【ミトシャの植物採集】 プロローグ
作:石川葉 絵:茅野カヤ
みなさん、植物採集者という職業はご存知ですか?
プラントハンターとも呼ばれています。
大航海時代にはじまった、世界中から植物を収集して研究するという国家的事業のために生まれた職業です。
現在もプラントハンターを名乗る人はいますが、本来の植物採集とはかけ離れている人も少なくありません。
そんな中、みなさんには、ほんとうの植物採集を黙々とこなしているひとり、というか三羽をご紹介します。
三つ首兎のミトシャです。
「こんにちは。ミトシャです」
真ん中の顔があいさつをします。横のふたりは目をつぶって、どうやら眠っているようです。
「ねえ、ちょっと起きてよ。ご挨拶して」
そう言うと、真ん中の兎は左右を向き、両手でそれぞれの兎の顔をたたきます。
「痛っ。ハッ! 僕はレトです」
向かって右側の兎があいさつをします。
「僕はラトだよ」
向かって左側の兎がそう言いました。
「そしてわたしはセト。三羽合わせてミトシャです」
真ん中の兎がそう言った後で、ミトシャは手をかざし、足を前後にしておじぎをしました。
おやおや、おかしな兎が出てきたなあと思いましたか。
無理もありません。
みなさんの生活している世界では、三つ首兎を見かけることは少ないでしょう。ミトシャは神様に造られた特別な兎なのです。
ところで、最初にお伝えしましたが、ミトシャはプラントハンターという仕事をしています。
何をする仕事かと言いますと、世の中に生えている植物を調査して、エデンガーデンという植物園(研究所)に報告するのです。
エデンガーデンの入り口には、炎の剣を持った怖い顔の天使が門番をしていて、人間や動物が勝手に敷地から、出たり入ったりしないように見張っているのですが、植物たちは、天使の足元をすっとすり抜けて逃げ出してしまうものが少なくないのです。一度、外に出た植物はエデンガーデンに入ることができなくなるのですが(侵入者は炎の剣に焼かれてしまうのです)、神様が彼らの行方を知りたいと考え、その仕事をミトシャに与えたのです。
先ほど、ミトシャは神様に造られた兎とお伝えしました。
エデンガーデンの中を、毎日、自由に楽しく暮らしていたのですが、ある時、出来心から悪さを働いてしまったのです。それで、エデンガーデンを追放されてしまったのでした。
戻ろうとしても、炎の剣の天使がそれを許してくれません。三つ首兎はおいおいと泣きました。三つの首がそれぞれ、大声で泣きわめくものですから、うるさくてかないません。
その様子を見て、神様があわれんで、プラントハンターという仕事を与えたのでした。
エデンガーデンに入ることはできないのですが、一年の間に一日だけ、入園を許される日があります。今年は、ちょうどその日が過ぎてしまったばかりなので、その様子をお伝えすることはできないのですが、ミトシャは一年の成果を神様に褒められた様子で、とっても得意になっています。
また新たな一年を頑張るために、ミトシャはエデンガーデンからぴょんぴょんと駆け出してゆきます。
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今日はこの辺にしておきましょうか。
ミトシャの植物採集では、三つ首兎の活躍を追いかけてゆきます。ひと月に1〜2回、ミトシャの奮闘の様子をお届けする予定です。
これから、ミトシャと一緒に植物のことを勉強してゆきましょう。
ミトシャが見つける植物は奇っ怪な姿をしていますが、みなさんがその植物を近所や旅先で見かける時の姿も解説します。
みなさん、ぜひ楽しみにしてお待ちくださいね。
ミトシャの住む世界は小夜色の空に包まれています。ミトシャといっしょに植物を巡る不思議な世界旅行をはじめましょう。
ミトシャの植物採集 プロローグ おわり