度々言っている通り、「全てのワクチンで生じる現象は免疫複合体疾患である」を伝えるに当たって、乗り越えなければならない壁が何重にも張り巡らされていることに気付いた。
第一の壁:アレルギー概念の変遷
その根本原因が、「アレルギーの歴史教育」にあると考える。
平成22年(2010)に厚生労働省で開催されたらしい「リウマチ・アレルギー相談員養成研修会」のテキスト第一章「アレルギー総論」に以下の記述がある。
この記述から分かる通り、「アレルギー」という用語は、提唱したピルケの意図とは全く異なる概念として現代に受け継がれているということである。
私の第一の主張、それは「ピルケが正しい」というものだ。つまり、「免疫反応と過敏症は全くの同一システム」であり、「両者はその反応の強弱の違いに過ぎない」というものだ。これが第一の壁となる。
第二の壁:アレルギー成立背景の隠蔽
第二の壁は、その前提にまずピルケ本人が現代でそれほど名が知られていない点である。情報も充実しておらず、ただこの言葉を提唱した人物程度にしか知られていない。
だが、少ないながらも彼のWikipediaには重要な記述が残されている。
つまり、そもそもの「アレルギー」の提唱された背景には、ピルケの「ワクチン研究」があるということだ。
このことからして、ワクチン→(現代の意味での)アレルギーの因果関係が浮かび上がってくる。第二の壁は、アレルギーの起源が知られていないことである。
第三の壁:血清病の「表向きの衰退」
ピルケが(同僚のベラ・シックと共に)実験を行ったのはジフテリア・猩紅熱の血清療法である。(2022年現在から)約120年前の研究になるが、この実験が現代の免疫学にとって非常に重要な位置づけにあることは、J.H大学眼科免疫学のA.Silverstein教授の以下の発言からも読み取れる。
その「長い臨床論文と呼ぶべきもの」である作品が、ピルケとシックが1905年に上梓した「Die Serumkrankheit(血清病)」である。
その血清病の現在の定義は以下の通りだ。
コトバンク、Wikipediaの記述をまとめると
・血清病の原因は「動物由来のタンパク質」であり、主として血清療法のみで生じる現象であること
※だから動物由来のタンパク質を使う「狂犬病」ワクチンで生じる
・従って「動物由来のタンパク質"ではない"」が、似たような反応を「血清病"様"反応」と呼び分けている
・そのメカニズムは、免疫複合体型過敏症(タイプⅢ)
ということになる。生じる症状が現在のワクチンとも酷似するにも関わらず、以上の記述から、我国で血清療法が衰退した昨今では、血清病は表向き衰退したことになってしまっている。
これが第三の壁であり、この記述が誤りであることは、今から触れる「免疫複合体」の定義と最新研究の内容からして明白である。
第四の壁:免疫複合体の定義とアレルギー分類
前述のSilverstein教授は2000年に以下の論文を投稿している。
Clemens Freiherr von Pirquet: Explaining immune complex disease in 1906
"クレメンス・フォン・ピルケ:1906年に免疫複合体疾患を説明"
Nature Immunology volume 1, pages453–455 (2000)
そのピルケが作成した図が以下である
教授が言及しているのはピルケの「血清病」であり、そのピルケが1906年時点で抗原と(中和!)抗体の複合体から生体にとって有害な成分が放出されることを指摘しており、これが現代の知見でいう補体に該当すると解説する。つまり抗原と抗体の複合体、免疫複合体がもたらす疾患を120年前の時点で指摘していたというのだ。論文の題と上述の引用から、少なくとも教授の認識が血清病=免疫複合体疾患 だと伺える。
一方、現在のアレルギーの定義は、厚生労働省によると以下の表にまとめられる。
この図を見ると、免疫複合体が関与するのは「アレルギー」の中の極一部の3型のみに分類され、1,2,4型にはまるで無関係であるかのように読み取れる。
しかし、ピルケの提唱した「血清病」の症状は、厚労省の先の資料にもある通りKoch現象、アナフィラキシー現象、Arthus現象を総括した病態であり、更に教授曰く、ピルケはそこに花粉症(Hay fever)、気管支喘息、遅延型過敏症、果ては自己免疫疾患も報告している。
従って、ピルケの報告した「血清病」は、現在のアレルギー分類の1,2,3,4型に跨った広範な概念であることが言える。これは、「免疫複合体」の定義が、単純に「抗原と抗体の複合体」であることからして、結合した抗体の種類は定義に含まれないことからして明白である。つまり、IgE, IgM, IgD, IgA, IgGと5種類のクラスの抗体の何れが結合した複合体であろうと、それは定義上免疫複合体である。従って血清病とは、「抗原抗体反応がもたらす疾患」を総括した病名であり、故に血清病=免疫複合体疾患であるといえる。
これが私だけの独断ではない証拠として、梁瀬(1980)を引用する。
まとめると
・抗体の種類に関係なく、抗原との結合物は広く「免疫複合体」
・その免疫複合体が引き金となる疾患を総称して「免疫複合体疾患」
・免疫複合体疾患は局所性か全身性かのみで区別される。
ことになる。
第四の壁は、現在の免疫複合体の位置づけが、アレルギー分類上極一部に絞られたものとなっていることだ。このことが、抗原と抗体それぞれを別個に捉えることに繋がる弊害となっており、疾患概念を狂わせる決定的な壁となっている。
第五の壁:血清療法-ワクチンの見かけ上の壁
第五の壁は、血清療法とワクチンが別々に考えられていることである。これは、現代の血清病の定義が「動物由来のタンパク質」に限定されていることから、「血清療法のみで生じる」疾患だと容易に誤読されることになる。
しかしピルケは、血清病の広範な病態をワクチンに応用して「アレルギー」を提唱したことから、ピルケ本人はこの二つを全く区別していなかったことが伺える。
つまり、先に抗体の種類について触れたが、ここでは抗原の種類が問題になる。厚労省の資料でも各アレルギー分類が抗原の種類によっても分類されていた。
しかし、この二つが全く区別されない証拠として、1972年Dixonの指摘を引用する。
血清病に類似する症状が「血清病"様"反応」と区別されているとも前述したが、Dixon、梁瀬の指摘をまとめると
・投与された抗原の種類は関係ない、「解剖学的」「生理学的」な疾患
・この疾患のメカニズムは、貪食を逃れた複合体が組織に沈着することによる炎症反応
となる。従って
(現代の定義の)アレルギー=血清病=血清病様反応=免疫複合体疾患
という図式が完成し、単純に命名による混同が生じていることになり、つまりここに血清療法や抗生物質やワクチンなど手段の差異は吸収され、従ってこれら全て「抗原抗体反応誘発性の疾患」であるといえる。
以上をまとめると
・アレルギーとは元々ワクチン研究から生まれた用語であった
・アレルギーとは、免疫反応と過敏症を総括した概念であった
・血清病は血清療法のみの疾患とされているが、実際は「抗原抗体反応によって起こる広範な疾患概念」を指したものである。
現代人への警鐘として、ピルケの以下の言葉を以て〆とする。