつつ参加したアート業界の飲み会で、AUの高田雄平さんと再会し、誘ってもらって2014年にAUへ再度加入することになりました。現在は家族に協力してもらいながら作家活動をしています。
ネガティブをポジティブに変換する
ーセメントを使い、鮮やかな色彩が映える作風が印象的です。この作風になったきっかけはなんですか?
嶋本先生の授業で、具体の精神でもある「誰もやったことないことをやる」という課題があり、どうしようかなと。作品の表面にザラザラした感じを作りたかったので、砂や石を使ってみたのですが、物足りなさを感じていました。悩みながらホームセンターに出向いて色々見ていた時にセメントを見つけたんです。立体作品でセメントを使っている人は当時からいたのですが、平面作品で、絵画としてセメントを使っている人はいなかったので、やってみようと思いました。
現在とは異なる作風だったのですが、授業で先生に見せたときに「面白い、ええやん!」と言ってもらえて、セメントを使う方向でやってみようと思ったんです。
2014年、AUに戻った時には、「A4展」という小さめの作品の展示会に参加しました。そこで初めて作ったのが現在まで続いている「Beautiful cell(美しき細胞)」シリーズです。セメントに穴を開けて、色とりどりの樹脂を流し込んで作っているのですが、これが好評ですぐ売れました!作っていて楽しかったですし、様々な展開ができるなと思い、そこからシリーズ展開をしていくとともに、作家としても軌道に乗った感覚がありましたね。
現在も、セメント自体は、「素材として面白い」という理由で使っています。色や質感は、無機質で冷たく感じる人が多いと思いますので、そこに、あえて生命力溢れる色の樹脂を加えていくやり方です。セメント自体は現代に起こるネガティブな感情や事柄を投影していて、そこにポジティブな生命力溢れるものを与えることで、ネガティブをポジティブに変換する、例えばピンチをチャンスに変える、というようなコンセプトなんです。普通の白い画面に載せるとキツすぎるような色も使っていて、特に蛍光色は「現代の色」というイメージです。「色の持つパワー」を意識していますね。
今回ペイントした樽の作品について
ー三豊鶴でペイントしただいた酒樽の作品について教えてください。
樽の作品自体は、「Beautiful cell」シリーズの一環で、一つの細胞なんです。「一旦役目を終えた酒樽に、新たに命を吹き込む」というテーマで作りました。(お酒を作っていた)杜氏さんたちに喜びを与えていたであろう酒樽を、再び新たな喜びやパワーを放つものとして再生させました。お酒を通じて人々を幸せにしてきた三豊鶴への敬意を込めて制作しました!お猪口にも見えますね!
上から見て一個の細胞にしたかったので、苦労しましたね(笑)完全に色のパワーを借りた作品です。隣合わせにする色によって色のパワーが変わってくるなと感じています。全部違う色18色を使っているんですよ!見た方の感想聞けたら嬉しいですね。
今回展示する作品のコンセプト
ー今回三豊鶴で展示販売していただく作品について教えてください。
代表作である「Beautiful cell(美しき細胞)」シリーズの中から数点と、「Future Self(未来の自分)」シリーズ、コロナ禍で生み出した「Awakening(目覚め)」シリーズなどを展示します。
「Beautiful cell」シリーズの丸は細胞をイメージしています。丸の中に偶発的に色をつけた樹脂を入れていくのですが、これは細胞が一つ一つ産まれていくイメージなんです。色によって広がり方が全然違くて、自分のコントロール範囲外にある偶発性や、一つ一つの細胞の中の世界観が面白いと思っています。作品全体が出来上がると、作品自体が一個の生命体になる、というイメージです。
人間は、細胞が分裂してできた奇跡の存在であることを再認識してほしいと思っています。「自分を愛することの大切さ」を問いかけている、「自己愛」をテーマにした作品なんです。自分を愛さないと他人を愛することもできない、広がっていくと世界平和にもつながる、というイメージです。自分を大事にする、というメッセージを全ての作品に込めてつくっています。
「Future Self」シリーズは、「未来の自分につながる意識を持ってください」というメッセージを込めてつくった作品です。私自身はスピリチュアルな世界観や思想に助けられていて、普段の生活にも取り入れているのですが、その中に、「自分の高次元の意識と結びついた時に、そこには未来の自分がいて、その自分が引っ張り上げてくれる(助けてくれる)」という学びがあります。その教えを投影し、未来とつながる扉をイメージして作りました。
ご来場いただく方へのメッセージ
先述の通り、自分自身はアートに救われた経験があります。ご来場いただく皆様にも、今回展示する作家さんたちのアートに触れることで、何か魂の栄養になるようなイメージで感じ取っていただけたら、作家冥利に尽きるなと思います。それぞれの考え方・感じ方でいいと思います。メッセージは込めていますが、それ以外のことも感じてもらえたら嬉しいです。もし感想があれば書いてもらえたら嬉しいですね。
作品を鑑賞していただくことで、心が軽やかになったり、パワー湧いてきて行動したくなったり、豊かな心になっていただけたりしたらいいなと願っております。
三豊鶴「酒蔵Art Restaurant」とは
皆様のお越しをお待ちしております!