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クリエータ紹介(9)芝 輝斗さん、石本 大歩さん

このnoteでは、福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称・福岡未踏)のプロジェクト採択者について、プロジェクトの詳細や福岡未踏にかける思いをご紹介します。

今回は、水田千惠PMのインタビューを基に、Proコースの芝 輝斗さん、石本 大歩さんのプロジェクトをお伝えします。

プロフィール

  • プロジェクト名:kumikoAI:生成AIや画像処理を用いた組子特化型webサービスの開発

  • 支援プランと期間:Pro(24年7月〜25年1月)

  • クリエータ:芝 輝斗(九州大学大学院人間環境学府 2年)、石本 大歩(株式会社前田建具製作所)


Q:お二人の自己紹介をお願いします。

石本:石本大歩(だいほ)といいます。僕は九州大学大学院人間環境学府で建築学を専攻したのち、株式会社前田建具製作所に入社をしました。その中で組子を実際に作ったりする場面が多く、「こうしたら面白くなる」といったことを芝くんなどに相談していたところ、ひとつ形にしてみようと、今回のプロジェクトが立ち上がりました。普段の趣味も仕事と離れてなくて、家具とかを見たりするのがすごく好きです。

芝:芝輝斗です。自分は九州大学大学院人間環境学府に所属していて、いま修士の2年生です。石本さんとは同じ研究室に所属していて、プログラミングや環境シミュレーションといったデジタル技術と設計の掛け合わせを専門にしています、最近はまた分野が別にはなってくるんですけど、新しい土の建材の開発を進めていて、それについて修士論文書いている最中です。

Q:2人は同じ研究室で、石本さんが在学をされたときからお知り合いということですか。

石本:そうですね、僕が修士2年生のときに、芝くんが学部4年生として入ってきました。

左:石本さん、右:芝さん

Q:プロジェクトの概要について教えていただけますか。

石本:僕たちは「kumiko AI」という、組子に特化したウェブサービスを開発しています。
まず組子というのは、飛鳥時代から伝わる木工技術です。パターンの組み合わせで作られるのが組子と一般的に言われてます。
僕が建具屋で働いている中でも組子を製作する会社がどんどん減少してたり、技術が紙ベースっていうか紙でもなく口頭で職人から職人へ伝えられるところがあり、若手を育てるのに時間がかかるといった問題もあります。あとは組子の需要がそもそも減少していたり、それに伴って組子の職人も減少してたりというような課題が挙げられます。
それに対して、僕らがkumiko AIというウェブサービスを作ることで組子の制作プロセスを短縮化しつつデザインの幅も広げれたら、需要が増えるし、若手の職人さんも取り組みやすくなるし、デジタルで管理することで同じようなデザインをもう一回作ることができるんじゃないかなという考えでやってます。

開発中のkumiko AIの画面(画像: 芝さん提供)

Q:サービスのターゲットを教えてください。

石本:熟練の職人さんをターゲットにしています。もちろん若手にも使ってもらいたいんですけど、熟練の職人さんが使えるものを作ったら、今後若手向けにカスタマイズしやすいんじゃないかと考えています。
大川組子の熟練の職人さんは、60歳から70歳ぐらいです。いま大川で組子だけをやっている会社は1社だけだと思います。正確な数字はわからないですが、組子だけでなく建具とかいろんな範囲でやってるところが5〜6社あるかなという規模感です。

Q:kumiko AIにはどんな機能がありますか。

石本:まず1つ目がプロンプトからのデザイン生成で、「富士山を作りたい」といったイメージをテキストで入れるとデザインができます。2つ目は画像からのデザイン生成で、例えば自分が飼ってる犬の画像を組子デザインにできます。3つ目は桜吹雪のような抽象アートのような模様のデザインを自動で作ってくれます。
他には編集機能や、組子に光を当てるとその陰影が美しいという特徴を実際にシミュレーションできるようなツールであったり、データ管理までできるようにしようと開発を進めている段階です。
さらに可能性として、3Dプリンターやレーザーカッターを使うことで、既存の組子だけじゃなく、価格も抑えつつパターンの種類を増やしたり複雑さを増すとか、そういったことができるんじゃないかなと考えています。
また前回(2024年11月)の中間発表から発展した内容として、組子デザインって職人さんの感性でできてるところがあるので、その感性をデータベース化して再現できるように、画像解析を用いてディープラーニングでそういったものも学習データとして蓄積していけたらいいかなっていうのが最新の状況です。

kumikoAIの主な機能(画像:芝さん提供)

Q:どういったきっかけで生成AIを使ってみようと思ったのか教えてください。

芝:組子は伝統技術であり、それだけでもすばらしいんですけど、需要はだんだん減ってきています。その中でAIという新しい技術を導入することで、今までにない見たこともない組子を作れるんじゃないかっていうことで、生成AIを取り入れています。ただ伝統を引き継ぐだけじゃなくて、組子の技術を拡張していき、新しい組子をどんどん作っていきたいです。

Q:継承していく部分と新しく生み出す部分で、意識していることや大切にしていることはありますか?

石本:伝統的な組子のパターンは全国である程度共通で、一般的には200種類と言われていますが、いま取り組んでいる三角形のパターンでは、僕が収集しているだけでも100くらいあります。またいろんな会社ができることがバラバラにあって、どこで調べても全部の技術が辞書のようにまとめられてるところはありません。僕たちが、オリジナリティーがあるとすると、大川でやってるところに限定せずに、パターンや技術を集約して、そこから新しいものを生み出すところかなと考えたりはしてます。

Q:kumiko AIでは生成AIをどのように活用していますか。

芝:いま使っているのはOpenAIにより開発された画像生成AI「DALL-E(ダリ)」のAPIで、プロンプトの部分をプログラム上で、例えば「明暗がはっきりわかるように」みたいな感じである程度操作することによって、組子が作りやすいデザインを生成しています。
石本:その後、生成した画像をピクセルに分割して、その濃淡に応じて組子のパターンを当てはめていっています。

Q:プロジェクト体制や役割分担について教えてください。

石本:僕は主にUIのデザインや、どっちかというと職人なので制作プロセスを自分の体験からまとめたり、あとは現場にいてそういったものに触れる機会が多いので組子パターンの収集をメインにやっています。
芝:自分の方はプログラミングが得意なので、エンジニア的な立ち回りです。基本的にkumiko AIのプログラムを運用しています。
石本:あとは僕が組子の会社で働いていて、いろんな会社をまわるのはなかなか難しいところもあって、芝くんが現地リサーチみたいなところには出向いたりしてくれています。

Q:リサーチに行かれたときに、開発中のサービスの話をされることがあると思うのですが、みなさんの反応はいかがですか。

芝:今まで何人かの組子職人さんにkumiko AIの説明をさせていただいたんですけど、結構どの方にも好評で、使ってみたいみたいな話はされています。一方で、まだまだその職人さんの作り方とは違うやり方でプログラミングをしていたりするので、そこは職人さんのニーズに合わせてどんどん修正していく段階です。

Q:kumiko AIで生成したデザインを元に、実際に組子を組んだりしているのですか?

石本:実際に組子として作ったことはないんですけど、レーザー加工とかで手軽に試してみたり、あとは芝くんがちょっと前にやってくれたのは、教授のパーティーで、その教授の顔を試しに作ってプレゼントしたりとか、そういったことをある意味実験的にやっています。

kumiko AIでデザインした組子画像をもとにレーザー加工した作品(写真: 芝さん提供)

水田:デジタルファブを組み合わせられるのはいいですね。
石本:手軽にできるっていうのはそうですね。まずそういったところからみんなに知ってもらうっていうのがファーストステップなのかなと僕たちも思ってるので、そういうプロダクトも増やしていきたいなっていう話はしています。
水田:「お土産屋さんで見る」みたいなところから「日常的に見る」みたいなところにこうシーンを広げていけるといいですよね。
石本:多分コースターとかですよね。結構どこでも見ると思うんですけど、あそこからもうちょっと派生しないとなっていう気持ちであります。

Q:お二人が、すでに開発中だったkumiko AIを福岡未踏のProコースに応募した理由を教えていただけますか?

芝:以前から福岡未踏っていうのは知っていて、何かしらで出したいなと思っていました。その後にkumiko AIを作って、自分たちは2人とも建築士でプログラミングやツール開発はあんまり経験がなくて、意見を聞きたいなとかこの進め方でいいのかとかちょっと不安があったので、良い機会と思って応募しました。
水田:石本さんは応募を提案されて、どう思われましたか?
石本:その発想が僕には最初なくて、コツコツ自分たちでやっていくものだと思ってたので、その世界に引き入れてくれたのはよかったなと思います。技術的な側面もそうですし、他のビジネスコンテストではビジネス的にどこからどんな切り口でやるのがいいのかみたいなこともフィードバックをいただけます。それを消化するのに僕たちもまだ全然時間かかってるんですけど、そういう意見を聞ける場を作ってくれました。

Q:福岡未踏以外には、どんなコンテストに応募されていますか?

石本:そうですね。一番大きいものでは福岡県の福岡よかとこビジネスプランコンテストで準優勝をいただきました。
芝:また先日、全国的に開催されている X-Tech Innovation(クロステックイノベーション)の九州地区大会があって、そこで協賛企業賞を獲得しました。他にも現在申し込んでるものなど、いろいろあったりします。
水田:フィードバックを得て、自分たちの開発をブーストしていくきっかけとして、コンテストを活用されているということでしょうか?
芝:そうです、そうです。いろんな人からいろんな視点でフィードバックをいただけるので、そこがいいなと思います。あと同じビジコンに出してる人や審査員の方々とのコネクションとかもできて新しい案件とかにつながったりもすることがあるので、積極的に応募してます。
石本:進捗的なことで、2人でやってるとのんびり時間をかけてっていうこともあると思うんですけど、ビジコンとか定期的にあると、「そこまでにこれを」とか「同じもので出すわけにはいかないな」というところもあって、どんどんアップデートしていく。そういった意味でも出しています。


ビジコン受賞時の写真(写真: 芝さん提供)

Q:そんなお二人のこの福岡未踏を終えた後の夢だったりとか、今後の目標というところについて、教えてください。

芝:この組子という素晴らしい伝統技術がだんだん失われつつあるので、そこをうまいこと継承して、もっと先の新しい組子を作って、なんとか組子産業を盛り上げていきたいなって考えてます。組子だけじゃなくて他にもいろんな伝統工芸とかもあるので、組子みたいにパターンで成り立ってるような工芸にも応用できたらいいなと。あとはこのプロジェクトを続けるためにはお金も必要になってくるので、持続可能なビジネスとしてやっていくためにも、ちゃんと起業してお金を稼げるようになりたいなっていうのが目標です。
石本:僕としては、今組子やってるのってすごい高齢な人が多いんですけど、若手がもっと作るところだけじゃなくて、デザインとかそういった空間デザインとか、そういう関わり方もいっぱいあるかなと思っています。そういうのの一つのモデルケースがkumiko AIなんじゃないかなっていう。職人で手を動かして組子を埋めていくだけが組子を作るってことじゃなくて、こういうAIとかソフトウェアみたいなところからも伝統工芸に関われるんじゃないかな、それの本当に先駆者に僕らがなれればいいのかなっていう思いです。

福岡未踏とは

福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称、福岡未踏)とは、福岡県在住の若手クリエータを発掘・育成し、クリエータの「何かを作るための第一歩」を支援し、また、IPA未踏と同等の支援に加え、複数のIPA未踏経験者からなるPM・メンター陣にて、プレ人材向けの支援を行います。

(文:水田 千惠 PM)