咲くことはない(エリーザベト+兄)

「エリーザベト」

名を呼べば娘は喜びとは程遠い表情で振り返るが、すぐに柔らかな笑みを浮かべる。

「何ですか?お兄様」

「お父様と呼べと…まぁいい。今日は赦してやろう」

今日は娘の生誕日。
誕生日など喜んで祝う歳でもないが、私達にとっては忘れられるわけがない日だ。

「ふふ、覚えておいてくださったのですね…」

社交辞令のような礼を一つしてエリーザベトは私に背を向けた。

「待て。祝いの品を受け取っていけ」

律儀に止まる娘に二つ折りの板を手渡す。
手にした板を見てエリーザベトは失笑した。

「こんな日にまでお見合い写真なんて…素敵なプレゼント」

今度こそ振り返らない娘の背を見て私は笑う。

妹が板を開く事はないのだろう。

そうだ。
そのまま中身を見なければいい。

そして、見舞い写真の間に隠れた野薔薇の押し花に一生気づかなければよいのだ。

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