目標ができた(21)
今日は二人で登録した団体の東京本部事務所で電話番をしている。母から、特にバイトはしなくていいと言われていた。母は父が戻ってくる少し前から、私が何かにものすごく衝撃を受けたことを分かっているようだった。最後の別れの日のころから、一人で泣いたり、様子がおかしい私に気づいていて、母もいたわるような接し方をしてくれていた。秀がいなくなった後、父が私たち家族の元に帰ってきた。それは、恋を突然失い呼吸もできないような苦しさの中で、小さな癒やしとなっていた。小さいころから変わらない、父の能天気さ、母のどっしり構えた鷹揚さにもまた支えられていた。
今電話を受けている事務所では、完全なボランティアだった。奈津から誘われるまで知らなかったが、ボランティア団体というのは登録費用がいる。年会費を払って、さまざまなイベントに参加する。私たちが選んだのは、アフリカ大陸にあるポルポル共和国という小さな国を主に対象とした活動を行っている団体だった。砂漠の大地の緑化と井戸の掘削が一番の柱になっている活動だった。また、ポルポル共和国は南北に分かれて民族が対立をしており、今は沈静化して治安は落ち着いているものの、南部には宙ぶらりんな立場の難民キャンプもあり、そこで暮らす人々に医薬品や救援物資を送ったりもしていた。今は、治安がいい北部の地帯で現地の人々と野菜栽培の実験をしているらしかった。まだ、現地に飛んだことはないが、夏休みを利用して、何かできることがあればしたいと思っていた。困っている人たちの役に立てれば、自分の小さな世界の中での悩みが癒えるような気がしたのだ。動機は不純だけど、頑張ってみようと思っている。夏休みが待ち遠しかった。奈津と一緒にもうポルポルへ行く約束をして、いろいろと計画を立てていた。その頃の私にはまだ、アフリカへ旅行するぐらいの気構えしかなかった。時が流れていく間で、初めて興味を持てたのが、このポルポルで活動する団体のお手伝いだった。