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【2期生振り返り④】試行錯誤を繰り返し、誰もが研究に触れられる世界を実現する
MiTOHOKU Program2期採択クリエータの 最年少である、大学1年生の上野能登さん。本格的な開発経験ははじめてで、試行錯誤を重ねながらプロジェクトを推進してきました。MiTOHOKU Program期間中、困難にも直面し、当初のテーマとは異なるプロダクトの開発を決めた上野さん。なぜテーマを変更し、MiTOHOKU Programでどんなことを得たのか、お話を伺いました。
プロフィール 上野能登さん 山形大学工学部1年
「教育格差」を解消するため安価な実験器具を開発
上野さんが通っていた高校はSSH(スーパーサイエンスハイスクール)であり、学校内にあった実験器具を使いながら様々な研究活動をしていました。一方、他校の生徒と交流する中で、予算がなく実験器具を買うことができない学校もあることを知りました。この格差を課題に感じた上野さんは、もっと安価な実験器具を製作し、高校などの学校現場に広げていきたいと考えるようになりました。
「サーマルサイクラー」というDNAを増幅する実験器具を知った上野さんはより安価なサーマルサイクラーの実現を目指し、プログラムに参加しました。
しかし、開発を進めてみると、「サーマルサイクラー」はできる実験が限定されていて、ビジネス面から考えたときに、プロダクトが広がらないという課題に直面しました。そこで、より汎用的で様々な実験に活用できる「ミリ流体技術」を活用した実験器具の開発に変更する決断をしました。
上野さんは、プログラムで支給される開発費を使い、プロトタイプ(試作品)を開発。最初に開発したものは、水が直線的にしか流れないもので、できる実験も限られました。また、「レーザーカッター」で部品を作ってみたものの、加工面が粗くなりうまく水が流れないという課題にも直面しました。上野さんは曲線などより複雑な流路に液体を流せるように3Dプリンターを活用。穴を開けるのではなく、部品を組み合わせてスムーズに流体を流せるプロトタイプを開発しました。
また、開発をしていると思わぬニーズがあることもわかりました。液体系の研究を専門にしている大学の教員に相談すると、教員自身も「流路デバイスの製作を学内に頼んだら長い時間がかかったので、ぜひ学内の実験でも使ってみたい」という声があり、教育分野だけではなく、研究開発分野でもニーズがありそうだという仮説も立てることができました。
上野さんは、開発の過程や成果について、岩手県で開催された「システムインテグレーション学会」でも発表を行いました。昨年度まで高校生だった上野さんにとってもこれだけ大掛かりな開発ははじめての経験。上野さんは「MiTOHOKU Programは開発の自由度が高い分、自分で目標を設定して、そして開発を進めていく必要があり、この点はとても難しかった。一方で自分自身でプロダクトを開発し、問題を解決していくことにはやりがいや達成感があった」と話します。
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上野さんがもう1つ難しさを感じたのが、文系の方々など研究者以外の方々に自分が考えたアイデアを伝える難しさでした。MiTOHOKU Programの中間発表会などで研究者以外を前にしたプレゼンテーションを経験し、プロジェクトが伝わらないもどかしさを感じた上野さんは、「相手にとってわかりやすいものにたとえること」が大事だと気づきました。
上野さんは「プログラミングを簡単に学べるScratch(スクラッチ)のようなプロジェクトを実験の分野で目指している」などわかりやすい説明を心がけ、最終発表会ではSSHの高校とそうではない高校への予算配分の差について説明。数字を使って教育格差の現状をわかりやすく説明しました。
体験を通じて、研究の面白さに気づいてもらう
上野さんは高校時代の自身の経験や、MiTOHOKU Programで実験器具を作ってみた経験を踏まえ、「体験を通じて学ぶ 『体験技術』の重要性は高い」と可能性を感じています。上野さん自身もSEGAのぷよぷよを使ったプログラミングなど、高校時代に体験を通じて研究を体感したことが、現在の「研究」への意欲を駆り立てたと語ります。今後は実験器具を作る体験を通じて、子どもたちに研究の面白さに気づいてもらうことを考えています。
上野さんは今後開発したプロダクトを高校などの教育機関で活用してもらい、実際に探究活動などに利用できないかの実証を目指しています。メインメンターである齊藤良太さんからは「子供たちの教育で使われるものにするのか、それとも研究分野で利用されるものにするのか」という問いを投げかけられました。この点は今もなかなか答えを出せていないといいますが、今後高校や教育機関での実証を進める中で検討を重ねていきたいと語ります。
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MiTOHOKU Program参加当初は、東北の面白い人たちと出会い、刺激し合える関係を構築していきたいと考えていたという上野さん。MiTOHOKU Programの同じ2期生のクリエータからも刺激を受けたそうです。学会でMiTOHOKU Programの経験についてポスター発表を行ったときには同じ2期生の田尻さんも参加しており、色々なつながりを得ることができたそうです。
「今後も未踏プログラムを含め、またこのようなプログラムがあったら、是非参加したい。将来的にはより幅広い分野への挑戦を視野に入れ、新しい課題にも取り組みながら学びと挑戦を重ねていきたい」と語る上野さんの挑戦はこれからも続きます。