クリエータ紹介(8)添田 碧人さん、中島 蒼太さん
このnoteでは、福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称・福岡未踏)のプロジェクト採択者について、プロジェクトの詳細や福岡未踏にかける思いをご紹介します。
今回は、田中聡至PMのインタビューを基に、Solveコースの添田 碧人さん、中島 蒼太さんのプロジェクトをお伝えします。
プロフィール
プロジェクト名:旅(りょ)こんしぇる:簡単かつ短いやり取りでユーザにあった観光地を推薦
支援プランと期間:Solve(24年9月〜25年1月)
クリエータ:添田碧人さん(九州大学 工学部 4年生), 中島蒼太さん(九州大学 工学部 4年生)
これまでの歩み、来歴
添田さん、中島さんのお二人は、九州大学工学部に在籍する4年生です。
添田さんはコンピュータビジョン(画像分析)、中島さんは自然言語処理や推薦システムが現在の専門です。
これまで講義以外でのプログラミングの経験はなかったそうですが、大学院の研究まで見据える中で、積極性を持って実装に挑んだ経験がないことに不安を感じ、 この機会により高度なシステムの構築に挑戦をしたくなったとおっしゃっていました。
プロジェクトの概要
● 提供:株式会社SVI研究所 (https://www.svi-l.jp)
短いやりとりで観光に役に立つ情報を提供してくれるチャットシステムの実現 が当プロジェクトのテーマです。
シチュエーションとしては、遠出をした先で時間が空いてしまった際や、大きく計画を練っていないような旅行の際に、旅先で、LINEミニアプリを窓口として、プランの推薦を行います。
ここ1、2年で急激に認知を広げたLLM (大規模言語モデル)を用いて、AIを使い慣れていない層がカジュアルにAIを活用できる旅行支援システムの実証実験が念頭に置かれています。
LLMを用いた推薦システム開発は、2024年現在IT業界全体で活発に行われていますが、未だ発展途上の分野です。
本システムにおいては、ユーザーの曖昧な質問・相談や複雑な要求を解釈し、ユーザーの体験を損ねない回答の生成を、仮説と検証を繰り返しながら調整しています。
なお、観光情報のデータベースとしては、MappleAPIを用いてアクセスし、データの絞り込みを行なっています。
施設名、住所・緯度経度、電話番号、営業時間や料金、紹介記事や写真に加えて独自取材した情報を利用できるデータベースですが、 その網羅性ゆえに、検索結果の絞り込みが煩雑になりやすく、エンドユーザーへの提供に多くの困難がありました。
LLMと網羅的なデータベースの組み合わせにより、 LLMはより正確性の高い情報を参照でき、データベースを参照した情報はLLMによって、柔軟な絞り込みが可能になります。 旅こんしぇるプロジェクトでは、 LLMと従来の検索システム、それぞれの苦手な範囲を補い合い、よりユーザーの求める観光情報を誰でも簡単に享受できるアプリケーションを設計しています。
また、ユーザから共有される基本情報や会話履歴、その時点での好みなどから、より好みに合った観光施設情報を提供します。
当初はファインチューニングの導入も候補に上がっていましたが、プロンプティングを工夫して幅広いユーザ層に対応したそうです。 京都府を実証実験地として進んでいたプロジェクトとのことでしたが、成果報告会などで関係者に広く試用されている様子から鑑みて、福岡でも汎用的な性能が発揮されていました。
福岡未踏への応募理由
九州大学では全学に向けた説明会以外でも、「福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム」にPMとして在籍する先生方の講義の中で「福岡未踏」について何度か告知があったそうです。 当初はお二人とも自分が挑戦するビジョンが見えなかったとのことですが、四年生となり、比較的時間の使い方の自由度が上がったことに加え、研究生活が始まったことで、新しいことにチャレンジしようというモチベーションが徐々に膨らみ、応募に至ったとのことでした。お二人とも大学院進学を控えている、という状況も挑戦の後押しになったそうです。
福岡未踏で得られたこと
お二人ともWeb開発への挑戦は初めてである中、今回SVI研究所との間でまとまった、ユーザーへの提供形態は「LINEミニアプリ」で、 工学部の学生であるお二人にとっても、さまざまな困難があったそうです。
九州大学のカリキュラムや実習の中でプログラムを書くトレーニングをしてきたそうですが、SVIの方々、PMとして支援する荒川先生とのやりとりの中では、Web開発独特の文脈で用いられる単語や概念が多く、当初はわからないことだらけだったといいます。
SVI研究所さんの起案に対するお二人の提案書の時点で、どのようなアーキテクチャで、どのようなコードを書いていくべきなのか曖昧だった部分が、実装を通して輪郭を帯びてきて、実装の難易度の高さを感じたようです。
プロジェクト内でのミーティングでは、当初は「何がわからないかもわからない」状態だったそうですが、LLMを積極的に活用して、キーワードを起点に幅広く情報を調べるきっかけを作っています。 添田さん曰く、LINE内でミニアプリとして提供されている各社のサービスを自身が利用者として触れていると、どのような切り口で実装を進めればいいのか実感をもってわかるようになったそうです。 福岡未踏の期間終了後も大学院生活が本格的に始まる前に、もっとWeb開発の手段を増やしてみたいとのモチベーションを語っておられました。
中島さんは研究室でも推薦システムについてはよく学んでいるつもりだったそうですが、既存のデータベースを用いた情報抽出を通して、道具を使いこなす難しさを知ったそうです。 機械学習やデータ分析についての実践的な知見を得るべく、今後はさまざまなコンテストに挑戦してみたいとのことです。
添田さんは、福岡未踏はコミュニティとして成立しており、知識技能とともに、近いモチベーションをもつ人脈が広がったことに参加の大きなメリットを感じているそうで、 中島さんも、「優秀そうだなと遠目に見えていた人たちが結構身近であったことがわかってよかった」と、心揺さぶられたそうです。
おわりに
限られた開発期間の中では、観光地以外のスポットの提供やユーザからのフィードバックを通したシステムの最適化など、思い至るアイディアを全てを実現し終えることは叶いません。 しかし、SVI研究所やPMとのやりとりや試行錯誤を通して、当初の起案である観光情報推薦AIチャットボットは完成まで辿り着きました。
この経験を活かして、今後お二人は新たな課題解決の手段としてWeb開発の力を用いたり、独創的なアイディアが未踏の領域まで昇華することでしょう。
インタビュアーも地理空間情報の利活用を生業としている都合、提供されるAPIの仕様や、LLMでの情報抽出におけるパフォーマンスなど、 お二人の発表や開発風景を通して得られる知見が多くありました。 今後のお二人の活躍を応援しています。
SVI研究所様は、2024度福岡未踏において、「観光案内君:京都府を案内してくれるAI」のSolve課題提供も行なっています。 こちらも合わせてご覧ください。
旅こんしぇるは収益化を現在のところ考えておらず、これにより得られたデータを元に、上記のSolve課題も含め、SVI研究所様のプロダクトを通して、より良い観光体験が提供されます。
福岡未踏とは
福岡未踏的人材発掘・育成コンソーシアム(通称、福岡未踏)とは、福岡県在住の若手クリエータを発掘・育成し、クリエータの「何かを作るための第一歩」を支援し、また、IPA未踏と同等の支援に加え、複数のIPA未踏経験者からなるPM・メンター陣にて、プレ人材向けの支援を行います。
(文:田中 聡至 PM)