Chapter1. フィブリン研究史概説⑤
前回⇩の続き
-1.フィブリン性微小発酵体は澱粉を液化し、バクテリアへ進化する
雄牛か犬の血液由来の(新鮮で湿気があり、水洗浄で酸除去済の)フィブリン60gに存在する微小発酵体は45~50℃(113~122℉)で馬鈴薯澱粉粉50gを液化する。液化は16時間で完了し、反応が長期化するとフェーリング試薬が還元される。条件が揃えば、雄牛に比して犬の方が液化が急速である。最後にバクテリアが出現しつつ別の発酵現象が開始し、液体は酸性となる。
微小発酵体の抽出過程における酸濃度の影響を評価する為、個別の操作でフィブリンを3:1000の塩酸で処理した。微小発酵体はその活性を一切喪失しなかった。
-2.フィブリンの微小発酵体は過酸化水素水を分解する
粗製物、エーテルによる脂肪分除去物、真空乾燥機での乾燥物のそれと同様、湿潤微小発酵体は過酸化水素水を分解し、酸素を放出させるが、入手元のフィブリンより遥かに強力なエネルギーを保有し、そのエネルギーは二酸化マンガンと遜色ない。私が検証した全ての動物の血液フィブリンの微小発酵体が同じ作用を発揮する事実を確認した。以上の事実に関する理論は後述するが、空中胚種に関連した反論を想定し、以下四つの事実に注意喚起する。
フィブリン性微小発酵体は
a)澱粉を液化して尚、過酸化水素水分解能を維持する
b)過酸化水素水分解能を枯渇させた後は澱粉を液化せず、バクテリアへの進化も観測されない
c)100℃(212℉)で煮沸すると澱粉を液化せず、過酸化水素水も分解しない
d)経時的に過酸化水素水分解能を喪失させる
しかし、エーテル洗浄で脂肪分を除去し、真空乾燥させ、密閉チューブ内で空気との接触が遮断された場合、過酸化水素水分化能は長期に渡り維持されるものの、エネルギーは徐々に喪失する。10年後には、検知可能な重量の変化もなくエネルギーが完全に喪失していた。これぞ微小発酵体の更なる重要な特質であった。
-3.フィブリンには生きた微小発酵体が存在し、その能力により極希薄塩酸に溶解する
テナールに追従するブシャルダの観察では、フィブリンは希塩酸に溶解する前に半透明で無色のゼラチン状の塊に膨潤し、長期に渡る浸軟の後に溶解するに至る。溶液化の速度が極めて緩慢な為、リービッヒは長らくフィブリンが希塩酸に不溶だと考えており、後述の通り、氏の筋肉組織のフィブリン(masculine/synthonine)と血液フィブリンの区別はこの観察に基づいている。一方、この件を検証したデュマが40℃(104℉)で溶解速度が急速に上昇すると証明した。曰く、この現象は時間と温度の関数である。この現象が同時に微小発酵体の活性の関数でもあると証明しよう。
まず、クレオソートやフェニック酸 が乳汁の酸敗凝固、そして微小発酵体のビブリオ進化を遅延させた件を思い出して頂きたい。フェノールもまた、フィブリンの極希薄塩酸への溶解を遅延させる。以下はその事実の証明である。雄牛の血液の新鮮な湿潤フィブリン塊600gを150gずつA/B/C/Dに4等分し、同じ容量のフラスコで以下のように処理する。
A:(2:1000)の塩酸2000cc
B:同量の塩酸とフェノール40滴
C:同量の塩酸とフェノール60滴
D:沸騰した蒸留水2,000cc
2分間100℃で煮沸して冷却した。発煙塩酸4㏄を加え、これも2:1000に希釈した。4つのフラスコに蓋をし、同じ密閉容器に格納した。温度を24~28℃(75.2~82.4℉)に維持した。A,B,Cでは、フィブリンはゼラチン状の塊に膨潤した。Dのフィブリンはゼラチン状にならず、鈍い白色のままであった。
A:ゼラチン状の塊は3日で溶解した。
B:4日で溶解した。
C:6日で溶解した。
D:フィブリンは膨潤せず鈍い白色を保ったままであった。空気と接触して尚、2週間が経過しても変化は見られなかった。
同じ温度での現象は時間の関数である。微小発酵体も同様である。何故ならフェニック酸が乳汁凝固を遅延させる如くに投与量に応じてフィブリンの溶解を遅延させ、更にフィブリンおよびフィブリン性微小発酵体による澱粉の液化と過酸化水素水の分解が煮沸で抑制される如くに、最終的にフィブリンの溶解もまた煮沸で完全に抑制される為である。
「フィブリンの溶解」なる現象が実質、フィブリンの溶液化する部分が受ける大規模な変容の結果だと証明されれば、微小発酵体に帰属する機能が更に明確となろう。この現象の理論も間も無く解説する。現時点では実験の発想の順序に従い、「極希薄塩酸への溶解」とされる現象がその実、特殊な条件下にあるフィブリンによる自然変質の様式の一つに過ぎないと言うに止めておく。では、フィブリンが起こす自然変質の通常の様式について考察する。