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Chapter1. フィブリン研究史概説⑧(了)

⇩の続き

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フィブリンとフィブリン性微小発酵体による馬鈴薯澱粉液化理論

フィブリンもその微小発酵体も水に不溶である。ところで、ペイアンが馬鈴薯澱粉の特殊な状態を証明した。加水分解の後に膨潤し、同じく水に不溶となる。ではこれら不溶性物質は如何にして互いに作用し合い、馬鈴薯澱粉は液化し、フィブリンや微小発酵体は不溶性を維持するのだろうか?それは甘蔗糖の転化作用を持つ黴の事例と同じ説明をすることになる。この黴も空中胚種より水溶液中に発生しながら、微小発酵体と同じく水に不溶性であった。私は、この黴が組織的発酵体や微小発酵体より発生し、自身の内部でアルブミノイド様の可溶性物質を生成・分泌すると実証した。これが一般に可溶性発酵素と呼称される物質と同じ性質を持ち、またこの物質は不溶性の組織的発酵体と混同されていたのである。

斯くして可溶性発酵素の解剖学的起源を立証した私は、これらを生成物と生産者の依存関係として統合するべく、可溶性発酵素と称された物質にザイマス(Zymas)の名を付与した。以降、発芽大麦の微小発酵体によるジアスターゼ又はホルデオザイマスの生成、膵臓微小発酵体によるパンクレアザイマスの生成、それらの澱粉液化作用ならびに糖化作用が立証され、同様にフィブリン性微小発酵体が液化作用を持つザイマスを生成することが確立された。そして全てのザイマスはアルブミノイドに分類され、過酸化水素分解能を枯渇したフィブリン性微小発酵体が澱粉を液化しない事実から、フィブリン性微小発酵体より分泌されて過酸化水素により変容する物質こそ、澱粉液化作用のアルブミノイド物質たるザイマスだと言えるのである。

極希薄塩酸液/石炭酸水でのフィブリン自然変質理論

フィブリンを構成する二つの部分は水と極希薄塩酸どちらにも不溶性である。その澱粉液化作用にも同じ疑問が浮上する。これら二つの不溶性物質が如何なる相互作用の結果で、微小発酵体は不溶性を維持し、アルブミノイド物質は溶解するに至るのか?解答は同じである。微小発酵体が分泌するザイマスにより馬鈴薯澱粉は可溶化、変質するに至るのと同様、アルブミノイド物質もまたこのザイマスにより溶解、変質するのである。

この現象の説明は非常に単純である。極希薄塩酸が干渉する場合のみ、微小発酵体が分泌するザイマスは、アルブミノイド物質と塩酸との反応生成物である不溶性化合物に化学的変質作用をもたらし、一方の石炭酸水中では澱粉系物質の場合と同様にザイマスは不溶性アルブミノイド物質に直接作用する。ザイマスが作用する対象が、前者はアルブミノイド物質の塩酸塩、後者はアルブミノイド物質そのものであり、化学反応による可溶性生成物に部分的相異があるのは驚くに値せず、これは本書第二章で解説する通りである。斯くして、フィブリンの凝固塊が希塩酸や石炭酸水での溶解が阻害される理由が容易に理解できる。100℃の加熱は全てのザイマスの活性を破壊するように微小発酵体を不活化し、また間違いなく微小発酵体を架橋するアルブミノイド物質が特殊な凝固を受け、先述したゼラチン状の塩酸塩の形成を阻害する為である。

総括

フィブリンは近成分ではない。その微小発酵体が生成するザイマスの変化に相関して過酸化水素水を分解する。希塩酸や石炭酸水中~微小発酵体がビブリオ進化を受けない条件~であろうと、このザイマスは澱粉を液化させ、アルブミノイド物質を変質させる作用因子である。

端的に、フィブリンに内在する微小発酵体か単離体かを問わず、発酵後に生じる~即ち生理的現象である~過酸化水素水分解の作用因子ではなく、過酸化水素水による青酸の変化と同様、過酸化水素水を変化させる近成分の生産者に過ぎない。

フィブリンとその微小発酵体に関する知識を補完する為、エストールと私が覚書に記した実験を紹介する。この実験で我々は、純粋炭酸石灰が存在し、且つフィブリンの微小発酵体が持続的進化を遂げる限りにおいて、微小発酵体はアルコール発酵体、そして酢酸・乳酸・酪酸発酵体として作用すると結論した

実験の中から、大規模で結論の立証に最適な二つの実験を記すことにする。実験材料の割合は以下の通りである。

・馬鈴薯澱粉5部分(85%が水分の澱粉糊)
・純粋炭酸カルシウム1部分
・新規に調製した新鮮な湿潤フィブリン0.13部分

オーブンの温度を35~40℃(95~104℉)に設定した。
実験は5月22日に開始した。翌日、炭酸と水素の混合ガスの放出が始まった。8日目以降にガスの組成分析をした所、以下の通りであった。(単位%)

このように、混合ガス成分は反応の複雑さに応じて変化していることがわかる。

一つ目の実験は分析の為に9月10日に中止した。未変質の馬鈴薯澱粉が大量に残っていた。発酵生成物は以下の通りである。

絶対アルコール エタノール・・・・21$${cm^3}$$
プロピオン酸・・・・12g
酪酸・・・・150g
酢酸ソーダ塩の結晶・・・・650g
炭酸カルシウムの乳酸塩の結晶・・・・709g

更に大規模な二つ目の実験は乳酸塩が変質するまで継続され、生成物の分析は翌年の5月10日に実施された。この時点で実験開始から約1年が経過していた。未変質の馬鈴薯澱粉が一部残っていた。生成物は以下の通りである。

高級アルコール混合アルコール....78cc
プロピオン酸…80g
酪酸...680g
酪酸~カプリル酸までの脂肪酸...245g
酢酸ソーダ塩の結晶...725g

従って典型的な乳酸発酵の如く、乳酸を生成した発酵体は同時に石灰乳酸塩の乳酸を破壊する存在でもある。フィブリンの微小発酵体による生成物が、通常の乳酸発酵や特に酢母の生成物とは質も量も大きく異なる点に注視するだけでよい。後ほど私は以下の事実を主張しよう。微小発酵体の進化に由来するバクテリアは徐々に、しかし完全に消失し、最終的に微小発酵体と密接に結合した2,3の形態だけが残されるのだと。

だがこの場で強調すべきは、二種の実験で使用した新鮮なフィブリン200gの内、実験開始時点で最大0.2gの微小発酵体が馬鈴薯澱粉を劇的に変質させた事実である。従ってフィブリン性微小発酵体は強力な生理作用を備える発酵体である。斯くなる予備的研究が血液の第三の解剖学元素の発見に繋がったのである。フィブリンおよびその変質産物を完全に理解するには、ブシャルダがフィブリン希薄塩酸溶液にその存在を仮定したアルブミノース(albuminose)を捉える為の視座の何たるかを知る必要がある。その為には、アルブミノイドの知識を深堀りせねばならない。




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