![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/153207039/rectangle_large_type_2_e0039ad433c94f306b3a5f7200920903.png?width=1200)
スピロヘータは蚊で伝染する【9/365】
あまりにも毎日の発信が滞っていて、お前は最近何をやっているんだ状態なので日報的にその日に学んだことでも投稿しようと思う。私が今まで苦手としてきた習慣化への挑戦である。
私は基本的に怠け者である。だが怠け者が一念発起してしまった。言ったからにはやらねばなるまい。とりあえず何かしら投稿することが目的なので記事のクオリティは二の次だ。添付している文献を全文目を通せていないことも屡々あるが、とにかく毎日状況報告をする。それだけを目指すマガジンである。
横浜の図書館にいる。ここ最近スピロヘータのヒントが知りたくて野口英世を掘下げてばかりだ。せっかく横浜にいるのだから旧検疫所にでも行けば山ほど資料が見つかろうものを、相も変わらずPCに張り付いてロックフェラー研究所のデジタルアーカイブばかり読んでいる。
改めて野口英世を調べて思ったことは、世間の評価はだいぶ偏りが激しいなという感想だ。「出世欲剥き出しで成果を急ぎ、幼少期の火傷を馬鹿にされた反動で承認欲求の塊だった」だの、アダルトチルドレンの現代人が未熟な自己を勝手に投影しているだけにしか思えない。
つまり英世の偉大さは歯科に訊かないと分かんないのね。イワケンじゃ力不足だったなNHK。 pic.twitter.com/ushOWiQKVS
— MitNak (@Mit3279) September 4, 2024
「フランケンシュタインの誘惑」では、例えば狂犬病や黄熱の原因菌の発表の際、野口は「時間がない」と報告書にも周囲にも漏らしていたとのことだった。脚色塗れのNHKは、他の科学者に先を越されることや、富と名声への執着心からの発言だとふざけた「解説」をしていたが、先述の通り野口サイドの取材が欠けている。俄か知識の私だが、彼の周囲の人間の発言に当たれば全く違う野口像が見えてくる。
葛西勝彌. 野口博士のスピロケータに關する業績. 中央獸醫會雑誌. 1928;41(11):987-1002. doi:10.1292/jvms1888.41.987
先生は私の留学当時、即ち今から十年ほど前ですが、私に向かって「僕の学術的生命はあと十五年しかないから、これからできるだけ奮闘しなくてはならぬ」と言われたが、先生のこの決心は一面において不本意ながらも他人の世話などを焼く余裕がないという結果となり、従ってこれが当時日本から米国に渡った多数の留学生(私もその一人)などから、恰 も利己主義の権化の如く見られ、極度の不評を買うに至った原因となったのであります。
また、先生は「僕はある時期において真なりと信じたものは躊躇せずどしどし発表する方針であって、批判は総 て人の復試に委せている」と語られたが、前述の学術的余命十五年までという先生の決心から考え、また競争の激甚なる彼のロックフェラー研究所を舞台として活動しておられた関係からして、先生の最近は愈々 猛烈にこの邁進主義に至ったのであって、脇目も振らずにこの主義に精進されたればこそ、一個の野口先生が彼の多数な業績を残されるに至ったのであります。然しこの最後の言は幾多の大発見をされた偉大なる先生においてのみ許されるべきものであって、碌々たる吾人においては断じて実行すべきものではないのであります。
良くも悪くも初志貫徹で周囲から誤解されやすく、馬鹿から逆恨みされやすい性格だったと読み取れる。経歴に全く汚点がないかと言われればこの時代の倫理観(そして所属している研究所)からして考えにくいが、少なくともドヤ顔現代センモンカ様からの「有害な研究」などという"評価"は的外れだと思わざるを得ない。
![](https://assets.st-note.com/img/1725475097-4omgd8M0cUkRCvI3FlVPTDGw.png?width=1200)
最後に一言申し上げたいことは、先生は日本の医学および医学者を如何に見て居られたかということでありますが、かつて私に「僕は米国の医学や医学者は眼中にないが、日本の医学の素晴らしい勢いなのには驚いた。殊に日本の若い連中は恐ろしい様な気がするよ」と染々 話されたことがありますが、これに依って先生は日本の医学および医学者に対し内心如何に恐怖を感ぜられ、かつ敬意を沸っておられたかを知ることができるのであります。これは、先生が帰朝された際に親しく日本の医学界を視察されて、その進境と活気の予想外なのに驚かれたことや、世界大戦中日本の有為な医学方面の留学生が続々米国に流れ込んで、各大学研究所等で盛んに活動したのを見聞きされたことなどから痛感された結果だろうと思われます。
どう読み解いても日本の「未来」に心底期待を寄せていたとしか思えないが、逆にタイムマシンで現代日本を訪れたら失望の一言だろうななどと。
ということで、メディアが語る「科学」が如何に虚飾に塗れたもので、ドヤ顔センモンカが如何に薄っぺらい話しかしていないかを重々理解したので、従って彼の研究を論文ベースで再評価する必要があると考えた次第である。
野口の否定された研究と言えば一般的に
①梅毒スピロヘータの純粋培養
②狂犬病の病原体発見(※野口は細菌説を発表)
③黄熱の病原体発見(〃)
この3つが有名だ。
①はコッソリ受け継がれているし、何なら野口は翌年に液体培養にまで成功している。それに「Dr. スピロヘータ」とまで呼ばれた野口が培養したのは梅毒スピロヘータだけではない。十数種類のスピロヘータの培養に成功した上に、その中には新種の発見も含まれている。「細菌培養には根気が必要」だと文章に大和魂が滲み出る1930年代の細菌学文献には異口同音に書かれているが、いつの時代も早合点で半端な結論を出す人間はいるようだ。ということで①は限りなく真実だと考えている。
●参考
石原和幸, 奥田克爾, 高添一郎. 野口英世博士歯科学報論文と微生物学講座スピロヘータ研究の現在. 歯科学報. 2003;103(11):853-859.
https://ir.tdc.ac.jp/irucaa/handle/10130/779
●「文章に大和魂が滲み出る1930年代の細菌学文献」の例
鴻上慶治郎, 岩味操, 若林捷三, et al. 鮫肝油中に存する高度不飽和炭化水素Squaleneを生化学的に活性化するSqualinに関する医学的研究(第二報)~主として変異性結核菌に関する問題~. 結核. 1937;15(1):1-70. doi:10.11400/kekkaku1923.15.1
問題は②と③だ。個人的に狂犬病の病原体は要検証と考える。感染症学は基本的に病原体-病気の関係を一対一対応でしか考えず、例えば黄色ブドウ球菌 が歯周病菌 存在下で病原性が強化される関係性や、サテライトウイルス~B型肝炎にとってのD型肝炎~を例にした同じ細菌/ウイルス同士の共生・相互関係や、原虫 による細菌 の輸送といった異なる生物界同士の関係性も想定すべきなのに、「狂犬病=ウイルス疾患」と一度断定したら他の存在を一切考えない。「狂犬病がウイルス疾患である事実」は「野口の発見が虚偽」である証拠にはならない。後者の証明は野口個人の実験手順を否定せねばならない。
だが文献未読なので飽くまで憶測の域を出ない。そこでこの話を黄熱に当て嵌めようと思う。
黄熱の話は、1901年に米国の軍医ウォルター・リードが黄熱の蚊媒介を「証明」し、同時に細菌のサイズ以下の極小な病原体 が原因だと示唆したことに始まる。
![](https://assets.st-note.com/img/1725480417-fNMdkCRDEH8OSqvjI6lzbAnm.png)
「黄熱ワクチン=マックス・タイラーが開発」で等式ができてしまっているが、それ以前に"有志"ボランティアを募って黄熱ワクチンの人体実験をしたクズ野郎。
が、野口はこの説に反発して1918年より独自に病原体分離に取り組み、エクアドルのグアヤキルでの研究でスピロヘータ科に属す病原体の特定を報告し、Leptospira Icteroidesと命名する。
![](https://assets.st-note.com/img/1725497692-J1PB0thY9HFWXISo8cEGZuOg.png?width=1200)
1.「グアヤキルで流行する黄熱の症候学および病理学的知見」
2.「黄熱の伝染実験」
3.「実験的感染動物における症候学および病理学的知見」
4.「黄熱患者の血液接種後のLeptospira Icteroidesに対するモルモットの獲得免疫」
5.「Leptospira Icteroidesに関連する黄熱患者の血清の特性」
6.「Leptospira Icteroidesの培養/形態学/病原性/生物学的特性」
7.「黄熱患者および実験的感染動物の血液/組織/尿中におけるLeptospira Icteroidesの証明」
8.「グアヤキルの野生動物にいるLeptospiraの存在およびそのLeptospira IcterohemorrhageやLeptospira Icteroidesとの関係性」
9.「黄熱に関わる蚊」
10.「Leptospira IcteroidesとLeptospira Icterohemorrhageに関する比較免疫学的研究」
11.「Leptospira Icteroides感染動物の血清療法」
12.「実験的Leptospira Icteroides感染における化学療法 対 血清療法」
![](https://assets.st-note.com/img/1725499971-YZ14raLipB6nvuEIkAPSdxCs.png?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1725499971-w1QCAdrKRqe5Mm7yHcgSBvDT.png?width=1200)
一般史では、野口が研究に使用した"黄熱"患者のはずの血液は、現地臨床医の誤診により別の疾患 の血液が提供されたものであり、その可能性を指摘する周囲の声を無視して研究を続行した為に「誤った」結論に至ったとされる。残念ながら野口は黄熱を研究しているつもりでずっとワイル病を研究しており、実際の黄熱の原因はフラビウイルス属の黄熱ウイルス と後に特定された、という話だ。
![](https://assets.st-note.com/img/1725474944-vKPHCkyF73sGrQL0ERqdpg1Z.png?width=1200)
だが狂犬病で先述した通り、ウイルスと細菌を区分する行為は人工的で無意味である。なんせ全ての細菌には濾過性形態 が存在する。現代の知見で見れば当時の結論は大半が早合点である。とはいえ、この黄熱とワイル病取り違えエピソードは真実(※と暫定判断)だろうが、今回精査してみて、その話がどうでもよくなる程度には重要な知見が得られた。
Noguchi H. Leptospira Icteroides and Yellow Fever. Proc Natl Acad Sci USA. 1920;6(3):110-111. doi:10.1073/pnas.6.3.110
「Leptospira Icteroidesと黄熱」
米国科学アカデミー紀要 (PNAS)に掲載されたこの文献、1920年出版で一連の文献の総括的な位置づけにあるが、以下の記述がある。
Moreover, guinea pigs have been successfully infected with the spiral organisms BY MEANS OF STEGOMYIA MOSQUITOES, the vector in nature of the inciting microbe from man to man, and STEGOMYIAS fed on infected guinea pigs ARE CAPABLE OF TRANSMITTING THE ACTIVE MICROBE TO STILL OTHER GUINEA PIGS, which develop the symptoms and lesions described.
更に、自然界における人から人への病原性微生物のベクターであるネッタイシマ蚊によってモルモットへの螺旋型生物の感染に成功し、そして感染したモルモットを吸血したネッタイシマ蚊は他個体モルモットへ活発な微生物を伝染可能であり、これにより上述の症状と病変を形成する。
この記述の重要性を考えれば、野口が観察した疾患が黄熱かワイル病かはどうでもいい。この実験で最も重要なことは
スピロヘータが 蚊 で 伝 染 し た事実だ
何故これが重要であるか?
野口が感染実験で「蚊を使用している」事実である。
![](https://assets.st-note.com/img/1725507689-YeoaJ4HIZPzW5cfEhBw2b3VT.png?width=1200)
まず「フランケンシュタイン」は、病原体の感染対象にモルモットが含まれるか否かに焦点を当て、野口の実験の「感染方法」に言及せずミスリードしている。「"蚊が媒介することを実証した"他の研究グループ」とわざわざ"蚊媒介"を強調する表現から、"他の研究グループ"と"野口"の対立構造が連想され、恰も野口が黄熱の"蚊媒介"まで否定しているかの印象を受ける。だがDr.スピロヘータ は飽くまで黄熱スピロヘータ原因説を支持していたのであって、感染経路が蚊であることは否定していない。即ち、両者の対立は「未知の濾過性病原体」 VS 「スピロヘータ」であって、感染経路は共通見解を持っていた。
ここで事実と解釈を整理する必要がある。
・黄熱とワイル病は黄疸/出血/発熱 等の点で臨床症状が類似する
→(◎)事実
・黄熱の濾過性病原体は人間以外の動物には感染しない
→(〇)事実(と仮定)
・野口はLeptospiraで「黄熱」をモルモットに発症させた
→(△)臨床症状だけで黄熱とワイル病は区別困難
・野口はLeptospiraで「黄疸/出血/発熱」の症状を誘発した
→(〇)事実(疾患名を出さなければ)
・野口も感染実験にネッタイシマ蚊を使用した
→(◎)事実
以上の事実を洗練させていくと、以下の事実に集約される。
「野口は Leptospiraに感染して"黄疸/出血"を発症した動物を 蚊に吸血させて 他の動物に "同じ症状"を 伝染させた」だ。この点でこのLeptospiraは、黄熱かワイル病のどちらの原因かを不問にすれば、コッホ原則は満たしていると見做せる。
ここで疑問が生じる。ワイル病は蚊媒介疾患だったか?
レプトスピラ症(ワイル病)について
レプトスピラという病原体による感染症
・東南アジアや中南米に多い
・レプトスピラに感染した犬やねずみなどの尿からレプトスピラが排泄される
・菌が入った土や池、川などと体の傷や粘膜が接触することで感染する
・衛生環境の整備の進んでいる日本では感染者は少ない
・ヒトからヒトへの感染はない
・重症の場合をワイル病と呼び、全身の臓器に障害が起こる
いいなと思ったら応援しよう!
![MitNak](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/86489840/profile_46357f224a6cae419d54aadb0ac8042d.jpg?width=600&crop=1:1,smart)