吉沢りさ

かなり年齢を重ねていますが、気持ちは20代の頃のまま。 それなりに成長して、感性は今の若い人とは異なっているかもしれません。 直接の会話より、文章の形を取るほうが自分の思いを的確に伝えることができるなと感じて、noteに登録してみました。

吉沢りさ

かなり年齢を重ねていますが、気持ちは20代の頃のまま。 それなりに成長して、感性は今の若い人とは異なっているかもしれません。 直接の会話より、文章の形を取るほうが自分の思いを的確に伝えることができるなと感じて、noteに登録してみました。

最近の記事

夜空でつながる(53)

秀のご両親は、記憶を失う1日前に二人が別れるという話し合いをしたことを知らず、秀が記憶がない間、こまめに秀を気遣っていた香奈子のことをやはりいい子だと思っていて、あんなに秀のことを思っている香奈子さんにどうしてそんなひどい態度をとるんだと叱られたそうだ。「これから親のことは徐々に誤解を解いていくことになるから、その間待ってもらえないか」と秀は言った。お兄さんと香奈子さんの関係も聞いたから、ご両親とお兄さんの3人を説得しなければいけないし、本当に説得できるのかなとマヤは思った。

    • 執着(52)

       お父さんも、お母さんも反対している。つらい気持ちでリビングを出て、シャワーを浴び湯船につかってから2階の自室にこもった。シャワーを浴びるとき、まだ血の付いている部分があって、泣きながら流した。部屋でじっと秀からの連絡を待っていた。10時ごろやっと電話があった。心配させてごめんということと、いろいろあの後あって、連絡ができなかったと言った。マヤは秀のけがが心配だった。右手のひらをざっくり切っていて12針ほど縫ったという。右だったので、これから不便だけど、消毒に病院に行ったりす

      • 父と母の心配(51)

         父が帰ってくる前に部屋着に着替えた。血が付いたスカートを洗ってみたら、そんなに時間がたっていないため、水で血は落ちた。コートには幸い血痕はないようだった。しかし、洗っても洗っても、手についた血がとれていない気がした。食卓を囲んでサラダとカレーを食べたが、いつものようにうきうきとした気分にはならなく、気持ちが沈んだ。秀からはまだ連絡がない。母が父にきょうの事件を話したらしく、食事が終わると父から話があった。「マヤ、前のバイト先で知り合った秀くんという青年とお付き合いしているの

        • 動揺と反対(50)

           家に着くと母がいて、「お帰り、きょうは普通のカレーよ」と言った後、振り向いて「マヤ、スカートに血が付いているけど、大丈夫なの?月のものじゃないわよね、こっち来て」と言った。マヤは母の顔を見た途端こみ上げてくる涙を止められなかった。「秀が、秀が」と言ったまま、泣き続けた。「秀くんて、バイト先で、記憶喪失になって、やめた子よね」母は覚えていた。マヤは力なく、その場に座り込んだ。「この頃毎週土曜日に出かけるから、マヤにもとうとう彼氏ができたのかしらと思ってたのよ。何があったの」と

          鈍く光る銀色の・・・(49)

           そうこうしているうちに、土曜日の秀とのデートは続き、2ヵ月があっという間に過ぎた。その日もお茶をしていつもの通り店を出た。まだ、路地裏で人通りはない、秀がハグしてきて、いい雰囲気になった時だった。そこに立ち尽くしている香奈子がいた。「今、すぐ秀から離れて」と香奈子が叫んだ。秀はとっさにマヤをかばう位置に立った。ふたりでいるところを見て、香奈子は逆上しているようだった。その手には果物ナイフのような刃物が握られていた。「危ない」とマヤが叫ぶと香奈子は自分の手首を切ろうとした。間

          鈍く光る銀色の・・・(49)

          いつもの場所へ(48)

          秀は「へえ、双子だったのか。あまりにも似てたから、話しかけそうになったよ。危ないやつと思われるところだった。あっぶねー」と笑った。「大丈夫、双子だから、間違われるのはもう慣れてるから」とマヤも笑った。「でも、マヤのところお父さんとお母さん不仲じゃなかったっけ?」それはもう大丈夫なのとマヤは笑った。「親のこと真面目に悩んでも、心配する甲斐がないくらい、今は仲いいの」「良かったな」と秀も笑った。秀は2杯目でクリームソーダを頼んだ。  楽しい時間は、あっという間に過ぎて、また、気づ

          いつもの場所へ(48)

          この前の場所(47)

          それまでは従妹なのに誕生日が一緒ってすごいねと2人で言っていた。事実を知って、多少は驚いたが、あまりにも2人がそっくりなので、ああやっぱりということにしかならなかった。ルイが養子になってから、3年後に伯母は奇跡的に妊娠して、拓也という弟ができた。諦めたときに授かった子で、ルイと同様に何一つ分け隔てることなく、2人は大切にされすくすく育った。マヤがルイのことを内緒にしていたのは、秀と大学が同じルイに知られたくないと思ったからだったが、それは内緒にした。秀がルイを気に入ると嫌だな

          この前の場所(47)

          この前の場所(46)

           秀からマヤに連絡がきたのは火曜日の夜だった。マヤは待つってこんなに永遠に感じるんだ。自分から連絡しようと思っていたところにちょうど連絡があった。先週、会ったばかりだから、連絡しないようにと我慢した。「今週末、土曜日にまた、この前の喫茶店で会えないかな?」マヤは一呼吸おいて「大丈夫行ける」と答えた。本当は電話で様子を聞きたかったけど、約束ができたというだけで浮き上がったので、短い会話で終わった。  マヤにとっても、秀にとっても長く感じる週が過ぎ、やっと土曜日が来た。喫茶店に

          この前の場所(46)

          つながらない電話(45)

          しかし、「俺は絶対に認めないからな」と優は言う。「そこまで、香奈子が大事なら兄貴が自分で守ってやればいいじゃないか。どうしてそうしないんだ」そう言って秀は部屋に戻った。  秀は、今はまだ、マヤにも香奈子にも中途半端な状態だから、きちんとけじめをつけてから、マヤにちゃんと伝えたいが、この1年の香奈子の自分への思いの大きさも知っていたから、別れを切り出すのは、気持ちが重かった。自分の気持ちははっきりマヤにあるのは実感したが、そういう思いを抱く相手ができたから、自分に向いている香奈

          つながらない電話(45)

          いさかい(44)

           「心に決めた子がいるから、香奈子とは別れるって兄貴に言ったよな。すまないって」「秀、お前が香奈子と付き合うとき、俺聞いたよな?ずっと香奈子のことを大事にするんだったら任せるよって言ったよな」と兄の優(ゆう)が言った。高校を卒業する年、優はそれまでずっと隠していた気持ちを幼馴染の香奈子に告白したのだが、香奈子の答えは、わたしは秀が好きだから優とはお付き合い出来ないというものだった。そのため、兄は気持ちを押し殺して、秀と香奈子が付き合うように立ち居振る舞った。秀自身は、幼馴染と

          いさかい(44)

          それぞれの事情(43)

           少し話しただけと思っていたのに、思いのほか時間がたっていて、もう店に入ってから3時間がたっていた。秀は、「夕飯も食べて帰る?」と誘ってくれたけど、マヤは「きょうはいっぱい話したから、家で夕食用意されているだろうし、もう帰るね」と告げた。家まで送っていくと言ってくれたが、改札までで大丈夫と断った。きょうは一遍にいろいろあったから、少し休みたいと思った。お互いの絆も取り戻せたと思ったけど。簡単にはいかない未来をその時は思いもしなかった。  その夜、秀は家についてすぐ兄の部屋に向

          それぞれの事情(43)

          向き合って(42)

           さっきまでちょっと緊張感が走ったけど、ケーキを食べてお茶を飲むと少しお互い心がほどけて明るい気分になってきた。秀と離れている間、ボランティアでポルポル共和国に行ったときのことを話した。アフリカの大地、空気、空の色、村の人たちの温かい大歓迎、農場での開墾作業はとにかく暑かったこと、今までのことは全部は時間が足りなくて話せないけど、親友の奈津の話もしていつか秀にも会わせたいなと言ってみた。「秀はどうしてたの」と聞くと、「ロードバイクは今も続けている。今度はケガしないように用心し

          向き合って(42)

          向き合って(41)

           こうして喫茶店で向かい合って、じっと見つめられると、はにかんでしまい。先に視線をそらした。その見つめ合った時間が何分にも感じた。しかし、カナコにはまだ、思い出したことを話していないとのことなので、この先のことが心配でもあった。何かすがるものが欲しくて、秀が記憶をなくした頃買った、神社のお守りと、ハンカチを取り出して一緒に握った。きょうはスカートが赤いタータンチェックで、ハンカチも同じようにタータンチェックの赤いハンカチを持ってきた、秀と会うと思うとハンカチ1つにも気を使って

          向き合って(41)

          お互いのあれから(40)

           席に就くと、秀は「きょうは来てくれてありがとう。時間大丈夫?」と聞いてきた。「わたしは時間は大丈夫」と答えた。少し、間があった。  ことしの夏、元気な姿を見せるために、家族4人で里帰りしたんだ。俺が事故ったことで、すごく心配をかけたからね。それで、琴引浜に泳ぎに行って、その時、ずっと思っていた、何か大事なことを忘れているというぼんやりした不安が消え去って、あの日のこと、マヤのこと、香奈子にはマヤに会った翌日別れを言っていたことを思い出したんだ。香奈子は俺の彼女と家族も認識し

          お互いのあれから(40)

          次へのステップ(39)

           家に帰るとお酒を飲んだ勢いで、秀にメールした。「今週末、土曜日の午後3時、たまプラーザに来られる?」すぐ返信が来て「連絡待ってた。土曜日OKです。お茶できるお店わかるから任せて、待ち合わせは駅の改札で、着いたら電話する」とあっという間に決まった。「じゃあ、また土曜日に!」ということで会うことが決まった。秀はどこまで思い出せたんだろう。きっとあの海での出来事を思い出してくれたのかなと期待が高まった。でも、カナコとはどうなったんだろう。土曜日とメールしたけど、土曜日までが長かっ

          次へのステップ(39)

          次へのステップ(38)

          いつも、この店は適度に人がいて、適度に混んでいるし、お料理もおいしくて、ゆっくりできる。ビルとビルの隙間の裏路地を通って入ってくるので、奈津がたまたまこの店を知って、連れてきてくれないと絶対に気付かないお店だった。いつも予約がないと入れなかった。きょうは日本酒をお冷やで頼んで、お料理は和食メニューを頼んだ。洋食中心にもできるけど、ここは田舎で食べるような味を板前さんが上品な料理に仕上げてくれているのがいつも来る理由だった。奈津は勉強のほか運動もできたけど、趣味がお菓子作りとい

          次へのステップ(38)