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【ミトシャのアートハント】 vol.4 上野リチ展

 三兎舎のミトシャです! 三菱一号館美術館で開催中の『上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー展』を観てきました! デザイナーの方はもちろん、デザインの世界を目指している方は、絶対に観た方がよい展示です。リチの思想とは反してしまうのかもしれませんが、作品を観て影響を受けて欲しいと思いました(そのことについては後ほど、詳しく記しますね)。それでは、展示カテゴリーに沿ってお届けします! 🐇🐇🐇

三菱一号館美術館、好き〜

上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー展

上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー展
会期:2022年2⽉18⽇(⾦) ~ 5⽉15⽇(⽇)*展⽰替えあり
   前期:4⽉10⽇(⽇)まで/後期:4⽉13⽇(⽔)から
会場:三菱⼀号館美術館

上野リチ展 開催概要より

プロローグ:京都に生きたウィーン人

フェリーツェ・[リチ]・リックスは、1893年に、ユダヤ系の実業家ユリウス・リックスと妻ヴァレリーの4人の娘の長女として、当時オーストリア=ハンガリー帝国の首都であったウィーンで生まれた。

上野リチ展図録 p.43より

上野リチ展図録 p.50よりリチの肖像

 このブースではスケッチブックが紹介されています。作品展を通して感じたことですが、このスケッチを観ている時点で思ったことがありました。「とにかく数を描かないといけないんだ」。とにかく描いて描いて描きまくること。それが自然にできている人は、きっと描く分野で何らかの到達点を得るでしょう。
 それとは別に、画家やデザイナーになりたいと願いながら、手が止まっている人がいるかもしれません。漫画や小説にも言えることですが、枯れてしまうまでとにかく書くこと。書き続けて、ある時点で満足すれば、あるいは別の道を見出すこともあるかもしれません。
 それでも、枯れたと思いながら、渇望があり、どうしてもまた書きたくなる。そういう人は書き続けなくてはなりません。そこにきっと道が見出されます。
 わたしミトシャもそういう事例に含まれるように頑張ります!

 このブースの最後に、『上野リチ愛用マント』が飾られています。いいものを着ているなあ、と感じたのです。それで、その雰囲気が感じられる写真を図録から切り出して掲載しました。

 進む道を断念するにあたって、経済的なことは大きな引き金になると思っています。誰しもが、創造的な活動ができるような社会にならなければいけないと考えます。自己責任は、まず社会が安寧な生活を担保してくるところから発生するものだと思います。そういう意識変容を促す物語を書けたらなあ、とわたしは日々考えています。

第I章:ウィーン時代ーファンタジーの誕生

I–1 ウィーン工芸学校での教育

 ウィーン工芸学校の作品、チラシのひとつひとつまで、かっこよかったです。ある種の堅さはあるけれど、手を抜いているところを感じない。もちろん、そういう作品が残っていると考えれば当然なんだけれど、創作する人は、そういう残るものを指向して制作してもらいたいと思います。ノリや衝動も、ある種のインパクトを与えると思うけれども、それは、オリジナルのものではなく、脚注に過ぎません。文脈のひとつとして数えられるのは問題ないと思うけれども、そこから飛躍することが必要だと感じます。

 上野リチ展を通して考えていたことは、芸術やデザインを志す人のこと。展示作品のひとつひとつから、本当にたくさんのことを汲み取ることができます。

I–2 ウィーン工房での仕事

 ここから、本格的にリチの作品に触れることができるようになります。食器や花器への絵付の図案がかわいらしく、この時点で完成されているなあ、と感じました。その絵の佇まいが、手のひらで優しく包んでずっと眺めていたい、と夢想するような、そんな手触りを感じるのです。
 ファッション部門も素敵でした。テキスタイルのデザインもかわいらしい。

ウィーン工房テキスタイル・デザイン:農作物
上野リチ展図録 p.86より

 いくつかバリエーションが存在しますが、箔を捺された作品は、ぜひ角度を変えて鑑賞することをおすすめします。雰囲気ががらっと変わって見えますよ。

 そして、わたしがこの展覧会の中で、いちばん好みだった作品がこのブースにありました。でも、リチの作品ではなくて、妹のキティ・リックスの作品でした。

キティ・リックス『花瓶』
上野リチ展図録 p.104より

 写真からだと、なかなか伝わりにくいのですが、振り向いてるこの馬かな〜、ロバかな〜、とにかくこの生き物がすこぶる愛らしいのです!
 すごくかわいかった! キティの作品もいくつか並んでいるのですが、いつかキティ・リックス展も観てみたいと思わされました。ぜひ会場でその造形を楽しんでください。

第II章:日本との出会いー新たな人生、新たなファンタジー

II– 1 ウィーンと日本 ー 伊三郎との出会い

ウィーン工房テキスタイル:日本の国
上野リチ展図録 p.116より

 出会いは不思議。惹かれること。やがて、その生活圏まで変わってしまうこと。それによって、ふたりの人生だけではなく、後進の人たちにまで影響を与えること。
 リチは上野伊三郎と出会い、結婚して来日します。日本の文化の一端は、すでにウィーン工房で享受していて、リチの作品が来日によって大きく変化したとは、感じませんでした。リチは一貫してリチだったように思います。リチ来日の影響は、むしろその後、リチが「教育」に携わることで開花します。その点については後ほど触れます。

II–2 ウィーンと京都 ―国境を越えるデザイン

イースター用ボンボン容れのデザイン(1)
上野リチ展図録 p.142-143より

 わたしが展示を訪れたのは、復活祭礼拝のあと、イースター当日のことでした。
 上に掲げた作品はイースターにまつわるデザイン。時期的に日本で制作したのでしょうか? イースターボンボンて、お菓子だよね。気になるわあ〜。とってもキュートなデザイン。当時の日本で流通したのかなあ。それともウィーンの方の仕事なのかな。
 わたし、今年のイースターカードを作らなかったのだけれど、やっぱり、出せばよかったなあ。来年は出せるように心に留めておこう。復活祭、とっても大事なことだから、素敵にデザインして届けよう。

上野リチ・リックス [花鳥図屏風]
上野リチ展図録 p.149より

 そして、この屏風がすごく素敵だった。これは確かに京都に住むことになったから生まれた作品といえるでしょう。空を飛ぶのは鷺でしょうか。すごくかっこいい。じっくり眺めて欲しい作品だし、この屏風を飾りたいとも思いました。インテリアとしての屏風、ありだなあ、と思いました。パーテーションとして、とても素敵だと思います。

第III章:京都時代ーファンタジーの再生

III–1 戦時中のファンタジー

上野リチ・リックス プリント・デザイン[鳩]
上野リチ展図録 p.170より

1930年にウィーン工房を退職したリチは、1935年に京都市染織試験場の技術嘱託として採用され図案部に配属される。翌年からは群馬県工芸所の仕事と掛けもちしながらも1944年まで、おもに日本占領下の外地へと輸出されるプリント布地や刺繍製品などのデザインを手がけた。これら朗らかで色彩豊かなデザインが、第二次世界大戦下で外国人として日本に暮らすリチによって生み出されたことに驚かされる。

上野リチ展図録 p.169より

 上記のように図録の解説にありますが、本当に戦時下とは思えない作品がたくさんありました。環境によって作風がぶれていないのです。周囲の環境にも時代の環境にも流されない、それは上野リチの特質だと思います。そうできることが必ずよい、とは思いません。それでも、そうした一貫性を持つことは、作家にとってとても大事なことです。
 上野リチは作風も変わりませんが、作家になるのであれば、作風が変わっても生涯を渡って通底するものがあることは必要だと考えます。

 これらの図案がどのように用いられたか、どのような人の手に渡ったかは分かりません。それでも、その製品を手にした時に飛び出てくる感情は、きっと誤魔化すことができないと思います。かわいい! その感情が飛び出るならば、そのデザインは成功しているでしょう。エクスキューズなしで感じるもの、エモーショナルなデザインは、作家の一貫性の中に宿るのかもしれません。

III–2 戦後の新たな展開

上野リチ・リックス 七宝飾箱:馬のサーカスI
上野リチ展図録 p.200より

  七宝装飾の作品は、どれも素敵でした。細かい図案が、装飾の質感を高めているような気がします。実物を見ると、どれかひとつは手元に置きたいと感じると思います。マッチ箱カバーも素敵でした。

上野リチ・リックス マッチ箱カバー[淑女I][淑女II]
上野リチ展図録 p.209より

 室内装飾のデザインもよかった。今の時代でも喜ばれるのじゃないかと思います。シンプルではなく、けれどただ華美なわけではない。ライブペインティング作品ではなく、計算されたデザインとしての室内絵画装飾というのは、たくさん考えられ、実現されていったらいいな、と思います。

エピローグ:受け継がれ愛されるファンタジー

 駆け足で上野リチ展のレビューをお送りしてきました。図録からいくつか作品を紹介しましたが、ぜひ実物をご覧になってもらいたいと思います。きっとよい影響をたくさん受けることができるでしょう。

 冒頭でもそのことをお伝えしました。しかし、上野リチ自身の考えは少し違うようです。デザイン教育の場では、このような理念があったそうです。

上野リチは、デザインについて「「独創」でなければならない、他人の模倣、焼き直しは絶対にやってはならない。従って個性を判然としなければならない」と考えていたという。

上野リチ展図録 p.37より

 会場でわたしが考えていたのは、デザイナーやそれを目指す学生みんな、上野リチに影響を受けちゃえ、というものでした。そのくらいとっても素敵なデザインです。でもそれは、リチ自身の考えとは真逆です。

 そこで、わたしも考えました。確かに模倣にとどまったままで作家を名乗る人はたくさんいる。そこから抜け出せない人は、やっぱりちょっと魅力に欠けてしまう。フォロワーのままじゃん、と思う。
 その一方で、やっぱり最初は模倣から始まるよね、とも思うのです。そこから独自の作家性を育むには、模倣から脱却しなくてはならない。それができるかどうか、が大事なような気がします。リチ自身、確かに作品の質にブレは見られなかったけれど、きっと影響を受けたものはあるだろうし、何より自然界から多大な影響を受けている作品がたくさんある。

 わたしは、この作品展を、やっぱり多くの人、特にデザインを志す人に見てもらいたいと思っています。そして、上野リチの作品を観た上で、自分の作品を眺めながら、リチの言葉に立ち返ってもらえたらと思うのです。

「独創」でなければならない、他人の模倣、焼き直しは絶対にやってはならない。

 わたしも創作するにあたって、この言葉を考えながら、作品に向き合っていきたいと思います。

おわりに

 今回の展示も創作について深く考えさせられるものになりました。それはアートの分野においても、プロダクトの分野においても。

上野リチ・リックス ガラスコップ[花と実][果実]
上野リチ展図録 p.261より

 普段から、こういう作品に触れておくことが大事なのかもなあ、とも思いました。
 それができるくらいの豊かさを日本は、もう一度獲得しなくてはならないでしょう。それは、他国と比べることではありません。世界が豊かになり、周囲のことを考える余裕を手に入れることが必要です。富と政治のことにも思いを馳せます。

 わたしは、ちょっと難しいことを考える癖がありますが、そういうことを気にせずに、とにかくかわいい目指して、この展示を観ることもとっても楽しいと思います。おすすめします!

 上野リチ展は、5/15まで開催中です。ぜひ足を運んでくださいね!

上野リチ:ウィーンからきたデザイン・ファンタジー|三菱一号館美術館

 ではでは、また次の機会に! ミトシャでした。

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