アスピリンとサリチル酸塩

Aspirin and Salicylates. (1968). Clinical Toxicology, 1(4), 379–380. https://doi.org/10.3109/15563656808990588

フィブリンについて探究していたら偶然発見してしまった、殺人的アスピリン論文。アスピリンの有害性にも着目しつつ、「サリチル酸ナトリウム」の部分をチメロサール(エチル水銀チオサリチル酸ナトリウム塩)に読み換えると、機序理解に役立つだろう。


アスピリンは水中でも急速に酢酸とサリチル酸へと加水分解を受けることから、その膨大な代謝活性を定義しようとする研究の大半はサリチル酸イオンに焦点を当てている。他のサリチル酸塩より強力なアスピリンの抗炎症性作用および鎮痛作用は、数々の臨床試験を経て60年以上前に十分に確立され、一般用医薬品および医療用医薬品の両方で広く知られるようになった。アスピリンの利点は一般に吸収効率の高さと胃腸への刺激性の少なさ、或いはサリチル酸塩よりも血漿タンパク質との結合力の低さに起因する。

サリチル酸ナトリウムとは異なり、アセチルサリチル酸は生理的条件下でアルブミンや他のタンパク質をアセチル化するだけでなく、タンパク質による陰イオン結合を増加させるという、Hawkins、Pinckard、Farr [11]による刺激的な実証により、長年認識されてきたアスピリンの特徴的な特性を新たに評価する必要が生じた。Scrippsのグループは、異化率の高いアセチル化ウサギ血清アルブミンが、アセチル化アルブミンに対する抗体形成を誘導することから、この発見がアスピリン不耐症やアレルギー反応に関連することを示唆している。

(※訳注)アスピリンは血清病(一般的な分類では「血清病様反応」※)を起こす。それはアスピリンの構造成分の何かに対して生体が抗体反応を起こすことを意味する。この記述は、アスピリン(アセチルサリチル酸)のアセチル基の部分が生体の血液アルブミンと結合して「アセチル化アルブミン」が生み出されると、生体は抗体反応を起こしてアレルギー反応や不耐症を起こすと言っている。つまりアスピリンは所謂ハプテン(不完全抗原)として機能していることになるが、検出されるのは抗アルブミン抗体なので、臨床医からすれば「アルブミンに対する自己免疫反応」としか映らず、その原因がアスピリンにあるとは考慮されない可能性がある。

※定義上、血清病は抗原が「動物由来」の場合に限られる為。更に、薬剤による臨床的に類似の症状は「血清病様反応(serum sickness-like reaction)」と区別される。だからメルクマニュアルは"狂犬病"ワクチンで血清病が起こることは認めるが、その他ワクチンや薬剤では明言されていない。だが60~70年代の免疫複合体疾患の論文を読めば、当時の科学者が抗原の違いを区別せずに一括りにしていることが分かる。要するに機序は共通しているので区別する意味はない。

アセチルサリチル酸がタンパク質をアセチル化し、陰イオン結合を変質させるという予想外の発見は、アスピリンと他のサリチル酸塩に見られる一部の差異を十分に説明する可能性がある。例えば、ニコチン酸テトラヒドロフルフリルによって生じる皮膚の紅斑と浮腫は、アスピリンでは消失するが、サリチル酸ナトリウムでは消失しない。この効果は、単回経口投与後数日間持続することから [21]、投与時に存在するタンパク質の永続的な変化が示唆される

本号でZettermmがレビューしているように、血小板凝集の研究においても、アスピリンとサリチル酸ナトリウムの間に同様の顕著な違いが証明されている。 Quickは、in vivoにおいて、1.3gmのアスピリンが正常集団の高い割合で出血時間の有意な延長をもたらすことを示したが、それ以上の用量のサリチル酸ナトリウムにはそのような効果はない [31]。O'Brienは、アスピリンがアドレナリン処理血小板からのADP アデノシン二リン酸の二次的内因性放出を阻害し、この二次的放出が凝集持続の原因であることを示したが、サリチル酸ナトリウムにはそのような効果はない [41]。この系においても、アスピリンは血小板の酵素に永続的な変化を引き起こすようである。なぜなら、その欠損は、健常人にアスピリンを単回投与した数日後、血漿中にサリチル酸塩が残存していない状態でも持続するからである。

(※訳注)アスピリンと云えば血栓系疾患のCOVID-19に対する血栓溶解剤として選択されている。血栓溶解=出血傾向だが、その機序はサリチル酸によるものではなく、「アセチル基」が血小板を永続的にアセチル化する為とのこと。サリチル酸が血液中から消失しても効果が持続しているのは、作用因子がアセチル基側であることの証拠ということ。つまり、「血栓溶解」はサリチル酸系薬剤の中でも、"アセチル"サリチル酸に特有の効果である。

タンパク質分子の共有結合的アセチル化による陰イオン結合の増加は、複数の効果をもたらすと予想される。タンパク質と遊離脂肪酸(FFA)アニオン 陰イオンの結合はフィブリノーゲン-フィブリンのような重要なシステムに変質を起こす可能性がある。フィブリノーゲンは通常、FFAとの結合によって不安定化し、FFAとの結合が増加するとゲル形成が誘導される。この系では、アセチル化タンパク質によるFFAの結合が増加するとフィブリン形成が変化する可能性があり、アセチル化フィブリノゲン自体のトロンビンに対する反応も通常とは異なる可能性がある[51]。

タンパク質をアスピリンとインキュベートすることで陰イオン結合が変化するのであれば、陽イオン結合の変化が証明されれば、臨床的に重要な陽イオンであるヒスタミンに対するアスピリンの効果に関する相反する報告の説明につながる可能性がある。

アスピリンによるタンパク質のアセチル化と陰イオン結合への影響は、アスピリンと他のサリチル酸塩の類似性よりも、両者の違いを説明する上で重要であると推測される。酸化的リン酸化の阻害などの主な作用は、すべてのサリチル酸塩に共通する2-ヒドロキシ安息香酸ラジカルに関係しているらしい

(※訳注)2-ヒドロキシ安息香酸=サリチル酸
→2-ヒドロキシ安息香酸は同じ物質のIUPAC名、サリチル酸は慣用名。
サリチル酸「塩」は構造に2-ヒドロキシ安息香酸が共通に含まれる成分で、この部分が酸化的リン酸化(ミトコンドリアの酸素呼吸)を阻害するらしい。

タンパク質のアセチル化の重要性を評価する第一歩は、代謝活性の調査において、アスピリンと他のサリチル酸塩の相対的活性を明確に区別することであろう。多くの重要な研究では、サリチル酸またはサリチル酸ナトリウムのみが用いられてきた。アスピリンと他のサリチル酸塩の相対的活性を調べることで、in vivoで証明されたアスピリンの特性が、in vitroの効果では十分に説明できないことが解明される可能性は十分にある。 アスピリンに特有な現象は、複雑な反応の主要な生化学的事象がタンパク質のアセチル化であるという新たな証拠につながるかもしれない。

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