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「平穏死」叶わなかったYさん

たくさんの高齢者の方を、自然な形でお見送りしていると「平穏死」はやはり素敵だな・・・と思います。
しかし、それが叶わなかった方も居ます。
今回はYさんの事を振り返りたいと思います。


Y さんの事

Yさんは94歳の男性でした。
心臓に疾患を抱え、いつ急変しても、急死してもおかしくない状態でした。
緑内障の悪化で、目が見えず生活の全てに介助を要しました。
認知症もあり、昼夜逆転、妄想もありました。
ナースコールを常に握って、不安になるとスタッフを呼んでいました。
いつも「ありがとう」「ありがとう」と感謝され、よく戦争に行っていた時の辛い話もして下さっていました。

一過性脳虚血発作

施設に入居されている高齢者の方は、時々一過性の脳虚血発作を起こします。食事の後、入浴の後、排便の後・・・意識を無くします。
すぐにベッドに横になってもらい、足を上げて声をかけると、たちまち回復されるのですが・・・
Yさんもある日、トイレで一過性の脳虚血発作を起こし意識不明となりました、すぐに戻りはしましたが、今一つしっかりせず、緊急搬送することになりました。
病院では検査をして、点滴をしてもらう間に、意識もしっかり戻り、施設に戻りました。

元気な時に、自分の意思を伝えておこう

家族との会話

高齢者のこういった急変の時は、今後の生活について話をするチャンスです。Yさんには五人のお子さんが居ましたが、それぞれに思いが全く違いました。

お二人は
「お父さんも長生きしたし、最期まで自然に過ごしてほしいよね」
他の三人のお子さんは
「急なことが起こったら、病院に行くのが当然でしょ」
「最期は病院で治療してもらうのが当たり前でしょう」

医師との面談で
「お父さんは、心房細動という病気があるので、夜間見回りに行ったら息を引き取っていた・・・と言うこともあり得ます。その場合も緊急搬送を希望されますか?」と聞かれたご家族は・・・

「それなら、そのままゆっくり旅立たせてあげたい」というお子さんと
「どういう状況でも、すぐに病院に運んで下さい」というお子さん。

Yさんは、スラっと背の高い紳士でした

サービス担当者会議

子どもさん五人集まってもらい、ケアマネ、生活相談員、介護職員、看護師と話をします。
福祉と医療の架け橋役、コーディネート役は看護師の仕事です。

自分だったらどうしてほしいのか?
Yさんは、どのように望むのか?
認知症の無い状態なら、どう言ったと思うか?

いろんなボールを投げてはみるのですが、同じ返事しか返ってきません。
いよいよ、根負けした二人が、急変時の対応は病院へ・・・

Yさんは、急変があればすぐに病院に行くことに決まりました。

Yさんの その後

自然な形で、認知症が進み、体力も落ち、お看取りに近づきつつあったYさんでしたが、ご家族の思い通り、軽い肺炎をきっかけに入院し、入院先では不穏で大きな声を出してしまうYさんは、精神科の病院に転院し、そこで亡くなったとの事でした。

お子さんの決断を、甘んじて受け入れるしかなかったYさんでした。
残念ながら、きっとそこに「平穏死」はありません。

改めて、高齢者が自然に「平穏死」を迎えることは、まだまだハードルが高いなぁ・・・と感じたケースでした。

平穏死とは

「高齢者の自然な生命の営みに任せ、
その進行が邪魔されることなく達する死」

一部の日本人の「過度な医療依存心」がそれを邪魔してしまっていることを知ってほしいと思います。

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