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Chapter1. フィブリン研究史概説③

前回⇩の続編

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フィブリン近成分説の反証、微小発酵体の偽膜である証明/フィブリンにバクテリアの誕生

フィブリンは血液をホイッピングすると機械的に形成される。フィブリンが正真正銘の有機体であれば、乳汁と同様にビブリオへ進化する微小発酵体が存在する筈である。

その証明の為、エストールと私は、白亜と筋肉組織で微小発酵体の存在証明をした際の実験法を一部修正して実施した。馬鈴薯澱粉粉を調製した後にクレオソート処理しつつ長時間煮沸し、並行して空中胚種の侵入を阻止する為にクレオソート水に浸漬しておいた固形物質(フィブリン)を用意しておき、後者を取り出した瞬間に前者に注入した。

実験法は以下の通り。以下の条件の下、ホイッピングでフィブリンを入手した。

  1. 静脈切開直後の血液にクレオソートを点滴し、並行してクレオソートで洗浄しておいた金属線の束でホイッピング

  2. 入手したフィブリンをクレオソート水で洗浄

クレオソート処理した澱粉粉100gに対して新規に調製した湿潤フィブリン15gを注入後、容器(フラスコ)を密閉した後に30~40℃(86~104℉)に加熱したオーブンに入れた。筋肉組織の場合と全く同様、澱粉が徐々に液化し、経時的にバクテリアの出現が確認された。また、一般にバクテリアが出現する前に澱粉の液化が生じる様子が観察された。

これは観察された現象の全体図だが、動物の種や年齢、採血部位に応じてその現れ方に差が認められた。一般に若齢動物は、フィブリンが液化澱粉中で自己崩壊しつつバクテリアが発生する。液化の持続時間もまた多様である。

乳汁を沸騰させると凝固するのは周知の通りだが、これは微小発酵体が乳汁の沸点では死滅しないことを意味している。一方、白亜による澱粉の液化を阻止するには、白亜を湿潤状態で200℃(392℉)以上に加熱する必要があった。フィブリンの微小発酵体は100℃(212℉)にまで耐性がある。そこで、フィブリンを澱粉に注入する前に蒸留水で数分間煮沸した。すると液化が遅延し、沸騰時間を延長させると液化は停止するに至るが、依然としてバクテリアは発生し、これは常に同じ形態学的特徴を持つ。

証明の補完として、(エストール氏はこの現場を目撃した)酢母(可視的微小発酵体による植物膜の一種)と全く同様、フィブリンもまた類似条件下で乳酸・酪酸発酵を起こす事実を付言しよう。この事実は後ほど詳細に検討する。

こうした実験により、乳汁、筋肉組織、肝組織と同様にフィブリンにも微小発酵体が予存し、空中胚種の侵入無くしてバクテリアを発生させると結論された。

実験条件では、血液由来の微小発酵体が検出されただけであった。そこで静脈切開直後の血液自体からの発見に注力した。これは繊細な研究であり、後述する通り、本書全体のテーマに関ることになる。

ホイッピング法、凝血塊洗浄分離法(両者の調製法の違いは直に明らかになる)の何れかで得たフィブリンは近成分ではなく、微小発酵体で構成される膜と線維質である。即ち、化学的有機物ではなく、解剖学的・生理学的有機物(有機体)である。だがこれはフィブリンに微小発酵体が予存する間接的証明であり、バクテリアはフィブリン-澱粉混合物による自然発生の産物だと指摘されるおそれがある。何れにせよ、この物質の本質:偽膜を構成する微小発酵体架橋質 intermicrozymian gangueの解明や、微小発酵体とこの物質の定量的関係性もまた未解決である。そこで肝臓微小発酵体の単離例に倣い、これら微小発酵体の単離体の入手が望まれた。


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