時の流るるはあなたと共に≪①≫
いくつもの季節が私達の間を通り抜けたのだろう?
『畝宗(せしゅう)…今年で何回目の桜になるかしら?』
『この桜だけは本当にあの日と変わらず綺麗に咲いているね。』
目を細め見上げた視線から舞い散る花びらは柔らかな光と共に爾杏(じあん)と手元の小さな茶碗を優しく包んでゆく。
50年前…
小さな田舎町で私と幼馴染みの畝宗(せしゅう)は暮らしていた。家が隣同士で年も近かったため私達は兄妹の様に育ちいつも一緒で夜寝るくらいがバラバラで一緒にいることが当たり前になっていた。
お互い思春期になっても一緒にいることは変わらなかった。特に気も遣わないし、お互い言葉にしなくても長年の勘で大体何を考えているのかが分かってしまい、下手に同姓といるよりもとても楽だった。余りにも一緒にいるのでよく周りから、からかわれるが、特に恋愛感情があるとかどうとかで見たことは一度もない。聞いてみたことはないがきっと向こうも同じ気持ちだろう?
私の町は裕福ではなく、自然と町の子供達は16歳位になるとみんな仕事をして生計に貢献していた。
私は、町に1つしかない診療所で雑用の仕事をしていた。カルテを整理したり、待合いで待っている人に簡単な問 診をしたり、非力ながらも先生に尽力を尽くしていた。
畝宗は、背が高く体が大きい割に手先が器用で細かい作業が好きな事から陶器の食器や花瓶やらを作っては少し大きな隣町に行き商売をしていた。
私も自分の仕事が休みの時には、畝宗にくっついて行き遊びがてら手伝いをしていた。
少なからず常連もいるらしい。私は陶器の事はよくわからないが畝宗が作る陶器はとても優しくツルツルしていて何より筆付けの上手さは文句のつけようがないほど繊細で綺麗だった。中でも特にお気に入りだったのが小さい茶碗でそれで飲むお茶は格別だった。
そんな畝宗を私は陰ながら誇らし気に思っていた。