「平穏死」看取りは介護の仕事
特別養護老人ホームでの、自然なお看取りは、実はあまり知られていません。わが施設ではお看取りのことを「結いけあ」と言い、高齢者の「平穏死」を自然な事だと受け止め、日々ケアに当たっています。
実は医療従事者もあまり経験の無い「平穏死」
私たちは、そのお手本になりたいと考えています。
平穏死の経過①
食事を欲しがらなくなります。
その状態に委ねます・・・
放っておくのではありません。普通の食事が欲しくないのなら、何だったら食べられるのか、どんなものなら食べたいか、そんな気持ちになる匂いはどんな匂いか?みんなで考え用意します。一口二口食べられて「おいしい」と笑顔になってもらえたら嬉しい瞬間です。
水分も欲しがらなくなります。
その状態に委ねます・・・
意外と炭酸飲料を欲しがる方が多いです。サイダー、コーラ、ビールもありです。
欲しいものを、欲しい時に、欲しい分だけ・・・が基本となります。
この状態の時に、無理に食事介助をすると、誤嚥性肺炎を起こします。
点滴をすると、痰の量が増えたり、身体にむくみが出てきます。
゛大切なのは、無理の無い生活を、整えて維持する事。“
平穏死の経過②
眠っている時間がとても長くなります。
その時は無理に起こしません。
時間や場所や、家族の事もわからないなど、ぼーっとした状態になることもあります。目が覚めた時には、優しく声をかけて安心してもらいます。
人によっては、身体がだるくなったり、身の置き所が亡くなり、手足を動かして落ち着きが無くなる事があります。
一見苦しそうに見えるその状態は、人によって違いがあります。
亡くなりゆく過程は、実は、産まれ来る過程の逆と言われています。
安産と難産があるように、亡くなりゆく過程でも、すんなり亡くなる方とそうでない方も居ます。
それも必ず落ち着きます。
平穏死の経過③
声をかけても、目を開けなくなります。
血圧は下がり、脈も触れにくくなります。
排泄のコントロールは出来なくなります。
手足が冷たくなり、冷や汗でじっとりとしたり、手足の先が紫色に変色(チアノーゼ)します。
呼吸の調子が変わります。
リズムが変わったり、あごや肩を動かして呼吸をします。
呼吸と呼吸の間に30秒ほどの無呼吸があります。
一見苦しそうに見えるこの呼吸は、本人は苦しくないということが科学的にも証明されているようです。βエンドルフィンという脳内麻薬様物質の血中濃度が上昇しているためです。
死ぬ間際に苦しみはありません。
家族にしかできないこと
1・思い出を語ること
2・感謝の気持ちを伝えること
3・残される家族の、これからの生き方や夢を語ること
施設に入居された方の、日ごろのお世話は、スタッフに任せて下さい。
ご家族には、良い思い出作りをしていただきたいと思っています。ご家族が旅立つ本人にして差し上げたいことを、してほしいと思います。
無理の無い程度で・・・
ご家族だけでは難しい場合には、もちろん職員が協力します。
例えば、一度自宅に連れて帰りたい・・・
一緒に家族写真を撮っておきたい・・・など。
平穏死の経過④
全く反応が無くなります
呼吸が完全に止まり、あごや肩、胸の動きが無くなります。
1分以上呼吸が無ければ、止まっていると考えます。
心臓の動きが止まり、脈が触れなくなります。
看護師は、呼吸停止、心臓停止、瞳孔の散大を確認します。
でも、身体はまだまだ温かい状態です・・・
平穏死の経過を知ることで、怖がらず、家族もスタッフもきちんと寄り添える
何をしても、何もしなくても、その時が来れば、高齢者の方は亡くなります。その時期だからです。
しかし、その経過を正しく知り、正しく寄り添えば、私たちはたくさんの事を学び、感謝の気持ちで胸いっぱいになるお看取り「結いけあ」となります。
持ち続けたい「明るい死生観」
この世を長年生き抜いて、人生の次のステージに向かう高齢者・・・
「みんな、きっと素敵な所に行くのだろう」
「先に亡くなった、ご主人(奥さん)にやっと会えるかな」
「お友達や、兄弟にも会えるのかも」
私たちは、高齢者の「死」を肯定的に捉え、明るい死生観を持ち続けたいと思います。
マルティン・ルターは言っています。
「死」は人生の終末ではない。生涯の完成である。と・・・
高齢者が自然な形で、人生を全うできる社会になる事を願い、今日も私たちは、施設と言う高齢者の生活の場で、お一人お一人の人生の総仕上げのお手伝いを頑張っていきたいと思います。