インプロの視点ーがんばらないこと②ー
こんにちは、ミテモの小林です。
この連載は、4月から入社予定の堀さんに、堀さんが愛してやまない「インプロ」について紹介をしてもらう記事になっています。
皆さんは「インプロ」をご存知でしょうか。インプロ、即興演劇を指す言葉ですが、堀さんはこのインプロを活用したワークショップの実践と研究を行っています。未だ私自身イメージのつかない、インプロ×人材育成の可能性について、まずは「インプロとは」という視点で紹介してもらいます。
第3回目の今回は、前回に引き続き「がんばらないこと」について。
私たちは普段、どちらかといえば頑張ることを要求される機会のほうが多いと思います。堀さんいわく、実は「頑張ろうとしているときは本来の力を出せなくなる」ということを前回説明してもらいました。今回はその理由について、改めて解説してもらいます。
堀さんのインプロについての愛があふれる記事をどうぞお楽しみください。
前回までの記事はこちら
▼第1回:インプロの視点ーintroductionー
https://note.mu/mitemohomeroom/n/n8a0e9b9e8ae9
▼第2回:インプロの視点ーがんばらないこと①ー
https://note.mu/mitemohomeroom/n/n16e76d639247
ミテモの堀です。前回は人はがんばろうとすると返って本来の力を出せなくなる、ということを考えました。今回はがんばろうとしている時、私たちの脳内で起こっていることについて、考えてみたいと思います。
人は生まれながらに創造的だしコミュニケーション能力も持っている
インプロでは、子どものことを「未発達の大人」とは考えません。反対に、大人のことを「萎縮した子ども」と考えます。子どもの頃、自由に絵を描いたり、ごっこ遊びをしたり、物語をつくったり、歌をつくったりした記憶があると思いますし、そういった子どもの姿を身近に見ている人もいると思います。
ですが、大人になるにつれてだんだんとそれが難しくなっていきます。社会性が身についたり、学校で正しい/間違っているという考え方を身につけることによって、自分が誰かから評価されること・見られこと・大きな影響を受けること・失敗することなどに対して恐怖心を覚えるようになっていきます。
検閲
この恐怖心から人は「検閲」を行います。例えば、大人の頭の中には検閲官がいて、いいアイデアと悪いアイデアを選別したりします。そうして検閲を抜けることができたアイデアだけが晴れて表現されます。この検閲は、長年の訓練のおかげでほとんど自動的に行われており、自分が検閲をしていることに多くは自覚的ではありません。
では、ちょっと実験してみましょう。
ワーク
計30秒程度のワークです。お近くに紙とペンはありますか?なければスマホやパソコンのメモ機能でも大丈夫です。もしくは口頭で誰かに話すという形でもできるので、その場合お近くの心優しい方に協力してもらってください。
紙とペンを用意された方は紙に書いて、スマホやパソコンのメモ機能などを起動した方は入力する形で、協力者を得られた方はその方に向かって話しかけるようにします。
30秒間で思いついた単語を何個でもいいので自由に挙げてみてください。
では、よーい、スタート!
ありがとうございました。いかがでしたでしょうか?個数は関係ありません。何を書いたかは関係ありません。考えていただきたいのは、単語を挙げていた30秒間、皆さんに起きていたことです。おそらく以下に挙げる現象が見られたのではないかと思います。協力者を得られた方は相手に聞いてみて下さい。書いていた方、入力していた方は、ご自分で考えてみてください。以下に挙げること以外にもご自分で気づかれたことがあれば、ぜひ教えて下さい。
・目が右上か左上を見る。
・「えー」「あー」という音が出る。
・紙、画面、相手から目を逸らす。
・貧乏ゆすりをする。
etc.
何を検閲するのか
上に挙げた行動が見られる時、おそらく検閲が起きています。では、何を検閲しているのでしょうか?私たちは大きく3つの理由でアイデアを検閲しています。
①・・・頭がおかしい、変な奴だと思われるんじゃないか
②・・・エロい人、変態だと思われるんじゃないか
③・・・ふつうだ、独創性がないと思われるんじゃないか
①では、たとえば「湯沸かしポッドをすりつぶして作った下剤」とか書いたり入力したり発言したりすると、この人は大丈夫だろうかと思われるかもしれないということから起きる検閲です。頭おかしい人認定されてしまうと、職場や家庭などから排除され、隔離される可能性があります。だから①に該当するアイデアは検閲します。
②は、たとえば「お尻」「乳首」などを書いてしまうと、「エロい人」「卑猥な人」だと思われるばかりではなく、ハラスメントになりかねません。そのため、②に該当するアイデアは思いついたとしても検閲します。
③は、アーティストなどクリエイティブであること目指していたり、求められている人に多く見られる検閲かもしれません。たとえば「りんご」「ゴリラ」「にんじん」などと書くと、平凡な人、独創性のない人だと思われるかもしれない。そのため、③に該当するアイデアは検閲します。
おわりに
もう一度、ご自分が書いた、入力した、話したものを振り返ってみてください。おそらく、協力者を得られた方が最も検閲を強くかけたかもしれません。それくらいに表現を他者に開くことは恐怖を感じます。ですが、単語をただ紙切れに書くこと、自分だけのデバイスに入力すること、心優しい友人に話すことに何の危険性もありません。それなのに、私たちは習慣的に検閲をしているために、今は検閲せずに自由に表現してもいいと言われても困難さを感じるのだと私は考えます。
今日やったワークの「がんばるバージョン」も興味があればやってみて下さい。つまり、「30秒でクリエイティブなものを挙げよ」というお題にしてみます。もしくは「30秒間ベストを尽くしてなるべく多くの単語を挙げよ」というお題にします。多くの方がより強く検閲をかけるのではないかと思います。もちろん、このお題の方燃えるっていう人もいると思います。どちらがいい/悪いではないです。
ちなみに「頭おかしいことを言え」「エロいことを言え」ってわけじゃないですからね(笑)大事なことは次の問いです。
あなたはどんな検閲をしていましたか?
あなたは検閲する前にどんなアイデアを思いついていましたか?
【参考文献】
キース・ジョンストン(三輪えり花(訳))『インプロ―自由自在な行動表現』而立書房,2012年(Johnstone, K. Impro:Improvisation and the Theatre. Theatre Arts Books, 1979.)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?