【映画記録】窮鼠はチーズの夢を見る
映画化されると聞いた時は、とても驚いた。キャストと監督見てその驚きは増したし、どこまで映像化するんだろう、と思った。(主にベットシーンに対して。原作ではがっつりベットシーンがあるので)
で、結局がっつり映像化されていた。
なので、主演2人のガチファンとかで、ベットシーンとか絶対無理、見たくない、という人にはお勧めしません。美化されていなくて肌色多めで生々しいです。途中、何見てんだ私・・となった。あと、BL苦手な人、受け入れられない、って人も見ない方が良い。
私は多分、自分が応援している相手だったら、見られないかもしれない。色々と考えてしまいそうで。(こうやって彼女としているんだろうな、とかとかとか・・・)
とは言うけども、作品/物語としては面白い作品だったので、どうしても無理!って人以外は見てほしいな、と思う作品です。この先に書くけど、「これがもし異性同士の話だったら」と思いながら見てほしいし、色々考えた方が良いな、という作品。そして、成田凌君がめちゃくちゃ良かったので、そこをぜひ見てほしい、という作品。
では、ここからネタバレ含む感想です。見たくない人は引き返してください。
あらすじはこちらからのぞいてください。
https://www.youtube.com/watch?v=vGQRUcQzAlQ
映画は欲まみれなラブストーリーだった
この作品を「純愛だ」っていうコメントを見るのだけど、あんな欲望まみれなのに「純」とつけてしまうのが相応しくない気がしたし、ただのクズ男が偶々ゲイに好かれしまって流された結果、ドッロドロのぐっちゃぐちゃになってしまったラブストーリーだったなと思った。「純愛作品」とカテゴライズするなら、原作の方に対して言うべきだと思う。少なくとも映画は、登場人物の欲望が画面いっぱいに満ちている作品だった。
そして、その欲まみれ感が悪かったのか、というとそうでは無くて、とてもとても良かった。そもそも私は恋とか愛って、承認欲求とか何かしらの「欲望」が出てこないと発生しないだろ、と思っている人間なので、ちゃんと欲望むき出しに無我夢中で恋愛している様がとても良かった。特に成田君演じる今ヶ瀬が。綺麗事なんか通用しない感じ、ただ欲望のままに動いてしまう感じ、どんなに取り繕っても人を好きになってしまったら人間なんて自己中心的な生き物になっちゃうんだよな、って思った。最初はめちゃくちゃクールに登場したのに、どんどんトゲとか陰とかが消えて丸く弱々しくなっていくのが、ほんとすごいなって思った。俳優さんってすごい。
あと「異性同士のラブストーリーと変わらなかった」と言っているコメントも見かけたけど、そんなこと決してなくて、異性同士だと気にしなくて済む事がたくさん入っているし、それをネタ、というか話のメインテーマにしている感があり、やはりそこを中心的に取り上げた方が商業作品としては面白い、というのはわかるけど、本当の同性愛者が見たらどう思うのかな、とは思った。
女性キャラがね、バカにする、というか、下に見ている感じがどうしてもぬぐえなくて、演出なのか演技なのか脚本なのか、とにかく故意的に「BLは切ない話であるべき」「弱者の話であるべき」「尊いものであるべき」という感じが見え隠れしていて、これはどうなんだろう、、と思っていた。
女性キャラがそういう風に使われるのは別に珍しい事ではないのだけど、特に夏生は原作では良い友人なのに、勿体ないな、と思った。
一方で、彼女の目つきが本当良くて、「やっぱりさとうさん(ほないこか)は、人を見下す様な目線がめちゃくちゃ美人だな」と思った。どう考えても、今ヶ瀬より私(夏生)の方が良いでしょ!?っていうのが目から伝わるのも良かった。ただ引っ掛かったのが、本当は単純に対等に今ヶ瀬をライバルとして認識しての演技だったのかもしれないけど、私には読み取る事が出来なくて、「同性愛者にわざわざやるなんて馬鹿げてる」って感じがしたのがなんか酷いな、って思ってしまった。でも2回目見たら解釈違いが起きそうな点でもある。
女性はトータル4人(+岡田さんの母親)出てくるけど、岡田さんが一番かわいそうだった。けど、一番中身が無さそうだな、とも思った。大伴と岡田さんは空っぽ同士で、他にも理由はあるけど、お互いがお互いを満たせないから別れるしかなかった、という感想。岡田さんはきっと、誰も染めなくて相手が染めてくれるのを待つタイプなんだけど、大伴は誰も染めなくて誰からも染まらないタイプ。今ヶ瀬も大伴色に染まっていたわけではなくて、染まりたがっていた感じがした。大伴が残した飲みかけのジュースとか、今ヶ瀬は飲むんだけど、岡田さんは飲まないんだよね。執着の差、というよりも、自分をどうやって相手のモノにするかの差、という感じがする。岡田さん、あざとかったし、一番大伴の理想には近い気もしたんだけど、大伴の好みが『コトコト煮込み料理をしそうな子』に対して、岡田さんは煮込み料理を作れないのが、すごく印象的だった。
もし大伴を岡田さんでも今ヶ瀬でも自分色に染める事が出来たら、離れなくて済んだのかもしれないな。カーテン、結局変わらなかったのが残念だ。
空気と目線の演技が素晴らしかった
勝手に行定監督作品は、「行間や空気で感情を伝えるのが特徴的」と思っているのだけど、原作ではもっと丁寧に書かれている大伴の感情の移ろいが、映画では想像するしかできなくて(多分尺の関係もある)、言動だけ追うとただ欲望のままふらふら流される男にしか見えなかった。異性愛者が同性を心から受け入れるって、そんな簡単じゃない気がするんだけど、そこの移ろいは想像だけで補完するから、ここも見る人によって解釈が異なるんだろうな、と思った。なのでこの作品は本当にたくさん解釈違いが起きそう。なので映画として、物語としては、本当良い作品なのかもしれない。色んな感じ方をさせてくれるから。
その想像を補完するために使われてた、目線の演技(演出)がめちゃくちゃ良くて、こんなに目線で感情ってわかるのか、ととても面白かった。
夏生は終始ギラギラしていて、さっきも書いたけど「こんな男より私の方が良い女だし、どう考えても私を選んだ方が得だよ!?」っていうのが目から伝わった。
岡田さんは終始おびえている、というか空気を読んでいる。これが「あざといな~」という感想に繋がるのか、という感想。色々と観察していて、とても誰よりも鼻が利いて、自分の立ち振る舞いをその場で最善の方向にもっていく様にしていて、岡田さんが主張して自分本位に思いをぶつけた時って、結局振られる時だけだったんじゃないか、って思った。
大伴は基本、無。何もない。面倒だな、やりたくないな、逃げたいな、という時だけ目が変わる(というか死ぬ)という印象。常に受け身の人ってこういう人なのか、と思った。ある意味すごい。口が笑ってても目が死んでることが多かった印象。
今ヶ瀬が一番良かった。最初は少し達観した表情で登場してくるのに、どんどん形が崩れていくし、可愛くなっていくし、喜怒哀楽を隠せなくなっていく。いつも不安そうに大伴を見つめる目とか、泣きたくても泣いちゃだめだとわかって堪える目とか、すごくすごく良かった。成田凌君、すごい。セリフ言っていないのに「あ、今こう思っているんだな」と言うのが伝わるのがすごい。彼が大伴役をやる可能性もあったと知って、彼が演じる大伴も見たかったな、と思った。彼が一番あざとかった。
演出面でも「うわ、すごい」と思う点、たくさんあったのだけど、1つはビール。夏生VS今ヶ瀬のシーンで、大伴が選ぶビールが今ヶ瀬と一緒だったのを見て、結局大伴は今ヶ瀬を選んでいるんだよ、というのが伝わってきて(そのあとのセリフがどうであろうとも)、早くちゃんとくっついて幸せになってほしいな、と思った。行動と言葉が一致していない時点で、大伴が迷っていて、分かれ道の前で足踏みしている状態なんだな、とは思ったけど、同じビールを選んでくれた時の今ヶ瀬、めちゃくちゃ嬉しそうだったから可哀そうだな、と思った。ほんと、大伴は誰も幸せにしない。
2つめは、元妻がシャワー中に大伴が浴室のドアを開けるところ。大伴は気が付いていなかったけど、元妻はその時、とっさにしゃがみ込んで身体を隠すんだよね。「当然じゃない?」って思うかもしれないけど、私はあのシーンで「あ、もう大伴の事は好きではないんだな。別の男がいそうだな。」と思った。そのあとに「俺も風呂入ろうかな」に対して「じゃあすぐに出るね」という返しだったのもそう。元妻にとって大伴は、裸を見られたくない異性であり、一緒にお風呂に入る事もできない異性なんだな、という感じ。なんとなく、思った。
あとは、掃除機とか水道を止めるシーンだとか、椅子に岡田さんが座った時だとか、色々あるのだけど、そういう1つ1つの行動に登場人物の本音が隠されているのがすごく印象的だった。ぜひ見てほしい理由の一つ。文章じゃ伝えきれない。
大伴は『ハーメルン』だったのかもしれない
夏生は大伴を『ハーメルンのねずみ』と言っていたけど、本当はハーメルンの方だったんじゃないかな、と思った。流されまくっているダメ男に見えるかもしれないけど、そうじゃなくて、周りをダメにしてしまう人、と言う感じ。
元妻とはお金でしか繋がれなくて、それが嫌で元妻は世間的には許されない事をするし、大伴の不倫相手は結局家庭を壊している。夏生は同性愛に走る事を『ドブ』とか言っちゃうぐらい性格歪んできていたし、今ヶ瀬は言わずもがな、という。
大伴がクズなのはもちろんだし、誰にでもついていっちゃう様に見えるけど、実は逆で、大伴に皆が吸い寄せられて、このままじゃダメだと気が付いて離れたり、大伴に切られたりしているんじゃないのかな、と思った。結局大伴が執着を見せたのは今ヶ瀬に対してだけで、ねずみの様に後ろから着いていく恋愛をする様な人ではなかった。あの部屋が示すように、無機質で、色が無い大伴に吸い寄せられて、皆どんどん自分の色を抜かれてしまったんじゃないかな。
長くなってしまった…。まとめます。
この話は、「人が人を心の底から好きになって、何もかも許せてしまって、自分が自分じゃなくなってしまい、周りを巻き込んでダメにしてしまって、それなのに何も償いもしない話」という異性間の恋愛だったら胸糞悪い話、同性間の恋愛だったから美談になった話、と思っている。
だから、1つの作品としては良かったと思うけど、私は映画単体で考えるなら「面白かったけど美談として終わらせるにはあまりにも身勝手な話だった」という感想。面白かった、これは間違いない。本当に演出も演技も良かった。けど、原作の方がしっかりハッピーエンドで、周りを巻き込んだなりのけじめをちゃんとつけるし、登場人物の誰もが最後に不幸感がなくてすごく良かった。原作の方が「同性とか異性とか関係ない」が、ちゃんと伝わってくる。原作ありきの作品だから、どうしても原作と比べてしまう。
これがもし、原作が無かったら、映画単体として良かったな、で感想は終わっていたと思う。余韻を持たせる終わり方、その後二人はどうなったのかを視聴者に委ねる感じ、「あ~、邦画って感じ。」って思ったし、先にも述べたけど、演者も演出も良くて、映画としてすごく満足度が高かった。だから面白かった、という感想は変わらない。
だけど、きっとこれ、私が異性愛者だからだ、と言うのがぬぐえなくて、ずっともやもやしている。この記事ももうすぐ終わりなのに、うまくまとまらないのはそのせいかもしれない。うまい落としどころが見つかっていない感じがしている。異性愛者にとって結局同性恋愛の話は、話のネタでしかなくて、リアリティが無くて、ファンタジー感が強くて、対岸の火事みたいで、だから楽しめるのかもしれない、っていうのがぬぐえない。さっきも書いたけど、これが異性愛同士の話だったら、どの登場人物にも共感しきれなくて、胸糞悪い話だな、で終わりそう。切ない、苦しい、恋愛って尊い、なんて微塵も思わなそう。大伴のクズさに飽きれ、今ヶ瀬のメンヘラっぷりに辟易して、夏生のビッチ感に肩入れできず、岡田さんのうじうじ加減にまた辟易しそうだもの。途中で飽きて、「お腹いっぱい。1人ぐらいまともな人出てきてよ」って思いそう。
でもそうならなくて、「切なかったな。苦しかったな。面白かったな。今ヶ瀬と大伴、幸せになってほしいな。」と思ったのは、同性恋愛の話だからだ。そこに無意識の性差別のフィルターがかかっているんじゃないかな、って思う。
だからいつかこれが「胸糞悪い話だったな」って思える様になれたら良いな、と本当に思うし、そうなったらもう一回観たいな、とは思えるぐらい、本当に良い作品だった。
あと、この作品に出ていた俳優さん、特に成田凌君と大倉君に仕事が増えてたら良いな、って思う。彼らの次の作品を見てみたい。
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