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Chapter6. 凝血現象:真の生化学的意味①
流血の凝固現象に関する真の化学的・解剖学的・生理学的意味/凝血現象/馬の血液/血清/水で希釈した血液の凝固/血液自然変質の第二段階/煆焼空間中の血液/脱線維素血液における血球の破壊に酸素が関与しない証明/生肉の自然変質/乳汁の自然変質/乳汁凝固/卵の発酵現象/酵母細胞の自然崩壊/組織の自然崩壊/血液の自然変質
血液は流体組織である。既にボルドー が血液は”流体筋肉 ”だと述べていた。これは化学的にも組織学的にも、そして生理学的にも真実とは程遠い。唯一確実なのは、血液は筋肉と同様に組織であり、あらゆる組織と同様、その解剖学元素が本来の存在条件を破綻させると両者とも自然変質する事実である。筋肉組織の場合、死後硬直は死の直後に直ちに開始する。血液の場合、凝血形成は出血直後に開始する。
凝血現象の自発性に疑問の余地はないが、この現象に関する通説は以下の通りである。ホイッピング分離後の脱線維素血液は自然凝固せず、血液独特の粘性が喪失した溶液に無傷の血球が浮遊する。
雄牛や羊の血液(馬の血液は例外とする)をガラス製か金属製の容器に移すと、周縁部から中心部方向へと均一に凝固が開始し、受皿の容器の形状に沿った単一の凝血塊が形成される。この凝血塊は一定の限界点まで徐々に収縮しつつ、その間にレモン色の血清が滲出する。この血清はその後赤変し、次第に色合いが濃厚になる。収縮した凝血塊の周縁部が容器から剥離し、滲出した血清に浮遊する。ハラーの言葉通り、凝血塊はフィブリンの線維網で形成され、その網目構造に血球が捕縛されている。
この現象の説明には、是迄の章で学んだ化学・生理学・解剖学的事実のみを総動員すればよい。組織の流動性維持に必要な条件とは、解剖学元素の特質およびその独立性の不変性、そしてその細胞(・顆粒)間液との関係性が血管内に限らず瀉血後も一定であることである。
周知の通りに血液には血球が分布し、個々に特定の毛細血管へと流入する。微小発酵体分子顆粒の分布とは、万一に血球が消失した場合に、血球が占拠していた空間全てを占拠するようなものである。即ち、血球は絶えず分子顆粒を掻き分けつつ移動するが、空いた空間を即座に分子顆粒が再占拠する。畢竟、「フィブリンは血液中に流動状態で存在する」と述べたデュマの構想を分子顆粒は実現している。ただこの”流動状態”は分子状であり、先述の通り、個々の分子顆粒はその中核に微小発酵体が接着し、個々を囲む限定的な雰囲気を形成している。このアルブミノイドの雰囲気は血液血清には完全なる不溶性である。
微小発酵体はアルブミノイド雰囲気に包膜され、微小発酵体分子顆粒として存在する。その数が血液全体や、血球のあらゆる箇所を占拠し得る迄に上ると理解するには、その存在量が膨大だと認識すれば十分である。これは以下のように証明される。フィブリン性微小発酵体、即ち血液微小発酵体は、私が観察した中でも膵臓微小発酵体に比肩して最小のものである。極小の球形であり、その直径は湿潤状態で恐らく0.0005mmに達しない。これより、1mm³体積当りの存在量が最低152億5,000万個と推算可能である。所で、1Lの羊血液から5.25gの乾燥分子顆粒が得られるが、これは同じ血液からホイッピング分離したフィブリン重量に近似する。そしてフィブリンには、乾燥状態での推算でその重量の1/193を占める乾燥微小発酵体が存在する。従って乾燥分子顆粒5.25gには5.25/193=0.0272gの乾燥微小発酵体が存在し、即ち血液1L当りの乾燥微小発酵体の重量は27mgであるが、換言すれば湿潤状態の生理的微小発酵体の重量はこれを遥かに上回ることを意味する。この数字を湿潤した生理的状態の微小発酵体重量と仮定し、1mg或いは1mm³当り150億個とすると、血液1Lには150億の27倍以上の微小発酵体が存在すると分かる。だが実際にはこの概算より遥かに少なく、それは湿潤状態の微小発酵体が80%の水分を保持可能な為である。血液中では細胞(・顆粒)間液で飽和したアルブミノイド雰囲気に包膜され、確かに保水量は減少する。だが上述の概算は正当に反映されることになる。
瀉血直後におけるアルブミノイド雰囲気の厚みを知ることは興味深いだろう。その凡その値は、血液にその2倍体積量の35-40%アルコールを混合して沈殿する、雰囲気が濃縮した球状分子顆粒の体積が血液1,000ccあたり約50cm³との結果を考慮して得られる。血球の占拠空間を差引き、血液1,000cc全体の空間を占める分子顆粒の体積は、雰囲気濃縮前では約27倍に上ると想像される。これが実際的であることはこの後証明される。こうしてアルブミノイド雰囲気は膨潤し、細胞(・顆粒)間液で飽和しており、その密度が互いを隔てる細胞(・顆粒)間液の密度と同等ではなくとも僅かに上回る程度であれば、数十億に上る分子顆粒が血液全体の空間を占拠するには十分だと理解できる。この分子顆粒の状態は血液特有の粘性や、血球がその密度上昇に伴って沈殿しないまま血液中を移動する様式、静止状態の牛や羊の血液が非常に緩慢にしか沈殿しない理由を説明するものである。では、馬の血液という例外が如何にこの考察を裏付けるかを確認しよう。
そこで、血液組織の流動性維持に不可欠な上述の条件が、出血後も尚充足されるか否かを調査せねばならない。
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